MAG2 NEWS MENU

トランプ当選で再浮上した「中国が覇権国家になる」という悪夢

17日にニューヨークでトランプ次期大統領と会談し、「ともに信頼関係を築いていくことができると確信」したという安倍総理ですが、事はそう簡単に運びそうにありません。無料メルマガ『石平(せきへい)のチャイナウォッチ』によると、中国を代表する国際政治学や米国研究の専門家たちは、新大統領が主張するアジア戦略の転換は中国にとって大きなチャンスとなる可能性が高いとの見方を示し、トランプ氏の当選をおおむね歓迎しているとのこと。石平さん自身も「日本にとっては悪夢である」との悲観的な見解を記しています。

アジアに混乱もたらすトランプ大統領の登場…中国にはチャンスだが、日本には悪夢だ

今月9日午後、トランプ氏の次期米大統領当選が確定した直後に、中国の環球時報は「九大専門家」と称する9人の国内専門家を招いて「トランプ大統領」に関する座談会を開き、その内容をネット上で公開した。

その中で、中国を代表する国際政治学や米国研究の専門家たちは、トランプ氏の経済政策が中国の対外貿易に大きな挑戦をもたらすだろうとの警戒感を示した一方、トランプ政権の外交政策やアジア戦略に対してはおおむね好感と期待を寄せている。

復旦大学国際問題研究院常務副院長の呉心伯教授は、トランプ氏がオバマ政権以来のアジア重視のリバランス戦略に対して「調整」を行う可能性が大だから、中国に対する米国の戦略的圧力は低減するであろうとの観測を行った。

現代国際関係研究院・アメリカ研究所の達巍所長もそれに同調しトランプ氏の政策は日米同盟日韓同盟の弱体化を招きリバランス戦略の破壊」をもたらすのではないかと期待感をにじませた。

外交学院国際関係研究所の李海東教授に至っては、トランプ政権下で中国と紛争しているアジア諸国は米国からの「強力な支持を失う」ことになるから、アジア太平洋地域は今後「中国の実力と影響力が急速に上昇する時期を迎えるだろう」と豪語するほどの興奮ぶりである。

9人の専門家のうち、トランプ氏の外交政策が中国に「有利」だと判断したのは5人である。そこには彼ら自身の期待的観測も含まれているだろうが、まったく根拠のない論調でもない。

確かに、アジア外交、貿易問題、安全保障などに関するトランプ氏の従来の主張がそのまま米国の政策となれば、中国の進める覇権主義戦略を利するようなことは多くあろう。

トランプ政権が米国伝統の孤立主義に回帰し、アジア太平洋地域に対する政治的・軍事的関与を弱めることとなれば、それこそ、米国の影響力を排除して南シナ海を支配し、アジアの覇主になろうとする中国の思うつぼだ。

トランプ政権になると、これまで日米両国が苦心して作り上げようとしたTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)がご破算になる可能性が非常に大きいAIIB(アジアインフラ投資銀行)を立ち上げて中国中心の経済秩序をアジアで構築しようとする習近平政権にとって、それは願ってもない好機となろう。

そして、ジャーナリストの木村太郎氏が指摘しているように、「日米同盟の負担をやめたい」のがトランプ氏の「本音」であるならば、彼の政権の下で日米同盟が弱体化する可能性が十分にあるし、沖縄からの米軍基地の撤退という衝撃的な出来事がまったく起きない保証はない。

現に、トランプ氏当選の当日、基地反対の翁長雄志沖縄県知事はさっそく「期待したい」と表明した。万が一、沖縄から米軍基地が撤退するようなことが現実となれば、一番喜ぶのは習近平国家主席であろう。アジア制覇の最大の障害が一挙に取り除かれるからである。

もちろん、上述の中国人専門家の何人かが指摘しているように、トランプ氏の今までの主張がそのまま新政権の政策や戦略となってしまうとはかぎらない。しかしトランプ大統領の登場は確実に、アジアの国際政治と安全保障に大きな不確実性と混乱をもたらすに違いない。そして現存の秩序の破壊を狙う中国にとって、不確実性と混乱こそは乗じるべき大きなチャンスとなるのである。

習近平政権にとってのチャンスは同時に日本にとっての悪夢であるから、いかにして状況を変えていくのかが日本にとっての課題となろう。

 

石平(せきへい)のチャイナウォッチ
誰よりも中国を知る男が、日本人のために伝える中国人考。来日20年。満を持して日本に帰化した石平(せきへい)が、日本人が、知っているようで本当は知らない中国の真相に迫る。
<<登録はこちら>>

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け