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【書評】「やられたら倍返し」たった1000億で北から日本を守る術

国際社会の批判を浴び続けながらも一向に止む気配のない、北朝鮮による挑発。先日も「新型ミサイル」の発射に成功(北朝鮮の発表)するなど、ますますエスカレートしている感もあります。この脅威に、日本はどう対処すべきなのでしょうか。今回の無料メルマガ『Japan on the Globe-国際派日本人養成講座』では、軍事アナリスト・北村淳氏の著書の内容を引きながら、「日本が持つべき抑止力」について考察しています。

北朝鮮のミサイルは防衛費の2%で抑止できる

巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない
北村淳・著 講談社

元北朝鮮人民軍のパイロットで、1996年にミグ19に乗って韓国に亡命し、今は韓国の空軍大学教授となっていた李チョルス氏は、次のように語ったと西岡力(つとむ)・東京基督教大学教授は記している。

自分たち北朝鮮軍人は士官学校に入ったときから現在まで、ずっと同じことを教わってきた。1950年に始まった第1次朝鮮戦争で勝てなかったのは米軍基地のせいだ。あのとき、(韓国への)奇襲攻撃は成功したが、在日米軍基地からの空爆と武器弾薬の補給、米軍精鋭部隊の派兵などのために半島全域の占領ができなかった。

 

第2次朝鮮戦争で勝って半島全体を併呑するためには米本土から援軍がくるまで、1週間程度韓国内の韓国軍と米軍基地だけでなく、在日米軍基地を使用不可能にすることが肝要だ。だから、射程の長いミサイルを実戦配備している。
『正論』H28.4 西岡力「北朝鮮は核ミサイルを使うために開発している」西岡力

北朝鮮の核ミサイル開発の目的について「冷戦後、国際的に孤立する中、体制を維持するために核ミサイルを持とうとしている」とか「米国との外交カードとして使い、米朝国交回復を狙っている」などの見方があるが、西岡教授は「これらの見方は、実は北朝鮮が政治工作として意図的に拡散しているウソだ」と断言している。

その証拠として氏が挙げているのが、金日成が核開発を始めたのは、1953年7月の朝鮮戦争休戦の数ヶ月前だったという事実である。この時点では北朝鮮は軍事や経済でも韓国より優勢だった。金日成が、朝鮮戦争に勝てなかったのは在日米軍基地のためだと考えたからこそ、核ミサイル開発を決意したのである。

とすれば、金正恩も、このままでは北朝鮮経済も行き詰まり、体制も崩壊すると追い詰められて、生き残る唯一の道は、韓国を併呑してその富を奪うしかない、と一か八かでこの戦略に出る可能性はある。

「それを確実に抑止する方法は、核のボタンを押せば必ず報復を受けて金正恩が死ぬと彼に分からせること以外にない」と、西岡教授は断言する。

独裁国家の弱み

北朝鮮や中国のような独裁国家では、独裁者は国民の生命や財産は気にしない。あるアメリカ陸軍大将が人民解放軍最高幹部たちとの宴会に出席した際、いささか酔っ払った中国の大将が「我々は上海が核攻撃を受けて消滅しても戦争は続けるが、アメリカはロサンゼルスが核攻撃を受けた瞬間に戦争はできなくなるであろう」とテーブルを叩きながら豪語したという。

酔っ払いの大言壮語ではない。現に毛沢東は大躍進政策の失敗で推定2,000万人を餓死させた後、政権内での保身のために文化大革命を起こし、紅衛兵らの虐待で党幹部、知識人ら40万人が殺害されたと言われている。金正恩の父親・金正日も自らの権力奪取後、国民の飢餓を放置し、3年間で国民の17%近く、約370万人を餓死させたと推定されている。

こうした独裁者たちは自らの保身のためには、国や国民がどうなろうと気にしない。逆に、他国を攻撃したら自分が殺されると分からせればその侵略行為を抑止できる可能性がある。米軍が北朝鮮に核開発をやめなければ金正恩の「斬首作戦」をする、と個人的に脅かしているのは、このためである。

米国は金正恩個人を狙えるだけの武力を持っているが、我が国は持っていない。日米安保によるアメリカ頼みでも良いのだろうか。いや、そうはいかない場合もある。

「防衛」の理想は「防御」ではなく「抑止」

たとえば、北朝鮮が日本に対して「経済制裁を解け。解かなければ、日本のいくつかの都市にミサイルを撃ち込むぞ」と脅してくる事態を想定できる。

この場合、もし日本がノーと言って、実際に何発かミサイルを撃ち込まれたとする。そして在日米軍が出動する前に、北朝鮮は「これ以上の攻撃はしない。経済制裁を解くよう、再度、勧告する」と言ってきたら、在日米軍はどうでるか。

