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【巨額利権】築地移転「延期」は、どこまで既定路線だったのか?

かねてからの懸案事項であった築地市場の豊洲への移転問題ですが、8月31日、小池百合子都知事が正式に移転延期を表明しました。この決定に対しては「英断」との声も多方面から上がっていますが、「周到な根回しの上に延期の表明にいたったのでは」と見るのは、メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さん。その理由を数々の「情況証拠」を挙げつつ詳らかにした上で、茶番劇にすぎないと斬り捨てています。

モニタリング未完了を利用して「立ち止まり」を演じた小池都知事

「立ち止まって考えなければならない」。そう言って当選した手前、小池百合子都知事が築地から豊洲への市場移転をひとまず延期することにしたのは、大方の予想通りだろう。

延期の理由について、小池知事は

  1. 安全性への懸念
  2. 巨額かつ不透明な費用
  3. 情報公開の不足

―の3点をあげた。これらについて、都民ファーストの視点から、新しく設置するプロジェクトチームで対策を検討するという。

だが、「延期」の決め手はつまるところ、「モニタリングの最終結果が出る前に豊洲市場を開場しようとしているから」である。だとするなら、最終モニタリングの数字が出て、問題がないと判断すれば即、ゴーサインということになりかねない。

土壌汚染対策法によって、地下水の汚染物質は環境基準以下に減らし、2年間にわたってモニタリングする必要がある。2014年11月18日にスタートし、ちょうど今年の同時期で2年になる。

直近の今年5月23日~6月2日の第7回モニタリングの結果によると、ベンゼン、ヒ素、鉛、シアン化合物、水銀のいずれに関しても、不検出か基準値以下の数値が出ており、おそらく小池知事とその側近は最終調査でも同様の結果を予測しているだろう。

2年間にわたる地下水モニタリングの最後の採水が11月18日。その数値が発表されるのは来年1月のうちといわれている。この間、豊洲の開場を延期すれば、「立ち止まって考えたい」という選挙期間中の約束をともかくも形のうえでは果たすことになる。

リオから帰国後の定例会見(8月26日)で小池知事は次のように語っていた。

開場予定日が11月7日、そして、モニタリングを2年間続け、最後の採水を行うのが11月18日から。つまり、結果が出る前に11月7日の開業ということに対して、私は大きな疑問を持っています。

おそらく、このときすでに「延期」の腹は固めていたに違いない。

そこから延期表明にいたる間、小池の影武者が、都議会のドン内田茂と自民党都連に接触し根回しをしたと筆者は見る。

最終のモニタリングで予定通り異常なしの結果が出れば、それを理由として豊洲市場を開場する、という見通しに、一定の合意をとりつけたうえで、「延期」の表明にいたったのではないだろうか。だとすればもちろん、茶番である

築地市場の移転は、東京オリンピックと密接にからんでいる。晴海の選手村と新国立競技場を結ぶ五輪のメイン道路「環状2号線」が築地の移転跡地を通って、建設されることになっているからだ。

まずは跡地に仮設道路をつくって今年末をめどにとりあえず全線(有明~神田佐久間町)開通させ、その後、地下トンネル建設を進めてオリンピック前に完成させる予定だ。

そして、完全な開通をオリンピックに間に合わせるには11月7日のオープンがタイムリミットだと、いわば脅されてきたのである。

環状2号線、築地、豊洲市場といえば、内田茂がらみの複数の企業が工事を受注している。ドンにとって、いわばおいしい利権の巣である。

週刊文春9月1日号によると、環状2号線の仮設道路整備工事を受注している中堅ゼネコン、ナカノフドー建設(千代田区)の大島名誉会長は2012年から3年間、内田が代表者になっている自民党東京都千代田総支部に12万円ずつ献金している。

地下トンネルの仕上げを受注している鹿島道路は、1992年、内田の長女の結婚式に当時の専務や東京支店営業部長が出席するなど、古くからの付き合いがあるという。

また、環状2号線の地下トンネル設備工事や、豊洲新市場のスプリンクラー工事を受注している防災設備メーカー、能美防災(千代田区)は、内田が代表の自民党東京都千代田区第二支部に2012年、14年の2回にわたり、計21万円を献金している。

こうした内田茂の利権に切り込もうという改革スピリットが小池にあるとはどうしても思えない。「延期を決めたことがこの問題に関する彼女のゴールであって、あとは全てプロジェクトチームの判断を尊重するという体裁で、豊洲への移転を進めていくつもりだろう。

築地移転に関する小池知事のこれまでの発言を思い返してみたい。

今いろいろと情報をさらに収集をいたしております。情報が入り乱れている部分もございますので、そこを精査した上で総合的に判断したいと思います。

精査する」「総合的に判断する」。小池知事はこれらの言葉を繰り返すが、政治家の「精査」「総合的に」はたいていの場合「逃げ口上ごまかしに使われる

甘利明は口利き金銭授受疑惑について「精査してから、きちんと申し上げる」と述べたが、いまだに精査した結果どうなったかについて、説明責任を果たしていない。

安倍首相は集団的自衛権の行使ができる「存立危機事態」とはどんな事態を指すのかについて「政府が総合的に判断する」としか語っていない。時の政権の意思しだいで戦争ができるという真実を覆い隠すための言葉づかいとしか思えない。

数カ月遅れで着工しても、環状2号線を五輪前に完成させることは可能だろう。だからすんなり「延期」は決まった。だが、問題はここから先だ。少しの間、延期すればすむというものではない。

