米大統領選「報道」狂騒曲を振り返る
11月8日に行われたアメリカ大統領選挙の集計結果が、日本時間の午後4時30分過ぎに判明し、選挙人の過半数以上を獲得したドナルド・トランプ候補(70)が勝利宣言しました。この結果は今後のアメリカ経済や世界経済にどのような影響をおよぼすのでしょうか? 人気コンサルタントの吉田繁治さんは自身のメルマガ『ビジネス知識源プレミアム』で、今回の大統領選の開票速報をリアルタイムで記録したものを掲載。米大統領選「報道」の一部始終を時系列で追うとともに、なかなかトランプ氏の「当確」を出せない米メディアのジレンマについて、さらにトランプ大統領の確定で今後起きる大きな政策の変更について詳しく解説しています。
日本時間の午前10:33 株式市場はクリントン当選を予測
CNNは、終夜で大統領選を報じています。まだ、結果は見えない。予想では、クリントン支持46.8%、トランプ43.6%(リアル・クリア・ポリティック)ですが、分からない。
大手メディアでは、クリントン支持が57社、トランプがたった2社です。トランプが「訴える」と言う理由がこれです。不利な材料のみを報じるからです。
開票のインサイダー情報をもつヘッジファンドの株式市場では、ダウが$1万8150から$1万8332に上げて、クリントン当選を予想しています。
日本時間の午後12:35 トランプ優勢の動き
キーボードを打ちながら目が離せない。
トランプが相当に優勢。勝ったかもしれません。
株価の動きのように面白い。リアルタイム開票(44%)では、
・選挙人はトランプ167人、クリントン122人(28州:過半数は270人)。クリントンが伸びません。
・開票でもトランプ49%、クリントン47%で、トランプが有利。事前予想と、約5ポイントの差です。
・上院では共和党が44議席、民主党が42議席です(過半数は51議席)。
・下院では、共和党147議席、民主党105議席です。下院は、共和党必勝(過半数は218議席)。
開票結果は、州によって偏りがあるので、最後の大票田フロリダ(選挙人29人)まで分からないかもしれません。最大の票田カリフォルニア(選挙人55人)は、開票を見ずとも民主党です。
現在は、トランプの相当な健闘。CNNで見るクリントン陣営は、予想外の結果に、ショックで静まりかえっています。
クリントン支持は大卒以上ではほぼ60%、トランプは高卒以下で60%の支持が出口調査で明確です。本質が「所得格差選挙」だからです。
これは米国の分裂選挙でもあります。ユーロ危機の後を追う、米国の劣化の先取りかもしれません。
同時多発テロのあった2001年からの米国は、金融業(保険、銀行、ヘッジファンド)の超高所得で引っ張ってきたからです。クリントンは、豊富な政治資金(200億円)のウォール街右派です。トランプはウォール街左派です。
これは・・・トランプが勝つ可能性90%か。
大統領戦を決める鍵と言われるオハイオ州(州都シカゴ)でも途中開票で、トランプ53%、クリントン42%です。11%差の逆転は不可能でしょう。クリントン有利とされた僅差の州を、ことごとく覆しています。
いつも僅差で注目のフロリダ(選挙人29人)も、トランプ49%、クリントン47%です。ここで勝てば決まりでしょう。
大手メディアに「クリントン願望」の偏向がありました。投票の10%くらいを左右するかもしれないメディアのコントロールが今回は効いていません。世論調査で「鉛筆なめ」があったのでしょう。インターネットと、グーグルのYoutube、そしてポピュリズム時代になったためか。
現物より早く動く、米国ダウのCME先物は、$1万8360から$1万7800になり、$560(3.1%)と大きく下げています。
ヘッジファンドのポートフォリオ投資のため、ダウより大きくぶれる性格をもつ日経平均先物も、1万7720円から1万6745円へと975円(5.5%)の下落です。株価と逆に動く円は、1ドル102.97円です。
日本時間の午後12:42 オハイオでトランプ勝利
2.2%の円高/ドル安。
・WTIの原油も2.29%下がり、
・ドルと逆に動く金は2.24%上がり(ドルベース:$1303)、
・米国債の利回りは1.86%に上がり、米国債価格は下げています。
株式、金融市場は、トランプ・ショックで、大変なことになってきました。ロスチャイルド右派メディアの働きと予想が大きくはずれています。
あぁ、ついに、開票が終わったオハイオでトランプ勝利、トランプ54%、クリントン42%です。これでほとんど決まりました。12%の大差です。
圧倒的にクリントン有利だったバージニア(選挙人13人)はクリントン。しかし、得票では48%:46%と僅差でした。
この結果は、1995年以降の、ドルにマネーを集めてきたウォール街の金融ローマ帝国の終焉を含意します。
日本時間の午後1:12 クリントンの追い上げ
トランプの獲得選挙人が216人、クリントンが197人になって、クリントンが追い上げました(開票率60%:過半数は270人)。カリフォルニアが決まったからです。