日本にミサイルは撃ち込まれたが、すぐに停戦状態になっている。ここで在日米軍が出動すれば、北朝鮮対アメリカの戦いになって、第2次朝鮮戦争の引き金を引いてしまう。戦闘が行われていない以上、アメリカがその危険を冒してまで報復してくれるとは信じられない。このように日米安保条約の隙間を狙って、日本だけを脅迫するという手もありうるのである。

こういう時に、日本の武力だけで、日本にミサイルを撃ち込んだら金正恩の命もないぞと脅すことができたら、それが抑止力になる。

そもそも「防衛」のために莫大な税金を投入して軍事力を保持しなければならない究極の目的は、日本が外敵から軍事攻撃を仕掛けられたら「防御」するためではなく、「外敵が日本に対して軍事攻撃を実施するのを事前に思いとどまらせる」こと、すなわち「抑止」にある。

 

自衛隊が「防御」する段階に立ち至った場合には、いくら自衛隊が頑強に「防御」したとしても、日本国民の生命財産が何らかの損害を被ることは避けられない。したがって「防衛」の理想は「防御」ではなく「抑止」なのである。
(『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』北村淳・著/講談社)

軍事アナリスト・北村淳氏の至言である。「やられたら、倍返しだ」という「報復的抑止力」を持つことが「防衛」の効果的なあり方なのである。

「巡航ミサイル1,000億円で中国も北朝鮮も怖くない」

北村氏は、この観点から、中国・北朝鮮に対する防衛(ただし、核攻撃を除く)に関して、卓抜な構想を提案している。まず、その要点を示した後で、詳しく説明しよう。

  1. 中国や北朝鮮からの攻撃パターンとして軍艦、潜水艦や航空機による接近襲撃は自衛隊による監視・撃退能力が高く、相手も相当なリスクを覚悟しなければならない。それに対して長射程ミサイル攻撃は最小のリスクで、我が国にダメージを与えられる。
  2. 現在、我が国のミサイル攻撃への防御は迎撃ミサイルで撃ち落とすシステムが中心になっているが、撃ち落とし漏れで被害が出る。しかも、多数のミサイルが発射された場合は、迎撃ミサイルを撃ち尽くして、その後はやられっぱなしとなる。
  3. ミサイル攻撃への最も効果的な防衛は、撃たれたらこちらも長射程ミサイルで撃ち返すという報復により、抑止をはかることである。迎撃ミサイルによる「防御」よりもはるかに安価に、より確実に「抑止」を図ることができる。

これが北村氏の著書『巡航ミサイル1,000億円で中国も北朝鮮も怖くない』というタイトルの意味するところである。

迎撃ミサイルでは撃ち漏らし、弾切れ

上記の各点について、もう少し詳しく説明しておこう。

まず1.の「最大の脅威は長射程ミサイル」という点だが、個人の戦いに例えて言えば、軍艦や航空機などの接近攻撃は殴りかかること、ミサイル攻撃は銃撃のようなものだ。殴りかかってくる相手よりも、離れた所から銃撃をしてくる相手の方が脅威が大きい、というのは、常識で分かる。

防衛面を考えると、殴ってくる相手には殴り返せば、相手に相応の打撃を与えられる。しかし、相手がいつどこから銃撃してくるのか分からない、というのは、はるかに大きな脅威である。

2.の迎撃ミサイルでは完全には防御しきれない理由を説明しよう。北朝鮮が日本を狙うには、スカッドD弾道ミサイルが使われる。最大射程距離は700~800キロで、西日本の多くの地域が到達範囲に入る。発射には地上移動式発射装置が使われ、北朝鮮はこれを50輛前後、保有していると見られている。とすると、最大50基の弾道ミサイルを一度に発射できることになる。

それに対して、現行のミサイル防衛システムは次のようなものだ。弾道ミサイルの発射を、警戒衛星とイージス艦のレーダーシステムで捉え、その弾道を計算して、SM-3迎撃ミサイルが発射される。しかし、その撃墜率はこれまでの10年の経験では8割強であり、50基が同時に撃たれた場合は、すべてを迎撃しても10基は撃ち漏らしてしまう

さらにSM-3ミサイルは1基25億円と超高額のため、イージス艦あたり8基しか装備されていない。海上自衛隊のイージス艦4隻がすべて出動していても、32基しか発射できない。北朝鮮が第一波で50基を撃ってきたらそもそも足りないし、第二派としてまた50基発射したら、もう撃ち尽くしてしまって、指をくわえて見ているしかない。

