MAG2 NEWS MENU

免許返納で「生活の足」が消える地方の高齢者はどうすればいいか?

シニア世代による交通事故の増加が大きな問題となっています。政府や自治体では運転免許の返納を高齢者に勧める方針に力をいれています。しかし、地方の高齢者にとって車はまさに「足」であり、それを奪うことは「引きこもり老人」を増やす原因になりうるという指摘もあります。免許返納に困る地方はこの先、どうすればいいのでしょうか。この問題を考察しながら、注目すべき現代的な配車サービスについて紹介します。

「免許返納」は新たな問題を引き起こす

高齢者の交通事故が増えているということで、政府も自治体も運転免許の返納に力を入れている。自治体によっては、返納促進のために、無料で品物を提供したり、定期預金の臨機優遇や観劇割引などのサービスを返納特典として用意しているところもある。

しかし、その程度の特典で返納しようという人は多くない。車がなくては、買い物どころか、医者にも行けないというシニアが多いからだ。あるシニア向け講座で、「この会場にどのような交通手段で来ましたか」と質問したところ、8割以上の人が「自分の車で」と答えた。特に、地方に住む人にとって、車はほとんど体の一部、文字通り「足」なのだ。

彼らから足を取り上げたら、どうなるか。当然ながら、家にひきこもりがちになる。交通網の発達している都会でも問題は同じだ。地域社会でボランティアや社会貢献に活躍しているアクティブシニアたちも、実は、車なしの活動は大変なのだ。

先日、80歳の男性から、こんなメールをもらった。この人は小学校や幼稚園で、子供たちに囲碁を教えるボランティアをしている。会場に行くのに、以前は車を使っていたが、80歳になったので、免許証を返上したそうだ。
ある日、特別に荷物が多いので(囲碁教材1式、囲碁セットなどを参加人数分合わせて、5キロ以上)、手提げ袋4つに分けて運んでいくことにした。バスを降りてから、重さにふらふらして歩いていたら、自転車の後ろに子供さんを乗せた若いお母さんが通りかかり、見かねて、カゴに入れて届けてくれたのだそうだ。

汗をぬぐい、一息つきながら児童館に到着したら、玄関先に届けられていたとか。メールには「もし、あのお母さんが助けてくれなかったら、私は熱中症で倒れていたかもしれません」と書いてあった。
こうしたことが続けば、まだまだ意欲のあるシニアでも、もうボランティアはやめようと思うかもしれない。それがきっかけで家に閉じこもるようになれば、要介護になりやすいという新たな問題を作るだけだ。超高齢社会では、シニア世代を家に引きこもらせない手段を講じることは非常に重要である。

「自動運転車の普及」にはまだ時間がかかる

高齢者の交通事故を高齢者の運転技術の問題として片づけるのは単純過ぎる。年齢にかかわらず、そもそも運転が苦手な人も多い。ペーパードライバーも少なくない。変わるべきなのは、人ではなくて車である。

人にやさしい車はなにかと考えたら、代表的なものに「自動運転車」がある。早く充分な性能を備えて、一般に普及するようになれば、少なくとも、高齢者やペーパードライバーには大きな変化が訪れる。

まず、今まで問題だった過疎地の買い物難民はいなくなる。お年寄りが自分で自動運転車に乗って買い物に出かけてもいいし、食品や日用品を積んだ無人運転者が定期的に地域に来てくれるなんてことも可能だ。通院も同じ。自分の車で行くか、あるいは、やはり無人運転のお迎え車がやってくる。

運転技術に関係なく、自分で好きな時に、好きなところに行くことが可能になれば、誰のお世話にならずとも、人に会いに行ったり、好きなものを食べに行ったり、映画を見たり、急に思い立ってお墓参りすることも簡単だ。早くこうした時代になってもらいたい。
ただし、そうなるには、技術的にも、運用的にもまだまだ時間がかかるらしい。

助け合える「配車アプリ」の利用を

そこで、その間にできることは何かと考えると、結局は、相互扶助(お互いの助け合い)という仕組みに落ち着く。つまり、車があって、運転技術も確かで、時間のある人が、車を利用したくてもできない人をサポートする仕組みである。

このように書くと、なんだ!ボランティアかと思うかもしれないが、そうではない。Uber」や「Lyft」といった配車サービスアプリの導入を積極的に考える時期だということだ。

配車アプリとは、自家用車を持っていて、活用したい、それで収入を得たいという一般ドライバーと、車を自分で運転できない人とのマッチングを行うシステム。料金はタクシーよりも安く、手軽に利用できるので、アメリカやアジアの国々では急速に普及している。

日本では、タクシー業界の反対や配慮から、自家用車での営業は違法な白タク行為とみなされ、利用が進んでいない。しかし、タクシー業界も、運転しにくい人の利用を考えた取り組みを始めている。

例えば、チャイルドシートなどを取り付けた「子育てタクシー」、陣痛などの不測の事態に対応できる「マタニティ・タクシー」、学校や塾と自宅を顔なじみの乗務員が送迎する「キッズタクシー」がある。シニア向けでは、最近、「乗り合いタクシー」のテレビCMをよく見るようになった。運転できない人の車の需要は多いのだ。

従来は、地域の助け合いとして、そうした人たちをボランティアで送ってあげるという例が多かった。しかし、ボランティアではもはや対応できない状況に来ている。利用法や料金を明確にしたシステムのほうが、利用者も気兼ねなく使える。もちろん、お年寄りにも操作しやすいシステムの開発は必須。でも、これはすぐにできるだろう。

自治体は免許返納を促進したいなら、配車サービスアプリを導入することを積極的に考えてはどうだろうか。高齢者の需要を満たす取り組みは、地域社会で若い世代が新たなビジネスを生みだす契機にもなるのだ。

 

image by: Shutterstock

※本記事はジモトのココロに掲載された記事です(2017年6月28日)

松本すみ子

松本すみ子
シニアライフアドバイザー。2000年から団塊・シニア世代のライフスタイルや動向を調査し、発信中。全国各地の自治体で「地域デビュー講座」の講師なども務める日々。当事者目線を重視しています。公式サイト 

 

【ジモトのココロ人気記事】

▶︎話題の「おふろカフェ」以外にも。全国のユニークなカフェ

▶︎なんだろうこの懐かしさ。都内で食べる「台湾の駅弁」が密かなブーム

▶︎夜のプールはテンション高め。水着美女が乱舞する「ナイトプール」

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け