そもそも、豊洲市場移転計画そのものに欠陥があった。移転する東京ガス跡地は、かつて石炭から都市ガスをつくっていたところだ。ガス生成の副産物である有毒物質が垂れ流され、長年にわたり土にしみ込んでいる。

いくら盛り土などの対策を講じようと、大地震の液状化現象など、何がしかの圧力がかかると地下汚水は噴水のように湧きあがってコンクリートを貫通し、地上に滲み出すものらしい。地中深くに危険が眠ったままなのだ。

移転賛成派の卸業者でもこの先、不安はぬぐえないだろう。利用者も心のどこかに汚染の心配をかかえていなければならない。

これは一体誰の責任なのか。歴代の都知事は何をしていたのか。

青島都知事時代に豊洲への移転の検討が始まり、石原慎太郎都知事が計画を決定、舛添要一都知事の時代に着工した。

計画を決めた石原慎太郎に責任があるのはもちろんだが、猪瀬、舛添のときにも、見直しはできたはずである。

雨漏りするほど築地市場の老朽化が進んでいるのは間違いない。50年近くも前から、移転の話が持ち上がりはじめていたとも聞く。

だがいまや、築地市場は「世界の東京」の魅力のひとつになっている。豊洲の新施設は規模こそデカいが、建設費が当初の予定より何倍にもふくれあがり、その裏にゼネコンによる談合の復活が指摘されている。

オリンピック施設と同じように資材や人件費の高騰がさかんに喧伝されるが、入札の落札率が90%以上になっており、談合が強く疑われる。

都民がなけなしのカネを出し合って集めた税金を、ゼネコンがむさぼり、そこに議員たちが顧問や役員として関わって報酬や政治献金を受け取る。そして担当部局の役人たちの天下り先にもなっているという構図だ。

本来なら、そうした利権にメスを入れるのが都知事選で小池百合子が公約した東京大改革の根幹であるはずだ。

築地市場の豊洲移転への対処は、小池の改革本気度を見る試金石であるわけだが、疑い深い筆者は小池が見せかけだけの「東京ミニミニ改革くらいで、お茶を濁しそうな気配を感じるのである。

小池は、東京オリンピックを成功させることが政治家としていちばん世間に評価され、栄光の道につながると、お得意の「人生マーケティング」を描いているだろう。

ところで、8月24日に開かれた内田茂の政治資金パーティーには菅義偉官房長官や自民党の二階俊博幹事長、細田博之総務会長ら政府・与党の超大物を含む国会議員約15人が出席し、内田を手放しで礼賛した。「地方議会の宝という声も飛んだ

出席者が撮影しユーチューブにアップされた映像で、石原伸晃が「内田茂先生にもうひと働きもふた働きもやっていただかないことにはオリンピックはなかなか成功に導けない」と歯が浮くようなお世辞を言う様子が確認できる。

浜渦副知事のクビを泣く泣く切ることで内田との関係を維持した石原慎太郎、最初から生意気だと内田に嫌われた猪瀬直樹、傀儡でありながら最終的には内田に捨てられた舛添要一。

このような過去の都知事たちの姿を見てきた小池百合子が、イチかバチかの勝負で獲得した都知事のイスを守るため、内田を懐柔する作戦に出ることはまず間違いないのではないか。

そのために、剛腕で知られる元副都知事、浜渦武生を参謀の一人に加え、都議会の内情を熟知する元東京都議会議員、野田数を政務担当特別秘書にしたのだろう。

野田は、iRONNA編集部・松田穣の質問に対し、内田茂について以下のように述べている。

2009年の都議選で初当選し、2012年5月まで、私は都議会自民党の所属議員だった。…2009年に落選したにもかかわず…役員留任が自民党都連の中で問題視され…石原慎太郎知事も加わり、石原伸晃都連会長以下、都連の国会議員は落選した内田氏を都連幹事長から外そうとしていた。…しかし、都議会議員の数が圧倒的に多く、多勢に無勢で…都議会議員の抵抗になすすべがなかった。(中略)当時内田氏を下ろそうとしていた石原都連会長と平沢勝栄都連総務会長は、もはや逆らえないとあきらめて、今や内田氏のいいなりになってしまった。

野田の右翼的思想、人格は別として、東京都議会が腐りきっているという彼の認識は間違いない。それを改革したいという意見にも大賛成だ。

だが、「多勢に無勢」の状況は今も変わっていない。かつては自民党政治に対抗する勢力をつくるため、細川護煕や小沢一郎のもとで政治を学んだ小池が、出世のために寄る大樹を求めて、いつの間にか自民党に鞍替えしていた歩みを考えると、自分にとっての損得勘定が先にくるのではないかと、筆者には思えてならない。

オモテで小池を支える若狭勝衆院議員は、元東京地検特捜部検事であったことを売り物にし、でっち上げが明らかになっている陸山会事件では小沢バッシングに便利なコメンテーターとしてテレビ各局に重宝されていた人物だ。彼も、「改革より損得」という印象が強い。

「東京大改革」が都知事選から続く小池百合子像再構築のための宣伝文句に終わらないようにしてもらいたいものだが、肝心の裏方や同志が浜渦、野田、若狭らの顔ぶれでは、本質的には内田と同じ穴の貉であり、「都民ファーストにつながるとはとても思えない

内田の利権にも配慮しつつ、「東京大改革」の看板だけは降ろさずに、多少の議会との軋轢を演出し、オリンピックと豊洲新市場、築地再開発が上手く進むにはどうすればいいか。小池がその複雑な方程式の解を求めているというのが実際のところではないだろうか。

image by: Wikimedia Commons

 

国家権力&メディア一刀両断』 より一部抜粋

著者/新 恭(あらた きょう)
記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。
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