過去に何度も事故を起こし、「無用の長物」と揶揄されてきた高速増殖炉もんじゅ。7日には廃炉を福井県知事が容認しましたが、そのもんじゅを運営する日本原研の大洗研究開発センターで6日に放射性物質漏れ事故が発生、作業員4人の内部被曝が確認されました。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』では著者でジャーナリストの内田誠さんが、新聞各紙がこの事故をどう報じたのかを詳細に分析しています。
プルトニウム漏れで年間1.2シーベルトの内部被曝! 茨城県・大洗の放射性物質漏れ事故を各紙はどう報じたか
【ラインナップ】
◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…「作業員4人 内部被曝」
《読売》…「イラン同時テロ12人死亡」
《毎日》…「イラン国会と霊廟テロ」
《東京》…「作業員4人 内部被ばく」
◆解説面の見出しから……。
《朝日》…「ずさん管理 重い被曝」
《読売》…「内部被曝 甘い安全意識」
《毎日》…「IS イランにも浸透か」
《東京》…「微量でも危険度高く」
ハドル
かなりの内部被曝があったようですね。もちろん、日本原研での放射性物質漏れ事故のことです。《毎日》を除く各紙が、メインの解説にこのテーマを選びました。《毎日》も大きな解説を別建てにしていますので、これを俎上に上せましょう。今日のテーマは…「プルトニウム漏れで年間1.2シーベルトの内部被曝! 茨城県・大洗の放射性物質漏れ事故を各紙はどう報じたか」です。
基本的な報道内容
茨城県大洗町にある日本原子力研究開発機構の「大洗研究開発センター」の燃料研究棟で放射性物質が入った容器が破損し、作業員5人に放射性物質が付着した事故で、機構は、内部被曝した4人のうち、50代の1人の肺から2万2,000ベクレルのプルトニウム239が検出されたと発表。他の3人も5,600~1万4,000ベクレルを検出。残る1人も内部被曝したとの疑いが濃厚とした。
過去最大級の内部被曝事故で、機構の安全管理態勢が問われることになる。
高まるガンのリスク
【朝日】は1面トップに2面の解説記事「時時刻刻」、14面社説、34面社会面と大きな扱い。見出しから。
1面
- 作業員4人 内部被曝
- 原子力機構 容器内、26年未点検
- 最大2.2万ベクレル 国内最悪
2面
- ずさん管理 重い被曝
- ビニール破裂「想定外」
- 26年前の容器 密閉されぬ場で開封
- 「長期の健康観察必要」
- 入院の作業員5人、体外排出へ治療
- 臓器・組織にダメージの恐れ
- 安全軽視 また不祥事
14面
- 作業員の被曝 想定外ではすまない(社説)
34面
- 原子力機構 不信の的
- もんじゅ・東海村…首長ら注文
uttiiの眼
1面。事故が起きた燃料研究棟の分析室は、高速炉の新型燃料等を開発。既に廃止の方針が決まっており、廃棄物として処理する放射性物質の種類と量、状態を確認する作業を進めていたところだったという(今回作業がなぜ行われたかについて《毎日》は、機構が規制委から別の施設での不適切な核物質管理を指摘され、この施設でも保管されているものを点検する必要があったと書いている)。
保管状況を確認するために蓋を開けたところビニール袋が破れ、粉状の放射性物質が飛散したとのこと。ここで強調されているのは、26年間、内部は一度も点検されていなかったということ。同様の保管容器がまだ20個も残っているという。
2面は「時時刻刻」流に、出来事を時系列で並べている。全体に、見出しの「26年前の容器 密閉されぬ場で開封」という言葉に象徴される管理の「ずさんさ」を指摘。イラストで室内の様子、作業のイメージ、内部被曝と外部被曝の違い、放射線の種類などが説明されている。
なぜ密閉された場所での作業にならなかったのか、特殊なマスクをしていたのに多量のプルトニウムを吸い込んでしまったのはなぜなのかなど、疑問が湧いてくる。
作業員は千葉市の放射線医学総合研究所に搬送されて入院。最も多量の被曝をした50代男性は年換算で1.2シーベルトの内部被曝。ヒロシマとナガサキの被爆者の例から、全身被曝が100ミリシーベルトを超えればガンのリスクが明らかに高まるとされており、その10倍以上の被ばくをした男性の健康が心配される状態。他の職員とともに、キレート剤の点滴で体内のプルトニウムを排出する治療を受けている。
記事には記者による「視点」が付いていて、同じ原子力機構が運転してきた「もんじゅ」と通底する「ずさんさ」が指摘され、「使い終わった放射性物質が詰め込まれた大小の保管容器を数十万個も抱えて」いるのだという。「20個」から「数十万個」に規模感が変わったが、これは原子力機構全体でということらしい。「もんじゅ」も含まれての話。
伝票が見つからない…?
