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【書評】嫁より早死にするつもりの男性が陥る老後の孤独地獄と罠

深刻な高齢化社会の解決策が見出だせない中、年を追うごとに増加し続けているのが「独居老人」ですが、今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』編集長の柴田忠男さんが取り上げているのは、そんな「ひとりぼっちで老後を過ごすお年寄り」を描いた1冊。「保証人問題」「取り残され症候群」など、解決すべき問題は山積のようです。


老後ひとりぼっち
松原惇子・著 SBクリエイティブ

松原惇子『老後ひとりぼっち』を読んだ。白い表紙に墨文字だけというシンプルで寒々しいデザイン。老後の一人暮らしもいいもんだと語る本かと思っていたが、まさかの真逆であった。筆者はシングルライフを謳歌してきた。家族という煩わしさと喜びがない代わり、自由があった。しかし、その「ひとりの自由」は、突然「ひとりの不自由さ」となって襲いかかってきた。老後の「おひとりさま」を深刻な困難に陥らせる、大きな社会問題にぶち当たったのだ。老人の貧困化はよく知られている。見落とされていたのが、「保証人問題である。老後で初めて気がついた、とんでもない事態であった。

住宅を借りるとき、不動産屋は身元保証人を要求する。高齢者に貸すと、死んだら困る火事を出されたら困るなど、不都合なことが起こりそうなので貸したがらない。病院、有料老人ホーム・介護施設などでも、身元保証人を要求する。「成年後見センター・リーガルサポート」が2014年に全国603か所の施設(病院、介護施設)を対象に実施した「身元保証」に関するアンケートによると、「身元保証を求めますか」の質問に対して「求める」と答えたところは、病院では95.9%介護施設では91.3%、「身元保証人が立てられない時は、利用を認めない」と答えたところが病院22.6%、介護施設30.7%であった。

保証人が見つからないときはどうすればいいか、との質問に約6割の病院・介護施設が「成年後見人に保証を求める」と回答してきた。成年後見人とは認知症などにより本人の判断能力が落ちてきたときからの仕事である。本人が100歳超であろうとも、認知症が始まらないと後見人の仕事は始まらない。意味ないではないか。保証人がいないときはお断りということだろう。法律上は、病院や施設に入る際に保証人がいなくても問題はないのだが、実際には保証人要求があたりまえになっている。人質をとらないと事が進まないこんな悪習慣はどこからみてもおかしいが、これが罷り通っている。どうすればいいのか。

「ひとり」に群がる身元保証ビジネスがある。この20年間で100以上の民間事業者・法人が参入している。NPO法人りすシステム、NPO法人きずなの会、公益財団法人日本ライフ協会などが大手である。しかし、日本ライフ協会は高齢者委託金2.7億円を流用、公益認定を取り消されて2016年に破綻した。本来は行政でやるべきことを、法人が担う時代が来たといえなくもないが、これは人助けではなくビジネスである。「地獄の沙汰も金次第」ということわざを思い浮かべる。利用を考える人は、対象法人についてよほどの研究が必要である。

男は「老後ひとりぼっち」は関係ないと思っている。「俺は女房より先に死ぬからと思い込んでいるからである。頭の中には女房に先に死なれる発想はまったくない。男のひとり老後の知識と心構えがないと、多くは取り残され症候群に陥り、孤立してつらいことになる。男が「老後ひとりぼっち」を自分のこととして捉えて、保証人習慣をはじめとする、日本の福祉の問題点に声をあげないと何も変わらない。「男ひとりぼっち」と「女ひとりぼっち」は大きく違う。未亡人はいきいきとしている。妻を失った男からは、なにやら孤独死を思い浮かべてしまう。女性は経済力さえあれば怖いものは何もないらしい

18年後の2035年には、65歳以上のひとり暮らしは約770万人にふくれあがるという推計がある。「老後ひとりぼっち」は、男こそが真剣に自分のこととして考えなければならないテーマなのだ。次世代の人が生きやすいように、他者を頼らないでも生きられる社会に改革していく義務が、男にはあるとわたしは思う。この本の最終章は、「悲惨な『老後ひとりぼっち』にならないために─今から押さえておくべき20のこと」がある。ごく当たり前だったが。

編集長 柴田忠男

 
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