中国は尖閣を狙わない。安倍官邸が捏造した「島嶼防衛論」の大嘘

 

中国の海軍近代化の目的は「防衛的」?

軍事というのは、常に「万が一」を考えなければならなくて、実はそこに大きな落し穴がある。Think Unthinkable ──考えられないことまで考えよというのが、戦略論の教科書の第1ページに掲げてある標語であって、確かに想像力を働かせて、ほとんどあり得ないと思えることでも簡単に投げ捨てずに一応は真面目に考えてみるという態度が必要である。しかしそれが想像力の域を超えて空想力となって飛んで行ってしまうと訳の分からないことになる。

想像力と空想力とをどこで隔てるのかは難しい。私は「想像力には足があるが、空想力には羽があっても足がない」というような言い方で学生に説明したことがあったが、想像力はどこまで膨らんでも現実に足が着いていなければならないが、空想力はそうではない。

万が一に備えるのが軍事だが、その万が一の中のどこか1カ所に着目してその部分を拡大し、そのまた万が一を覗き込むという風にすると、1万分の1×1万分の1=1億分の1で、それはもう空想力の世界を浮遊するのと同じだろう。

上の例で言えば、北朝鮮の難民が日本に向かうというのはほとんどあり得ないが、全くないとは言い切れない以上、まだ「万が一」の範疇だろう。しかしそれが「九州、中国地方」から「離島」に絞られ、それが今度は「尖閣」に変換されたあたりが「億が一」くらいだろうか。そこから再び増殖されて「与那国に守備隊」から「石垣・宮古に攻撃ミサイル基地」というように、空想から架空へと成長していくのはおぞましいことである。その裏側に決して語られない1つのストーリー「北海道の陸自の持って行き場を作れ!」が流れているのである。

「万が一」の落し穴は、相手の力を分析する場合にも気を付けなければいけない。私は、中国の海軍近代化の目的はさほど侵略的なものではなく、基本的には防衛的な性格のものだと判断している。「中国の海軍力増強が目覚ましい」→「今にも日本に攻めてくる」という幼稚な短絡的思考は排除しなければならない。

中国の海軍近代化のきっかけとなったのは、1996年3月の台湾海峡危機である。同月23日に予定された台湾総統選挙で、北京が「独立派」と見なして警戒する李登輝の当選が確実視されている中、中国軍が3月6日、演習と称して台湾南部の高雄市の眼と鼻の先の海上にミサイルを発射して牽制するという愚挙に出た。これに対して米クリントン政権の反応は素早く、ただちに西太平洋にあった第7艦隊の空母インディペンデンスを中心とする戦闘群を台湾海峡に向かわせると共に、ペルシャ湾にいた空母ミニッツとその戦闘群にも回航を命じた。

圧倒的な戦力を持つ米空母戦闘群2個がたちまち台湾海域に急派されたことに、中国の江沢民政権は呆然となった。それこそ万が一にも台湾が独立を宣言した場合は武力を以てでも阻止するというのは中国の建国以来の国是のようなもので、そのため毛沢東の人民戦争論に基づく人海戦術的な台湾侵攻シナリオを後生大事に抱えてきた。もちろん中国はそんなものを発動したくないし、台湾も敢えて独立の言葉を弄んで中国の武力介入を招くことは避けるので、実際には起こらないのだが、しかし中国にしてみれば、少なくとも建前として台湾侵攻シナリオは維持しておかなければならない。ところが、たちまち米空母群2個が立ち現れては制空権も制海権もあったものではなく、全く手も足も出ない状態となることを思い知った。

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