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【書評】なぜ日本は世界でも群を抜く「老舗企業大国」なのか?

MAG2 NEWSでも数多くの人気記事を掲載しているメルマガ「国際派日本人養成講座」の著者・伊勢雅臣さんの最新刊『世界が称賛する日本の経営』が人気を呼んでいます。無料メルマガ『政治の本質』では、著者のロベルト・ジーコ・ロッシこと松本久さんが、現状のままでは「失われた30年」になりかねない日本の経済状況を救うヒントが余すところなく綴られたこの一冊を紹介、「経営者、起業家、エリートビジネスマンの座右の書になる」と太鼓判を押しています

世界が称賛する日本の経営
伊勢雅臣・著 扶桑社

「失われた20年」、いや、バブル崩壊が1991年からだから、もうすぐ「失われた30年」になりかねない現状を著者である伊勢雅臣氏は憂いその解決策を世に問う名著です。

筆者は欧州で4年、アメリカで3年、日本企業の現地法人社長として企業経営を経験しています。

大学教授や高級官僚と違って現場を知っている実務家の主張ですから重みが違います。確かに、「失われた30年」に届きかねないバブル崩壊後の日本のデフレ経済を招いたのは金融と財政の引き締め政策を取った日銀と大蔵省と財務省の責任は大きく、是正に向けて主権者である我々日本国民は行動しなければなりませんが、多くの日本国民は政治家でも官僚でもなく企業に勤めているので、より多く直接、自らが直せる企業経営の日本と世界に通じる正しい理念を学ぶ事は非常に重要です。経営者、起業家、エリートビジネスマン&ウーマンの皆さんに自信を持ってお勧めする一冊です。

著者は「失われた20年」を招いた原因をバブル崩壊で失った日本国民の自信が企業経営の理念も「日本的経営」から欧米流の株主中心経営に替えてしまった点に有る、と主張します。

最近、日本から聞えてくるのは、ブラック企業で過労死したとか、派遣社員やパート・アルバイトばかりが広がって、低賃金と不安定な生活のために、多くの青年たちが結婚すらできない、というような暗いニュースばかりです。かつての日本企業が人を大切にして事業を成長させようとした姿勢、すなわち「日本的経営」を見失いつつあるのではないか、という気がしてなりません。そして、これが近年の日本経済や日本企業がかつての活力を失いつつある原因の1つではないか、と考えています。

何が日本的経営か、に関しては、厳密な経営学的議論もありえましょうが、本書では企業人の一般的常識に訴えるレベルで捉えたいと思います。そのために近江(おうみ)商人の心得として伝えられてきた「三方(さんぽう)良し」、すなわち「売り手良し、買い手良し、世間良し」に則って、説明しましょう。

 

「売り手良し」──売り手は従業員と株主(銀行等を含む)からなります。企業は従業員に就業機会と生計の糧(かて)を与え、なおかつ成長や生き甲斐を実現する場を提供します。企業とは、こうした従業員の共同体です。企業を資金面で支える株主には、提供した資本に見合った適正な収益を安定的にお返ししようと努めます。

 

「買い手良し」──顧客の求める商品やサービスを適正な価格で提供し、その信頼を勝ち得ようと努めます。価格と原価の差が利益ですが、それは売値(=顧客に提供した価値)と、原価(=企業内で消費した価値)の差、すなわち事業活動によって創造された価値を表します。したがって、利益とは企業がどれだけの付加価値を生み出したかを計る尺度です。

 

「世間良し」──社会の必要とする商品やサービスを提供することによって、社会のニーズを満たし、問題を解決し、進歩を実現します。また、収益の一部を税金として納めることで、国家や地域社会を支えます。

 

この「三方良し」を追求する経営を、本書では「日本的経営」と呼ぶことにします。「三方良し」の対極にあるのが「株主資本主義的経営」です。これも「三方」に分けて考えてみましょう。

 

「売り手」──「売り手」とは株主のことです。株主の投資収益、それも特に短期的収益を最大化することが企業の唯一の目的と考えます。企業は人、もの、設備からなる収益マシーンであり、従業員はその歯車にすぎません。性能の悪い歯車や不要になった歯車は使い捨てにされます。また企業は収益マシーンですから、普通の設備と同様、売り買いの対象になります。

 

「買い手」──買い手、すなわち顧客とは、企業が商品・サービスを提供し、その対価を受け取る相手です。これは純粋に経済的な取引であり、契約に違反しない限り、顧客のためを考える必要はありません。

 

「世間」──社会は事業活動の環境であり、社会の法律を守っている限り、その中で自由に活動すれば良いと考えます。

 

近年の多くの日本企業は、アメリカからやってきた株主資本主義的経営こそ最新の経営だと思い込み、かつての三方良しを追求する日本的経営など時代遅れのものとして、捨て去ってしまったのではないでしょうか。

