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日本人の「おもてなし自慢」の背景にある優越感とコンプレックス

開催地が問題になっている東京オリンピックですが、誘致プレゼンテーションのときに「おもてなし精神」強くアピールしていた日本人の心理について『心をつなぐ英会話メルマガ』の著者・山久瀬洋二さんが分析しています。

今週のテーマは、

日本人の『おもてなしの精神』って本当に海外に売り込めるのですか?

です。

東京オリンピックが近づくにつれ、日本をどのようにPRするかと、多くの団体が取り組んでいます。ただ、このところ、とても気になることがあります。それは、オリンピック招致の頃から、やたら日本人の「おもてなし文化」や、伝統工芸での「匠の心」などといった事柄が、大げさにアピールされていることです。

最近地下鉄で、「東京はミュージアム」と題して、東京という都市自体が日本人の「人を気遣う心」の生きたミュージアムだという趣旨の広告を目にしました。人々がきちんと整列をして電車に乗る様子、渋谷の交差点ですれ違うとき傘をすぼめてゆずり合う人の姿などが動画で紹介され、日本人の人を思う心をアピールしているのです。実は、こうした取り組みにうんざりしている外国人が多いことに気づいている人は意外と少ないようです。

冷静に考えてみましょう。自分が何かよい行いをしたとします。そうですね、通勤電車でお年寄りに席を譲ったとしましょうか。その行為をあなたは人に自慢して、「私の人を気遣う心の美しさ」と言ってまわるでしょうか。

また、もし自慢したら、それを聞いた人はどうリアクションするでしょうか。そんな、恥ずかしくも醜いPRが最近目立ちます。どうだ、日本はすごいだろうというような。

そもそも、日本には謙遜とか謙譲の精神といった美学があったはずですが、それをあたかもかなぐり捨てたかのような、おもてなしの素晴らしさ、日本文化の素晴らしさの押し売りが続いています。

「そうじゃないよ。日本人は自己PRをしないから、海外で自らの意図を伝えられないじゃないですか」と反論する人がいるかもしれません。それは大きな誤解です。

確かに日本人は主張することが下手で、自らの意思をはっきりと相手に伝えないことで、国際社会で損をしています。だからといって、国際社会で自らの自慢話をとうとうと語っても誰も聞いてくれません。そうではなく、一つ一つのセールスポイントを客観的にネットやブログ等で「描写」してゆくべきなのです。

ここで、「描写」(description)と敢えて書いたのは、主観を押し付けるのではなく、読み手に発見してもらうように、主張を抑え、客観的な情報として人々に伝達する工夫が必要なのです。また、大切なこととして、海外の人が求めているサービスや日本で体験したいことが何なのかという個々のニーズを察知し、それに即応できるシステムを構築することも急務です。自分で自慢して空回りするのではなく、相手から来るボールを的確に受け取り、着実に相手のストライクゾーンに返してゆくことが求められているのです。

そもそも、日本人の「おもてなし自慢」のメンタリティの背景には、「日本人がそうしたことに優れている」という優越感やコンプレックスが見え隠れしています。

戦前戦後を通じていわれてきた西欧へのコンプレックスが、21世紀になってねじれた形で日本人の妙な優越感につながっているように思われます。海外にどのように見られているかを伝統的に気にする日本人が、海外からよく見られたいと焦った末に、こうした行為にでているのかもしれません。

自らをしっかりPRするためには、ロジックも必要です。海外の人が求めるものがそこにあり、だからこうしたサービスを提供しようという論理性があれば、海外の人はちゃんと耳を傾けてくれるはずです。これから、ますます海外からの訪日客は増えてゆくはずです。そうした人たちが嫌な思いなく日本を楽しみリピーターになってもらうためにも、おしつけではなく、痒いところに手が届くニッチなニーズに見合った対応を考えましょう。

そして、日本人が日本人同士で満足している「おもてなし」が海外の人には行き届いていない事例も山ほどあることを最後に強調します。ある意味で、日本は日本人にとってはとても便利な国ですが、外国人にとっては不便極まりない国なのです。

Wi-Fiの不便な国。緊急なときに英語で適切な情報を取れない国。どこに外国人でもキャッシングできるATMがあるのかわかりにくい国。そして何よりも今でも外国人お断りという不動産や宿泊施設などがまかり通っている国。

こうしたことにおいては、日本は「おもてなし後進国」なのです。

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