旧国鉄が民営化して30周年となる節目の年ですが、朝日新聞の報道によると、JR北海道とJR四国の2社は現在、鉄道ネットワークを維持するのが厳しいほど経営危機に瀕しているようです。アメリカ在住の作家で、鉄道事情にも精通したジャーナリストの冷泉彰彦さんは、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、JR四国の困窮はその立地と無計画な国土計画の失敗にあると指摘、JR四国の再建は難しいとの見方を示しています。
「北海道とは違うJR四国の窮地」
朝日新聞(電子版)によれば、経営危機を公表しているJR北海道に続いて、JR四国も4月以降に有識者懇談会を立ち上げて、「四国の鉄道網をめぐる厳しい状況」を共有、更に「鉄道ネットワークを維持する方策」を模索することにしたそうです。
朝日によれば、JR四国の半井社長は「北海道のようにいきなり『維持できない』と言っても地元が困る。四国の鉄道を今後どのようにするのか自治体などと一緒になって議論して欲しい」とコメントしているとしています。
このJR四国ですが、状況の詳細はこの「有識者懇談会」と並行して数字等が出てくるのだと思いますが、JR北海道とはまた別の次元の「厳しさ」があると言えます。
まず四国の場合は、3つの本四架橋のために、本州に経済を吸い取られた、つまり「ストロー効果」の問題があります。本四架橋というのは、70年代の四国の人々にとっては夢でした。そこに、大平正芳という香川県出身の大政治家が登場することで、その夢は実現して行ったのです。
ところが、本四架橋ができたことで四国の経済と雇用が改善したかというと、結果は全く逆となりました。まず、架橋前には、全国規模の大企業は多くの場合、高松に「四国支店」とか「四国営業所」を構えていました。そこには、責任者以下の高給の管理職が常駐すると共に、大きな商談に際しては本社からの出張者も来たし、その場合は宿泊もすれば飲食もするという形で、いわば「四国支店経済」というものがあったわけです。
ですが、本四架橋のために、車の場合ですと大阪神戸からは明石大橋で、岡山倉敷からは瀬戸大橋で、そして広島からは今治へスッと入れるようになったわけです。また、鉄道の場合は特に岡山から本四備讃線で直通する形で、四国の各所へ行けるようになりました。その結果として、多くの全国企業が「四国支店・営業所」を廃止して、「中四国支店」などとして岡山からカバーするということになったのです。これによる経済の衰退というのは大きいのです。
一方で、四国の消費者、特に徳島県や香川県が顕著ですが、この2県の場合は、架橋によって神戸大阪との距離がグッと縮まったのです。その結果として、少しまとまった買い物をするという場合は、バスで梅田に出てしまうというのが「当たり前」になってしまいました。その結果として、徳島や高松の百貨店や専門店は大打撃を受けるに至りました。
更に四国の中は、全島を縦横に走る高速道路網ができており、廉価な高速バス網も便利になっています。その結果として、鉄道よりバスというカルチャーが成立していますし、近距離利用ということでは温暖な気候ゆえに365日問題のない軽四モータリゼーションが大発達するに至っているわけです。
もう一つ大きな要素は航空です。高知も松山も、羽田との航空ネットワークで東京と結びついているわけで、仮にフリーゲージが実用化されて、岡山から新幹線が四国に入ってくるにしても、東京直通などということにはニーズがそもそもないと思います。
JR北海道の場合は、確かに厳冬期の過酷な環境、あるいは寒暖の差による設備維持の苦労などがある反面、「冬こそJR」という優位性や期待はあるわけです。ですが、JR四国の場合は、そうではなくて通年を通じて、架橋のストロー効果、高速道路網、航空路線網、モータリゼーションとの競合に晒されているのです。
鉄道事業者としては何とも厳しい環境というわけですが、こうなるとJR四国がどうのとか、有識者会議がどうとかいうレベルを越えている話だと思います。時は正に民営化30周年を迎えているわけですが、JR四国の問題というのは、要するに国土計画の壮大な失敗としか言えない感じがします。
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