同時に、米国の株価も少し戻しています。まだ流動的か。しかし、メディアはトランプ勝利の確率を94%に上げています。
61%開票の得票率でも依然、トランプ49%、クリントン47%で、2ポイントリードしています。
フロリダの29人をトランプがとりました。これでほとんど決まった。
クリントンとともに敗北したメディアからもトランプ当確が出る時間でしょう。CNNをウォッチします。日本では、トランプと言い続けていた木村太郎氏がTVに出ています。
トランプの獲得が242人、クリントンは209人、逆転は無理でしょう。
ブッシュのときの、フロリダ州での開票操作は、今回はありませんでした。
トランプは、防衛費の全額日本負担を言っています。現在は、思いやり予算という妙な言葉で、5年間で9465億円を拠出しています。
2016年は1899億円です。
安倍首相はクリントン派でした。案じることはない。当選すれば、満面の笑みで尾を振ってなびきます。トランプは、最初は俳優上がりと揶揄(やゆ)された1980年代のレーガンに似ています。変身するかもしれません。
トランプ当確を出さない米国メディア
米国メディアが、ここまで来てもトランプ当確を出しません。最後の抵抗か。
270人の必要数では、トランプが残り32名、クリントン61名でとても無理なのですが、何を考えているのか。
クリントン派のCNNは「まだ終わったわけではありません」。もう終わっていますけれど・・・未練。
24時間取引のダウ先物は、4.9%下げました。同時多発テロの9.11以来の、1日の下げです。現物市場では、$1万8332です。NYは夜間なので下げていません。
日経平均先物(シカゴCME)も1万6600円。同じ時間の東証では1万6246円、前日比で925円(5.39%)も下げています。
米系ヘッジファンドが、必死に売り、日銀が買い支えです。売りが大きく勝っています。
あぁ、午前の動きを見て、午後1時から始まることが多い日銀の買いで、200円上げましたが、また下がるでしょう。円に先物は101.5円に上がりました。1ドル100円を割るか。ヘッジファンドが、日本株を売って、円高ヘッジのため、円先物を買っているからです。
日経平均は、お昼をはさむ、たった2時間で、暴落と言っていい下げです。時価総額では、一瞬で27兆円が消えました。昨日までは、クリントン勝利として、上げていたのです。
トランプの選挙人獲得数が、244人に上がりました。あと26人。
日本時間の午後2:33 米メディア当確を未だ出さず
まだ、米国メディアは当確を出しません。
大手メディアの幹部、ウォール街の銀行CEO、ロスチャイルド右派、そしてFRB、米国政府と、政府と一体で政策を起案する民主党系シンクタンクに相当な混乱が起っていますね。
米国の、オバマケアを含む内政政策、アラブ、対中、対日を含む世界外交、そして軍事、金融戦略を、議員を通じて作っているシンクタンクは、米国では政府と学閥の牙城になっています。
インテリ階級の右往左往
トランプへの「遁走」が起こるでしょう。米国では、高級官僚3000人は、政権の移動とともに、職を失うからです。
戦国時代の、城取りと同じものが、米国大統領選挙です。
外交でのポイントは、共和党系のネオコン(米国の最大産業である政産軍の複合体)と結びつくかどうかです。ブッシュのときは一体でしたが、今は、共和党の内部分裂で、トランプとは離れています。イスラエル系はどう変節するか。
メディアの出演者も急に、非難していたトランプを讃え始めました。ゲンキンです。
米国と、英国、フランスには、インテリとエリート階級が現存します。
英国と欧州は、学閥からの階級社会です。これらの階級は、ほぼ全員がクリントン支持でした。
日本時間の午後2:49 開票がなぜかストップ
トランプが244人、クリントンが215人になりました。
外為市場では、日銀が慌てて円を売って、ドルを買っています。
このため1ドル101円から、102円付近にまで戻りました。1円の動きですから、5000億円くらいの緊急介入でしょう。日経平均も1万6230円から1万6375円に戻しています。
それでもまだ、前日比919円安です。円は2円77銭、2.62%高です。
下院の共和党勝ち(227議席:過半数218議席)に続いて、上院でも、共和党49議席(過半数51)、民主党47議席です。ここでも勝っています。
マンハッタンは午前1:30。この時間に、両陣営の群衆が街に出ています。
90%以上も開票されたのに、残りの州の開票が、なぜかストップしています。それぞれ1%程度の微妙な差です。米国の良心を信じます。
16年前のフロリダ州のように、最後の操作を加えるのか。ここまでの大きな差があっては、とても無理だと思いますが・・・米国人の開票現場の良心を信じます。不在者投票の開票だそうですけれど。
じゃ、ほぼ同じ割合の、他の州の不在者投票はどうしたのか?
