各紙が一斉に報じた、安倍内閣支持率に関する調査結果。共謀罪の強行採決や「森友」「加計」両疑惑が響いたのでしょうか、どの調査も軒並み「急落」を記録しました。安倍首相は19日、通常国会の閉会を受けて行われた記者会見において、加計学園問題は「一点の曇りもない」と断言しましたが、有権者はどう判断するのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんは自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で、今回の支持率急落と今後の安倍政権の行く末について詳細に分析・解説しています。
内閣支持率急落!「安倍政権の危機」を各紙はどう報じたか
はじめに~危機の端緒
こんにちは。
内閣支持率が大きく動いているようですね。
《毎日》の調査では支持率36%で10ポイント減、不支持率44%は9ポイントの増加で、支持率を上回ったのは2015年10月以来とか。《読売》はさすがに支持率もまだ高めで、49%もありますが、それでも前回比12ポイントの下落。不支持率41%は、《毎日》の調査結果とも近い、大きい数字になっています。
要因はもちろん、「共謀罪」法案のゴリ押しや「森友」「加計」の2つの“学園もの”と見られますが、圧倒的に影響が大きかったのは、「加計学園」問題でしょう。理由は、その構図の分かりやすさ、「総理のご意向」という浸透力のあるフレーズ、それに、決定的だったのは頑なで露骨な「隠蔽」の姿勢です。ほとんどの人が「存在する」と信じた文書について、政府だけが「ない」と言い張り、文科省による最初の調査でも「見つからない」と発表してさらに批判を浴び、ようやく「範囲を広げた」調査で「発見した」と公表せざるを得なくなった。当初、文書を「怪文書」扱いしていた菅官房長官などは、「言葉が一人歩きして…」と意味不明の言い訳で失笑を招き、しかも、誤りについて訂正さえしない傲慢さで顰蹙を買う始末。低レベルの“隠蔽”工作を、有権者に容易く見破られてしまったということでしょう。
「安倍政権はウソつきだ」
こういう感覚の広がりは、おそらくはこの先も急速に政権を蝕んでいくことになるでしょう。当然、政権も黙ってはいないでしょうし、様々な計略・謀略・策略を駆使して、なんとか支持率を回復しようとするでしょう。市民は、そうした攪乱を狙った情報の洪水に対して正気を保っていられるかどうか、そのリテラシーを試されることになりそうですね。
ということで6月19日の『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』、ご覧下さい。
ラインナップ
◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…「『心は女性』女子大も門戸?」
《読売》…「創薬専用のAI開発」
《毎日》…「民間検定・マーク式併存」
《東京》…「加計説明『納得せず』73%」
◆解説面の見出しから……。
《朝日》…「『お客第一』サービス 転換点」
《読売》…「与党危機感『謙虚に』」
《毎日》…「支持急落 政権に逆風」
《東京》…「政府4条件 揺らぐ根拠」
ハドル
冒頭から「内閣支持率急落」について書いてしまいましたが、案の定、記事の方もこれが最大のテーマになっています。今日のテーマは…内閣支持率急落!「安倍政権の危機」を各紙はどう報じたか、です。
マフィア化する政治の中で
【朝日】は1面中央に「本社世論調査」についての記事。詳報は20日付け、つまり明日の朝刊ということに。他に、2面には長谷部恭男氏と杉田敦氏の対談で「マフィア化する政治」について。4面には、前田直人世論調査部長による「政治断簡」。まずは見出しから。
1面
- 内閣支持率下落41%
- 加計問題の説明「納得できない 66%」
2面
- マフィア化する政治
- 「共謀罪」法 議会の関係壊し危険 杉田
- 説明責任果たさず権力を私物化 長谷部
- 特区 恣意的行政になる恐れ 長谷部
- 規制 不要ならすべて撤廃を 杉田
- 改憲の道具として自衛隊利用 長谷部
- 首相の加憲論こそ「印象操作」 杉田
4面
- 世論に浮かぶ「面従腹背」(世論調査部長)
uttiiの眼
《朝日》のデータは「中位」に収まっているようだ。支持率41%は《毎日》より高く、《読売》より少ない。支持率と不支持率の逆転を記録しているのは《毎日》だけで、《朝日》の不支持率も、支持率よりまだ5ポイント低い。
