8月1日から年金受給資格期間が25年から10年に短縮され、「これでやっと年金がもらえる!」と安心している方も多いのではないでしょうか。しかし、無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』の著者で年金アドバイザーのhirokiさんは、「年金には特例があり、実は25年に達してなくてもすでに受給資格のある人はたくさん存在する」と、驚きの事実を明かしています。
8月1日から年金受給資格期間が10年に短縮。でも再度年金記録を見直したら遡って年金が貰えちゃった!
8月1日からいよいよ老齢の年金をもらう為の年金受給資格期間が最低でも原則25年ある必要があったのが10年になっちゃいますが、僕みたいな30代の人間でも受給資格期間を満たす! っていうとなんだか変な気分でもあります(笑)。
まあ、既に年金を貰う年齢に達している人は8月1日に老齢の年金の受給権が発生し、まず9月分から年金が発生して10月13日(15日が日曜日だから)が初回支払いになります。ただ、今回は事前に順次に請求書を送られていますが請求が遅れたりすると…10月支払いに間に合わなくて11月支払いになる人もいるかもしれないですね。
さて、10年になりますけどその前にもう一度自分の年金記録の棚卸をして欲しい所ではあります。25年も納めてないよ! って人でも既に年金を受給出来ていた場合があるから。年金にはいろいろ特例があってですね、25年なくても貰える場合が前からあったのです。
というわけで一つの事例で見てみましょう。
1.昭和28年8月18日生まれの女性(来月64歳)
この生年月日の女性なら厚生年金期間が1年以上あり(平成27年10月からは厚年と共済合わせて1年以上でもいい)、年金受給資格期間25年以上満たしてるなら厚生年金が60歳から既に貰える人。
● 厚生年金支給開始年齢(日本年金機構)
この女性の年金記録。
20歳になる昭和48年8月から昭和51年3月までの32ヶ月間は定時制の学生で国民年金強制加入だったが、国民年金は未納(昼間学生だったら国民年金は任意加入で加入しなければカラ期間として年金受給資格期間に32ヶ月間入っていた)。
平成3年3月までは昼間学生は任意加入でした。定時制、夜間、通信、専門学校は強制加入だった。なお、専門学校は昭和61年4月から平成3年3月までは任意加入で、任意加入しなければカラ期間。
● 諦めるなかれ。年金を25年納めなくても貰える「カラ期間」とは(まぐまぐニュース参考記事)
昭和51年4月から昭和62年2月までの131ヶ月は厚生年金に加入。昭和62年3月に自営業の夫と婚姻を機に会社を辞める。この女性は昭和62(1987)年3月から平成6(1994)年12月までの94ヶ月は国民年金未納。
平成7年1月から平成18年7月までの139ヶ月また厚生年金に加入。平成18年8月からこの女性が60歳になる月の前月平成25年7月までの84ヶ月国民年金未納。
よって、この女性は厚生年金期間の131ヶ月+139ヶ月=270ヶ月(22年と6ヶ月のみ)<300ヶ月(25年)。25年に足りていない。
だからこの女性は自分は年金が貰えないと思って、年金請求の事は諦めていた。平成29年8月1日に10年になるっていうからそれを待っていた。
でもこの女性は既に年金を貰う権利が60歳時に発生していたんです。年金受給資格満たしてる人には年金支給開始年齢前3ヶ月に事前送付の年金請求書が届くんですが(この女性の場合ももちろん)うっかり女性は届いた請求書を見落としたものとします(^^;;
厚生年金や共済組合にはちょっとした特例があって、この女性の生年月日だと厚生年金期間が22年以上(共済組合期間と合わせてもいい)であれば年金受給資格を満たす事になっているんです。これを被用者年金短縮特例と言います。
昭和31年4月1日以前生まれの人は20~24年と短縮されてる。なお、国民年金期間は除いてこの期間を満たす事が条件。
● 年金受給資格期間25年を満たさなくても年金貰える生年月日の人がいる(参考記事)
というわけで、平成29年8月に年金貰うのに10年になるっていうから年金請求(初請求)したら、60歳に遡って270ヶ月分の老齢厚生年金が貰える事になりました。なので、例えばの金額としてこの女性の年金額を計算してみます。
昭和51年4月から平成15年3月までの間にある厚生年金期間は230ヶ月。この間の給与平均(平均標準報酬月額)は250,000円とします。
平成15年4月から平成18年7月までの40ヶ月間の給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)を足した額の平均値(平均標準報酬額)を300,000円とします。
● 年金で超重要な標準報酬月額とか標準賞与額って何?(参考記事)