【読売】は1面中央に事実を伝える小さめの記事。関連で3面の解説記事「スキャナー」と30面社会面。まずは見出しから。
1面
- 内部被曝 4人に 最大2万2,000ベクレル
3面
- 内部被曝 甘い安全意識
- 原子力機構
- 非密閉型の作業台■マスクにすき間
- 内部被曝年間1.2シーベルト 国内最悪の線量
30面
- 核燃料物質 保管期間把握せず
- 原子力機構 管理履歴も不明
uttiiの眼
《読売》が強調するのは、作業の安全対策だけでなく、「保管物質の管理体制」がそもそもずさんだったのではないかという点。今回事故を引き起こした核燃料物質の保管をいつ始めたのか、管理履歴はどうだったのかなど、把握されていなかったのだという。
会見の場で機構の責任者は、91年に現在の状態で棟内に置かれていたことは確認できているが、その後、中身を確認したかどうかについて、伝票は残っているのだが、電子化されておらず、記録が見つからないという。
《朝日》の記事だと「26年間チェックしていない」ことになっていて、もちろん、それ自体酷い話だと思うが、《読売》の方は「26年間チェックしたかどうか、残っている紙の伝票をチェックしてみないと、分からない。その伝票が見つからない」という意味のようで、一層、もの凄い話に見えてくる。事務所はゴミ屋敷のようになっているのだろうか…。とてもじゃないが、核燃料というような危険なものを扱える組織ではないと断言してもよさそうだ。91年からなにもしていなかったのだとすれば、死者2人を出した99年の東海村JCO臨界事故のあとも、なにもしなかったことになり、その爛れきった組織の有り様には、背筋が凍る思いがする。
ヘリウムガスが溜まっていた?
【毎日】も《読売》と同じように、1面中央付近に短い記事。関連で2面と社会面にも。見出しから。
1面
- 内部被ばく 作業員4人に
- 最大2.2万ベクレル 管理体制を調査 原子力機構
2面
- 機構・内部被ばく2.2万ベクレル
- 保管26年 ガス発生か
- 点検最初の袋破裂
- 体外排出まで影響
27面
- 原子力機構被ばく 住民「慎重に作業を」
uttiiの眼
1面記事には、作業員の3人からはプルトニウムではなくアメリシウム241が検出されたと書いてある。プルトニウムの毒性は論外だが、アメリシウム241も半減期が400年以上あり、体内にとどまればずっとアルファ線を出し続けることになるはず。
2面記事は、今回飛散した粉末が、敷地内にある高速実験炉「常陽」で使う燃料の試料を作った際に出た屑であって、約300グラムのもの。そして今回の点検作業は、機構の別の施設で核燃料物質が不適切に管理されていたことを原子力規制委から指摘されたことに伴い、実施されたものだったという(《朝日》の項目を参照)。
また、ビニール袋が破裂した原因について専門家は、「ウランやプルトニウムは時間が経つと原子核が崩壊し、ヘリウムの原子核(アルファ線)が飛び出す。長期間保管したことによりヘリウムガスが溜まり、破裂した可能性があるという。
逆に言うと、規制委からの指摘がなければ、こんなことになっていることも分からなかったわけで、さらに長期間同じ状態で保管し続けていたら何が起こっていたか、想像もできない。
プルトニウムの恐怖
【東京】は1面トップに2面の解説記事「核心」、27面社会面まで。見出しから。
1面
- 作業員4人 内部被ばく
- 大洗・原子力機構事故
- プルトニウム 2.2万ベクレル 最悪レベル
- 体の中から放射線浴びる
27面
- 黒い粉 突然飛んだ
- 被ばく事故 「防止設備内 なぜ」
uttiiの眼
1面記事には、被ばくした5人のうち、2人が機構の職員で、残る3人は協力会社の従業員であることが記されている。27面の記事を見ると、直接の作業を担当した50代の男性は機構職員であったことが分かる。他紙も、被ばくした50代の男性については「職員」と一様に記しているが、他の4人も全員機構職員であるような印象になっている。協力会社従業員の存在に明示的に触れたのは《東京》のみ。
2面「核心」はプルトニウムの恐ろしさを強調する内容。今回、作業員の男性が吸い込んだのは、0.01ミリグラムほどのプルトニウム。たったそれだけで、確実にガンのリスクが上昇する年換算100ミリシーベルトの10倍以上のリスクを負ってしまったことになる。プルトニウムが万年単位で放出し続けるアルファ線はガンマ線やベータ線と比べて重く、遠くへは飛ばないが、近くの細胞を傷つける力が強いという。だからこそ、「吸い込むと厄介」ということになる。大きな事故だったということだ。
あとがき
以上、いかがでしたでしょうか。
まるで、浦島太郎のお話のようだと思いました。
浜に戻った太郎が、竜宮城で享楽のために使ってしまった「時間」の請求書を突きつけられたのは、禁を破って「玉手箱」を開けてしまったからですが、今回、気の毒な作業員が作業の一環として開け、不幸にして被ばくしてしまったのは、いわば膨大な核エネルギーを取り出してしまったのに支払ってこなかった私たち全員の借財を、彼らを身代わりとして受け取らせてしまった、そんな意味があったのではないでしょうか。同じ「玉手箱」は、まだまだ山のようにあるわけですね。日本中の原発や六ヶ所村再処理工場に集められた廃棄物を含めれば、私たち全員に請求書の「玉手箱」が突きつけられている。そして、この「玉手箱」を開けなければならないときが必ずやってくる。気の重いことです。
image by: WikimediaCommons(今井智大)