ただ、記事は支持率のトレンドについて「今年に入って下降傾向にあり、1月調査の54%と比べると、大きく下がっている。」また、全体のほぼ半数を占める無党派層だけで見ると、支持は19%、不支持49%と激しい結果となっていて、また女性の支持率も36%と低い。無党派層と女性の中で、安倍政権を支持しなくなった人がかなりの量出ているということだろう。その意味では、前川前文科事務次官に対する人格攻撃は功を奏さなかったと言えるかもしれない(あの攻撃がなければもっと大きな影響が出ていたかも知れないとも言えるが…)。
2面の対談は、通常、2人に別々にインタビューしたものを掲載する「考論」をクロスさせたというような趣向。それぞれ「論」を持った人同士の対談。かつて、自民党推薦の参考人として国会に呼ばれ、安保法制を「憲法違反」と断じた長谷部恭男早大教授と、法政大の政治理論の専門家、杉田敦教授の議論。「議会でまじめな審議をすること」の意味など、大切な議論があちこちで展開されているが、標題の「マフィア化する政治」に関わって何が言われているか、紹介しよう。
杉田氏は、「『1強』なのに余裕がない」ことが現政権の特徴だとして、したがって、「軽々に強硬手段に訴え」、都合の悪い文書は「怪文書」と決め付け、「恫喝的な態度を取る」。マフィア化とは、身内や仲間うちでかばい合い、外部には恫喝的に対応するもの。米国やロシアも同様だという。
長谷部氏はその話に続けて、マフィア化の本質を「公が私によって占拠されている」状態とする。「公権力は私物化され、個人間の私的な絆をテコに政治が行われ」、反対する奴は切り捨てればいい…これがむき出しのマフィア政治だと。
以下、マフィア化を可能にしたのは90年代の政治改革で首相官邸に権力を一元化し、内閣人事局を作って高級官僚を政治任用にしたことであり、ところが、前提とされていた政権交代が実際には頻繁に起こらないので、各省庁の意見を無視して政権が何でもできることになってしまっていると。特区制度はマフィア化した政治に好都合で、本来なら一般的な政策課題とすべきことであること、など。最後に、憲法改正について。長谷部氏は、「どう生きるかは自分で判断する」というのが日本国憲法の理念であり、安倍政権はその理念を壊したいと思っていると。安倍氏の加憲論は現状維持なので「ただの無駄」。拠り所は「自衛官の自信と誇り」という情緒論だけ。実際には、憲法改正という個人的な野望のために自衛官の尊厳をコケにしていると杉田氏。
今回の内閣支持率下落が、有権者が政治の「マフィア化」を感じ取った末の変化なのかどうか。「身内でよろしくやっている」感は多くの有権者が共有したと思うのだが。
4面記事は、都議選に関する世論調査の結果。実は、自民党の支持構造は脆く、「自民に投票したい」と答えた人は選挙への関心が薄いので投票しない可能性が高い。逆に、投票する可能性が高い「大いに関心」層では自民党が嫌われているのだという。
この記事を読んで感じたのは、以前にも触れたように、国会最終盤の超強行策などは、都議選に関する調査の危機的な結果を受け、自民党執行部が判断した可能性が高いと思われる。
政権そのものへの不信
【読売】は1面左肩で「本社世論調査」についての記事。関連して2面、3面「スキャナー」も。見出しから。
1面
- 内閣支持率12ポイント減49%
- テロ準備法「評価」50%
2面
- 無党派、高齢層 支持離れ
- 終盤国会対応 響く
3面
- 与党危機感「謙虚に」
- 「加計」で批判 都議選に余波
- 野党の支持伸び悩み
uttiiの眼
12ポイントの下げ幅は第2次政権発足以降最大だが、最低を記録した安保法成立直後の41パーセントよりまだ高いと。不支持の理由のトップは「首相が信用できない」の48パーセントというのは、2次政権発足後最大だと書いていて、《読売》もそこに“深刻さ”を感じ取っているようだ。「テロ等準備罪」の創設を「評価する」が50%あるのに、「政府・与党が同法の内容を国民に十分説明した」と思わない人が80%。加計学園の獣医学部新設に関する政府の説明に「納得できない」は70%に上る。
《読売》も《朝日》と同様で、無党派層での内閣支持率は前回の36%から22%に大きく下落。自民・公明それぞれの支持層でも支持離れが生じている。また、高齢層で支持が大きく低下し、60歳代で前回54%から36%に激減している。
3面「スキャナー」は、支持率の下落について重要なポイントを指摘。まず、政府・与党の幹部等が、一様に「謙虚に…」という言葉を使ってコメントしていることについて、「世論が安倍政権に『おごり』を感じ取っているのではないかという危機感があるからだ」と説明する。
さらに、今回の事態は41%まで下がった安保法制のときよりもさらに深刻だという受け取る人たちがいるという。その理由は、「個別の政策の是非ではなく、政権そのものに対する不信感が背景にある」からだと。まさしく、《朝日》が対談の中でキーワードに選んだ「政治のマフィア化」を有権者が感じ取っているということだろう。
終わりの始まり?