米国は、大きなことでの「陰謀」の国でもあります。ケネディ暗殺以降、ひとつひとつは言いませんが・・・。
トランプがアラスカ(選挙人3人)を加え、264人(過半数まで6名)に増え、クリントンは215人です。決まってしまっています。
ペンシルベニア(選挙人20名)でもトランプが1ポイントリードでとるでしょう。
あぁ、トランプが266人(あと4人)、クリントンは218人(あと52人)です。ダウは、少し戻しました。買い戻しか。
クリントン陣営が絶叫しています。「まだ、明日がある!」
あれ、終わったはずの、ペンシルベニア州の開票結果(選挙人20人:トランプ勝利)が、戻っています。トランプが20人減った。変です。98%だった開票が85%に戻った。不在者投票の袋が見つかったという。変なことですが、これもアメリカ。
日本時間の午後3:38
・激戦州のペンシルベニアでトランプ勝利
日本時間の午後4:32
・ウィスコンシン州でトランプ勝利
日本時間の午後4:32 米メディアがトランプ「当確」を報道
あぁ、APとウォールストリートジャーナルは、トランプ276人を獲得と発表。勝ちました。もう、無理でしょう。クリントンは218人です。
日本時間の午後4:50 トランプが勝利宣言
「全国民のための大統領になる」と述べ、大統領選での勝利を宣言した。
トランプ大統領の確定で、今後起きる大きな政策の変更
トランプが大統領になり、上院、下院でも共和党が過半数を占めると、民主党オバマの政策に、大きな変更が加わります。
(1)オバマケアの終焉・・・オバマ政権は、政府支出を増やして、日本の国民皆保険のような、医療保険にすることを目指していました。共和党が反対していたものです。無保険者が4700万人と言われます。
トランプが反対している、オバマケア政策は終わります。米国の医師も、診療費が減ると反対していました。
(2)TPP政策の終焉・・・米国は、産業のグローバル政策の一環として、TPPの国会批准を目指していました。わが国でも、政治問題になっています。特に農作物の、貿易自由化です(関税の制限)。
これも終わります。安倍政権は、どうするのか。
(3)FRBの金融緩和の停止・・・FRBは、3度のQE($4兆:400兆円)を維持しています。国債の満期が来ると、その分の国債を買い上げて、MBS(住宅ローン担保証券)の配当分も新たに、MBSを買って、残高を維持しています。
15年12月に、0.25%の利上げを行っただけなのです。08年以来の金融緩和は、持続しています。
トランプは、FRB議長のイエレンを「恥知らず」と断じて、首をすげ替えると言っています。実際に行うことはないでしょうが、「FRBの金融緩和の7年」は終わります。米ドルの金利は上がり、国債は下がって、ドル安です。円高になります。
(4)資源価格・・・資源価格も下がるでしょう。
(5)金価格は、ドル安に向かうとドル価格が上がります。しかし円高になるので、円価格はさほど上がりません。
金を買うことは、50%は円を売ってドルを買うことと同じです。
ポートフォリオで、ドルでヘッジされるのが、円で金買いです。
金価格はドルベースで決まるからです。
円安になって、ドルも下がれば、金価格は高騰しますが、円安の場合はドルが上がるので金価格は下がります。金価格上昇と、ドルの下落のどちらが大きくなるか、です。
(6)日米安保条約の見直し(廃止)・・・トランプは、日米安保条約が、米国が日本を守るだけの、片務条約と言っています。これは、憲法では交戦力がない日本に、軍国化の蓋をするものでしたが、廃止に向かう可能性も出てきます。
日本への米軍の展開の本当の目的は、日本を核の傘で守ることではない。米国の「前方展開」(海外に基地をもち、国内での戦争を防止すること)ですが、トランプはこれを理解していないようです。
image by: lev radin / Shutterstock.com
メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』から一部抜粋
最新かつ普遍的なビジネスの成功原理と経済・金融を、基礎から分かりやすく説いて提供 ●時間がない、原理と方法の本質を知りたい、最新の知識・原理・技術・戦略を得たいという方に ●経営戦略・経済・金融・IT・SCM・小売・流通・物流を、基礎から専門的なレベルまで幅広くカバー。初月無料です。
著者/吉田繁治
東大フランス哲学専攻。経営と情報システムのコンサルタント。各社の経営顧問を歴任。戦略的システム開発でシステムデザインを担当。毎週届くメルマガの情報量は圧倒的で、その質・量ともにタイトルの「ビジネス書5冊を超える」の言葉に偽りなし。
<<登録はこちら>>