なぜ平成15年3月以前と4月以降で分けているかというと、4月以降は賞与も年金額に反映するようになったから。60歳時点で発生した老齢厚生年金(報酬比例部分)を算出する。
※注意
平成29年度金額で算出しています。当時の年金額に物価変動や賃金変動分は加味していないので、実際は金額に誤差が出てきます。
250,000円÷1000×7.125×230ヶ月+300,000円÷1000×5.481×40ヶ月=409,688円+65,772円=475,460円(月額39,621円)。
だからこの女性は60歳だった平成25年8月の翌月である平成25年9月分から年金が発生し、平成29年7月までの47ヶ月間貰わなかった老齢厚生年金(39,621円×47ヶ月=1,862,187円)が遡って一時金として支払われる(一時金だけど一時所得ではなくその年その年の公的年金等に係る雑所得になる。だから源泉徴収票が過年分の枚数送られる)。
※注意
年金の時効は5年なので請求忘れていた場合は最大遡って貰えても5年分が限度。5年を超える分は時効で消滅する。
なお、この女性は平成29年8月に初請求してるから、支払いは最短で平成29年11月15日支払いかなぁ…。平成29年8月分以降(10月支払い分)は通常通り偶数月前2ヶ月分で支払う。
ちなみにこの女性の生年月日だと64歳になる平成29年8月から定額部分という年金が発生する(実際の年金額の変更は翌月の9月分から)。
※ 定額部分→1,625円(平成29年度定額単価)×270ヶ月=438,750円。
つまり、60歳到達月の翌月平成25年9月から平成29年8月分までは老齢厚生年金の報酬比例部分475,460円(月額39,621円)のみだけど、平成29年9月分から報酬比例部分475,460円+定額部分438,750円=914,210円→月額76,184円に増額になるわけです。だから、老齢厚生年金年額が平成29年9月分から914,210円になるって事。
よって平成29年10月に支払われる年金は、平成25年9月から平成29年7月までの47ヶ月貰わなかった年金の遡り分1,862,187円+平成29年8月分39,621円+平成29年9月分76,184円=1,977,992円が振り込まれる。
でも、平成29年8月に初請求しちゃってるから年金振込は初回は概ね3ヶ月はかかるので10月13日ではなく11月15日にズレるとみていたほうがいいですね。場合によっては12月15日になるかもしれない。
平成29年12月15日以降の偶数月の振込は76,184円×前2ヶ月分=152,368円の振込になる。
なお、この女性は厚生年金期間が240ヶ月以上あるので、平成29年8月17日時点(誕生日の前日)で65歳未満の生計維持している夫(住民票が一緒で夫は前年収入850万円未満または前年所得が655.5万円未満で、厚生年金や共済期間20年以上または併せての年金は貰ってないものとします)が居れば、平成29年9月分から配偶者加給年金389,800円(月額32,483円)加算される場合がある。普通は65歳時点で生計維持している配偶者がいる事が条件ですが、この女性の場合は定額部分発生時(平成29年8月17日)に配偶者加給年金付けるかどうかを見る。
だから、配偶者加給年金が付くのであれば老齢厚生年金(報酬比例部分475,460円+定額部分438,750円=914,210円)+配偶者加給年金389,800円=1,304,010円(月額108,667円)になる。
※補足
この女性が65歳になった時は270ヶ月分の老齢基礎年金が国民年金から支払われる。なぜ、国民年金からも年金が支払われるかというと昭和36年4月以降20歳から60歳までの厚生年金期間は国民年金にも同時に加入してるから。
老齢基礎年金額は満額779,300円÷480ヶ月×270ヶ月=438,356円。
そして、65歳になると定額部分は役目を終え、老齢基礎年金に移行して消滅する。65歳からの年金額を示すと、老齢厚生年金(報酬比例部分)475,460円+老齢基礎年金438,356円+配偶者加給年金389,800円=1,303,616円。
なんと、65歳前の1,304,010円から1,303,616円に金額が下がってしまいました!
だけど大丈夫!この差額は、経過的加算(差額加算ともいう)というので補います。この加算は老齢厚生年金の部類。
経過的加算→定額部分1,625円×270ヶ月-老齢基礎年金満額779,300円÷480ヶ月×270ヶ月(昭和36年4月1日以降20歳から60歳までの期間に限る)=38,750円-438,356円=394円。
つまり、老齢厚生年金(報酬比例部分475,460円+経過的加算394円)+老齢基礎年金438,356円+配偶者加給年金389,800円=1,304,010円となり、65歳前の年金額と一致するから損をするわけではないのであります^_^
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