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【書評】徳川幕府は何を守るために、鉄砲の製造を禁止したのか

信長の鉄砲隊は、ヨーロッパの強国を一蹴できるほどの力を持っていたという事実をご存知でしょうか。ところが徳川幕府は鎖国とともに鉄砲の製造を事実上禁止してしまいます。一体なぜ? 無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんが紹介する一冊の書籍に、その答えが記されています。

バカが多いのには理由がある
橘玲・著 集英社

橘玲『バカが多いのには理由がある』を読んだ。最初に「バカ」の定義がある。

本書でいう「バカ」は、ファスト思考しかできないひとのことです。それに対して賢いひとは、訓練によってスローな思考が身についています。

って、よく分からないが、著者はもちろんスローな思考が身についたお方であろう。ファスト思考はわかりやすくて快適だが、直感では解けない問題に遭遇したときにはスロー思考が必要となり、ひとはそれを無意識に避けようとする、のだそうだ。我々はみんなバカだけど、それでも「バカ」と「利口」の違いはあるそうだ。もちろん著者は後者なのであろう。

この本は『週刊プレイボーイ』誌に掲載したコラム「そ、そーだったのか!? 真実(ほんとう)のニッポン」を再構成したもので、その時々の政治や社会問題について思ったことを、筆者のいう進化論や政治哲学を背景に、マスメディアと異なる視点で提供したという、重くも軽くもないエッセイである。おおむね理解できるが、同意できないものも少なくない。初出誌の読者を舐めている観もあって、書籍にまとめるならもっとていねいに手を加えて、著者なりの一貫性を出したほうがよかったのではないか。嫌いな言葉だが「上から目線は一貫している。可能な限り直感を捨て、ゆっくり考えよ、といわれてもなあ。

人類史上日本人だけがなしとげたスゴいこと」は興味深い記事。1575年、長篠の戦いで信長の鉄砲隊は、武田軍の騎馬隊を殲滅した。その12年後、フランスのアンリ4世が銃火器を使って「歴史的」な勝利を収めたが、鉄砲隊はわずか300人だった。ということは、少なくとも陸戦においては、16世紀の日本はヨーロッパの強国を一蹴できるだけの圧倒的な軍事力を有していた。1543年、種子島に鉄砲が伝来する。10年後には日本中の鍛冶が種子島銃を大量に生産した。日本は鉄の産地であり、極めて高い冶金技術を持っていたからだ。ところが、徳川幕府は鎖国と同時に鉄砲の製造を事実上禁止してしまう。

鉄砲を捨てることが「武士道を守る絶対条件だった。強大な軍事力を放棄し伝統社会に戻した。このことは、冷戦時代の欧米の研究者の注目を集めたという話。記事中、長篠では3,000人を3分隊で配し、騎馬隊に1,000発の銃撃という表現がヘンだが、まあとにかく世界一の軍事大国だったことは確か、それを放棄したのも確か。面白かったが、参考文献がある。ノエル・ペリン『鉄砲を捨てた日本人』(中公文庫)。出典明示は10数件あるのはフェアだが、鉄砲の件は多くを出典に拠っているようにみえる。なにか、自分で発見したようなタイトルだが。バカに属するわたしは、この本をそうとう胡散臭いと思う。

※ 次期学習指導要領の改定案では、小中学校の社会科で「鎖国」の表記をやめ、「幕府の対外政策」に改める。中学歴史でも「聖徳太子」を「厩戸王(うまやどのおう)」に変える(新聞報道)。

編集長 柴田忠男

 
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