第二段の構えとしてパトリオット-3防空ミサイルシステム(PAC-3)もあるが、直径40キロの圏内でしか撃墜できず、国内にはこれが18セットあるのみである。

18セットを東海道・山陽新幹線沿いに横に並べたとしても、40キロ×18セット=720キロで、東京-岡山がカバーできるほどである。イージス・システムで防げず、パトリオットがカバーしていない地域はやられ放題という事になる。こういう事態を防ぐには、さらに数兆円規模の予算が必要となる。

巡航ミサイルの脅威

長射程ミサイルには弾道ミサイルのほかに巡航ミサイルがある。弾道ミサイルは弾道(放物線)を描いて超高速で飛ぶもので、核を搭載した大陸間弾道ミサイルはこの一種である。

巡航ミサイルは低空飛行で山などを避けながら、自由自在に進路を変えつつ飛翔する。弾道ミサイルよりも速度は遅いが、小型かつ低空飛行のため、レーダーでもはるかに補足しにくい。

アメリカの巡航ミサイル・トマホークは最大射程距離1,700キロを飛び、最新型では狙った目標から5メートル以内の命中精度を持つ。1991年の湾岸戦争で投入されて以来、数々の実戦で使用されてきた。湾岸戦争では進攻に先立って、水上戦闘艦と潜水艦から合計288基が連射され、イラクのレーダーシステム、対空ミサイル、それに独裁者の本拠地を叩くのに使われた。

その命中精度の良さから、たとえば金正恩の潜んでいる場所や、北朝鮮軍司令部、ミサイル基地などをピンポイントで叩くには、最適な兵器なのである。

また、価格も1基1~1.5億円程度と安い。F-2戦闘機で敵基地攻撃をするには1機で120億円かかるが、トマホークなら100基も配置できる。しかも搭載する通常弾頭の破壊力は、F-2に搭載できる爆弾の2倍程度である。したがって、コスト1/100で破壊力2倍、コストパフォーマンスは200倍となる。

トマホーク800基による報復的抑止力

このトマホークを海上自衛隊の艦船に800基ほど配備し、北朝鮮が我が国にミサイルを撃ち込んだら、それを一斉に発射して金正恩の生命はない、と分からせて、報復的抑止力を働かせよう、というのが北村氏の提案なのである。この提案は優れた実現可能性を持っている。

まず、現在の海上自衛隊の水上艦、潜水艦の発射装置はトマホークと互換性があり、ハードはそのまま使用できる。ソフトとしてトマホーク攻撃計画システムと発射制御管制システムを導入するだけで良い。

装備できる水上艦・潜水艦も十分だ。合計で最大で1,132基のトマホークが装備できる。たとえば「あたご型」自衛艦は2隻で各96基、「こんごう型」4隻で各90基、等々、各型合計で27隻ある。

トマホークの最大射程距離は1,700キロなので、日本海側はもちろん太平洋側沿岸を航行する艦艇から発射しても、北朝鮮全域をカバーできる。

破壊力も十分である。トマホーク1基で1,000ポンド爆弾1発分の破壊力を持つが、これは北朝鮮のノドンやスカッドの半分である。したがって、ノドンやスカッドを100基撃ち込まれた場合、トマホーク200基で同等、800基を撃ち返せば「4倍返し」となる。

しかも、飛来した北朝鮮ミサイルの相当数は迎撃ミサイルで撃ち落とせることを考えれば、ミサイルの撃ち合いでは北朝鮮は到底、分がない、という事になる。

コストも圧倒的に安い。前述のようにトマホークは1基1~1.5億円程度なので。800基配備しても1,000億円ほど、年間防衛費の約2%程度でしかない。

対中国防衛にも有効

この構想は対中国防衛にも有効である。中国はかつてアメリカ政府にトマホークを日本に移転しないようロビー活動をしていた、という情報がある。それだけ真剣に巡航ミサイルの脅威を受け止めているのであろう。巡航ミサイルの優れた点は相手国の一般国民への被害は最小限にして、独裁者だけを脅かす事ができることだ。

北村氏は、「日本の技術力のすべてを投入すれば、最大射程距離2,500キロで最高巡航速度マッハ2を超える巡航ミサイルの開発に成功する可能性は十分にある」と言う。これが実現すれば、陸上を自在に動き回れる発射装置により、北海道から沖縄までどこからでも中国本土を射程に含めることができる。

こうした通常戦力による報復的抑止力を持つことで、現在、日本は「防御」機能しか持っていない日米同盟の片務性を相当程度解消して、米国とより対等な安全保障体制ができるであろう。

さらに、この巡航ミサイルを台湾、フィリピン、ベトナム、インドネシアなどにも供与し、攻撃目標のデータを共有化する情報システムでも作れば、中国の独裁者たちの首根っこを押さえる事ができるだろう。

文責:伊勢雅臣

image by: Shutterstock.com

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【著者】 伊勢雅臣 【発行周期】 週刊

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