【毎日】はやはり1面左肩に「本社世論調査」の記事。2面に関連記事など。見出しを抜き出す。
1面
- 内閣支持10ポイント減36%
- 不支持44%と逆転
2面
- 支持急落 政権に逆風
- 自民「非常に厳しい」
- 「共謀罪」「加計」が影響
uttiiの眼
加計学園に関する政府の説明に「納得していない」人は74%。内閣を支持している人でも59%が「納得していない」。閉会中審査による検証も、「検証すべきだ」が59%で、「必要ない」の26%を大きく上回ったと。
2面記事は、リードで「逆風は一過性なのか、それとも下り坂の始まりか。」と問題を設定。
《毎日》は「加計問題」を特に深刻と捉えていて、次のようなコメントを紹介している。ある政府関係者は、「安部晋三首相の意向が働いたかどうかを政府が真摯に調査しようとしていないという疑念が向けられている。政府関係者は『よく10ポイントの下落ですんだ』」と。
「行政の歪み」の正体
【東京】は1面トップで共同通信の世論調査結果を伝えている。関連記事は2面、調査の詳報が6面に。見出しから。
1面
- 加計説明「納得せず」73%
- 内閣支持率 急落44%
- 67%が「共謀罪」採決批判
2面
- 政府4条件 揺らぐ根拠
- 加計問題 獣医学部16大学など抗議
- 獣医師偏在 東海・九州でも不足
uttiiの眼
共同通信の世論調査結果のうち、《東京》が見出しに選んだのは、「加計説明『納得せず』73%」というもの。ここに支持率下落の決定的な理由があると読んでのことだろう。
他に、6面掲載の調査結果で注目されるのは、不支持の理由のトップが「首相が信頼できない」で41.9%であること。前回調査よりも4.5ポイント上昇している。
2面の解説記事「核心」は、1面に対応して、加計学園問題の最新の局面。「総理のご意向」などと記した文書類の存在が確認された以上、次に、その内容の吟味に入らなければならないのは当然だ。《東京》は、安倍政権が2年前に閣議決定した「獣医学部新設のための4条件」を加計学園のケースでは満たしているのか否かに話を進めている。
まず取り上げられているのは、山本幸三地方創生相の発言とそれに対する獣医学会などの批判について。山本大臣は「長年新設を認めなかったので、獣医学部の質は落ちている」とし、「4条件」を意識して、「新たな需要に対応できていない」とまで述べた。だが、4条件の1つ「既存の大学・学部では対応困難」についての加計学園の提案書は「何が斬新なのかが見えない。ライフサイエンスなどは既存大学で当然やっている」(北海道大学の稲葉教授)し、4条件は、新たに対応すべき具体的な需要を明らかにするよう求めているのに、審議の場で具体的な数字が示された形跡はないと。
さらに、獣医師の需要については、ペットも家畜も全体の頭数が減少する中、獣医師の数は増えていて、問題は「産業動物獣医が少ないという職種の偏在」、「四国に少ないという地域的偏在」という“2つの偏在”。だから四国に新設をという話だが、2020年の予測で、四国以上に東海や九州で獣医が不足するという。しかも、四国に大学を作っても四国で就職するとは限らない。四国に限ることには意味がなく、また、産業動物医の処遇改善が行われなければ偏在は解消しないと。
つまり、国家戦略特区を使って加計学園の獣医学部を新設することは、「岩盤規制」なるものにドリルで穴を開けることに譬えられるべきではなく、滞っている政策に弾みを付ける効果さえない。そもそも課題の捉え方に問題があるということになろうか。
さて、そんな特区構想を無理に推し進めようとした理由はどこにあったのか、誰がそうしたいと考えたからなのか、それはなぜなのか。いよいよ、「総理のご意向」を巡る議論が可能になってきた。
あとがき
以上、いかがでしたでしょうか。
結局、受け皿がないというのが最大の問題なのでしょうか。加計学園の問題についての説明も、「共謀罪」法のゴリ押しについても有権者の反発は非常に厳しいものがあるというのに、それでも、その反発が、ストレートに安倍内閣に対する支持の撤回に結びついているとは言えない状況を見ると、そんなふうに考えたくなります。
かなりきつい閉塞感を感じてしまいます。
image by: 首相官邸