そして三方良しを追求する日本的経営の淵源が日本近代資本主義の精神の教祖である江戸時代の石田梅岩の心学にある、と論じると共に石田梅岩の思想をまとめた『都鄙問答(とひもんどう)』から「心学」の考え方を紹介しています。

「商人の道を知らない者は、私欲に走って、ついには家までも滅ぼしてしまう。しかし、商人の道を知れば、私欲の心を離れ,仁の心を持ち、商人道に合った仕事をして繁盛する。それが学問の徳というものである。

 

我が身を養ってくれるお得意様を粗末にせず、真実の誠を尽くせば、十に八つは、お得意様の心にかなうものである。お得意様の心に合うように商売に打ち込み、努めれば、渡世において何の案ずることがあろうか」

 

近年の経営学では「カスタマーサティスファクション(顧客満足)」が成功への道だとしているが、それを梅岩は300年近く前に言い出したのである。

 

「私が教えるのは、まず人の道を心に自得した上で、骨身を惜しまず、勤勉に自己の仕事を実践すれば、日々に心の安心に近づく、ということです」

 

人の心は天につながっているので、私欲に駆られて人を騙したり、放蕩の限りを尽くして家業を傾けたりしたら、心の奥底の良心が疼く。「勤勉・誠実・正直」に働いていてこそ、心も安心に満たされる。同時に事業は繁栄し、周囲からも感謝される。それが輪になって広がれば、立派な社会が築ける。このように人間の心を原点として経営を考えたところから、梅岩の教えは「心学」と呼ばれた。こうした心学の広がりは、日本人の仕事観、事業観に大きな影響を与えた。現代の日本人も「石田梅岩」や「心学」は知らなくとも、ここで紹介した考え方は「常識」として受け入れることのできる人が多いだろう。これがどれほど立派なことなのかは、騙し合いが当然の中国などで仕事を経験のある人は、よくわかる。

「日本的経営」の良さと思想的淵源を論じると共に、この本は日本企業の、もう一つの特徴も描いています。それは、老舗企業の数です。

わが国は、世界で群を抜く「老舗企業大国」である。創業百年を超える老舗企業が、個人商店や小企業を含めると、十万社以上あると推定されている。

興味深いのは、百年以上の老舗企業十万社のうち、四万五千社ほどが製造業であり、その中には伝統的な工芸品分野ばかりでなく、携帯電話やコンピュータなどの情報技術分野や、バイオテクノロジーなどの先端技術分野で活躍している企業も少なくないことだ。

何故、日本は世界で群を抜く「老舗企業大国」なのか? について、著者は、この様に説明しています。

アジアの億万長者ベスト100のうち、半分強が華僑を含む中国系企業であるという。その中で100年以上続いている企業は無い。創業者一代か二代で築いた「成り上がり企業」ばかりである。これに比べると、企業規模では比較にならないほど小さいが、百年以上の老舗企業が十万社以上もあるといわれる我が国とは、実に対照的である。

 

『千年、働いてきました』の著者・野村進氏は、「商人のアジア」と「職人のアジア」という興味深い概念を提唱している。「商人」だからこそ、創業者の才覚1つで億万長者になれるような急成長ができるのだろう。しかし、そこには事業を支える独自技術がないので、創業者が代替わりしてしまえば、あっという間に没落もする。

 

それに対して、「職人」は技術を磨くのに何代もかかり、急に富豪になったりはしないが、その技術を生かせば、時代の変遷を乗り越えて、事業を営んでいけるのである。

華僑を含む中国系商人と日本の職人の対比、非常に面白い観点です。この点に関するロベルトの意見は、別エントリーでupします。

最後に、この本で取り上げている会社と偉人を挙げます。

日々、自分の会社と日本と世界を良くしていこうと精進されている経営者、起業家、エリートビジネスマンの皆さんの座右の書となるのをロベルトが裏書きします。絶対のお勧め本です。

image by: Shutterstock.com

ロベルト・ジーコ・ロッシこの著者の記事一覧

日本人(国)をして世界の指導者(国)にすることで、地球文明のレベルを上げて宇宙の発展に寄与します。 実現する為の手段は日本人を自虐史観から脱却させて自らの歴史と民族及び国家に誇りと自信を持たせる事によってです。 故に、「政治の本質」はデフレを深刻化させる消費税増税とTPP参加と外国人参政権及び人権保護法に反対し、デフレから脱却して経済成長する為の日銀法改正、日銀による金融緩和、インフレターゲット政策と公共投資増加に繋がる公共投資推進庁の新設、国土強靭化基本法に賛成しています。

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【著者】 ロベルト・ジーコ・ロッシ 【発行周期】 不定期

 

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