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幻獣たちのいるところ。鬼才・伊東忠太が仕掛けた築地本願寺の動物を探せ

誰もが一度はその名前を耳にしたことのあるはずの「築地本願寺」。実際に訪れてみると、日本のお寺とは思えないほどユニークな外観が特徴的です。それもそのはず、現在の本堂のモチーフは古代インド。これを手掛けたのは、明治か昭和期にかけて活躍した、建築家の伊東忠太氏です。摩訶不思議な動物の像がいることでも有名で「幻獣建築」の代表としても知られています。伊東忠太氏の世界観を感じられる不思議なお寺の築地本願寺へ行ってみましょう。
※本記事は地元応援サイト「ジモトのココロ」に掲載された記事です(2017年8月9日)

伊東忠太が手がけた、不思議なお寺「築地本願寺」

築地駅から出てすぐ、異彩を放ったお寺が見えてきます。国指定の重要文化財にも登録されている築地本願寺です。

ご存知の方も多いかもしれませんが、こちらを手がけたのが、明治から昭和を駆け抜けた建築家の伊東忠太(いとうちゅうた)
建築を学ぶために、インド、中国、トルコに留学経験もある伊東忠太が手がける建物は、どこかエキゾチック。もともと動物や妖怪が好きだったという伊東は、建築にも摩訶不思議な動物の彫刻・彫像を取り入れています。通称「幻獣建築」とも呼ばれていますが、代表的な幻獣建築の1つこそがこの築地本願寺なのです。

コンクリート造りの佇まいは、美術館や博物館、あるいは古代ギリシャの神殿のようです。

 

築地本願寺は、その外観からして、「お寺ですよ」と連れて来られたとしたら、はじめて見るものは、「え?」と驚いてしまうような、日本のお寺とは異質な雰囲気を漂わせており、一見するとインドの寺院のよう。留学で訪れたインドの影響を受けた伊東忠太は、仏教の発祥の地であるインドの世界観を築地本願寺で体現しました。

こうした異質さを醸し出す建物に、先に述べたような幻獣探しの探検といったテイストを組み合わせてみれば、眼前に広がる光景は、「幻獣界への入口」あるいは「幻獣の住処」といった雰囲気が漂い、入ると同時に気分が盛り上がります。もちろん、ここはお寺ですので、礼節はお忘れなく。門をくぐる時は、本堂に向かって一礼をしてから入りましょう。

菩提樹の葉と蓮の花をモチーフにした屋根正面の意匠です

さて、幻獣探しに入る前に、まずは幻獣の住処についての外観チェックです。探検で重要なのは、探究心と体力、そして情報ですからね。相手の情報を知る事は、探検を成功させるための重要なファクターなのです。

建物を見るとまず目につくのが、日本では珍しい、丸みを帯びた屋根ですね。イスラムやインドのモスクに見られるドーム状の屋根をイメージされています。良く見ると、丸みを帯びた本堂の屋根の正面には、菩提樹の葉と、蓮の花のモチーフが描かれているなど、日本の寺院でも良く見られるモチーフが施されていることから、ここがお寺であることを思い出させてくれます。

ターコイズブルーの扉に総舵輪(船の舵)のモチーフが光ります

お寺には珍しいステンドグラス。デザインは、仏教をイメージしている事がわかりますね

ちなみに、本殿入口にあるターコイズブルーの大きな扉、3枚の扉のうちの中央の扉には、操舵輪(そうだりん)をイメージさせる金色の装飾が施されていました。築地というこの土地がもともと海上であったことに由来するのでしょうか。それとも、幻獣探しの探検という大海原への船出を意識させるための演出なのでしょうか。(そんなはずはないですね)

お寺に棲みつく摩訶不思議な動物たち

正面階段下の獅子像。口が“あ”の形ですね。左奥の像は口を閉じ、右奥の像は口を開いているのがわかるでしょうか?

正面階段下の獅子像。口が“うん”の形ですね

さて、いよいよ探検の始まりです。

早速、いました。本堂入口の階段下に、獅子が鎮座しています。しかもこの獅子、翼があります。まさに幻獣。いや、本殿を守る聖なる獣ですから、聖獣でしょうか。どちらにしても、有翼のライオンなんて、普通の探検(冒険)であれば、”ボスキャラ”に違いありません。そんなボスキャラを門番に置くなんて…。この先の探検でどんな幻獣が現れるのかと思うとワクワクしてきます。

あまり見かけない、獅子像の背後からの写真。有翼であることがはっきりしますね

 

ちなみに、この獅子像を通常の寺院に置き換えると、狛犬(こまいぬ)になるのでしょうが、実は狛犬というのは、仏教が日本に伝わる過程で変化して来た存在で、仏教の始まりであるインドのアショーカピラーの天端に安置された獅子像が起源とされているのです。

また、こちらの有翼の獅子像、ギリシャ神話に登場するグリフォンやインドの神鳥とされるカルラ(ガルーダ)といった鳥をモチーフとした幻獣とは違い、獅子そのものをモチーフとしたなんとも不思議な幻獣です。

この獅子像、階段の左右に安置されており、その口元は、いわゆる「あ」「うん」の形にされているのですが、面白いことに、階段の上に上半身だけ彫刻されている獅子像は、この「あ」「うん」が、階段下の像と逆になっているのです。

どの方向から入っても、「あ」と「うん」、人生の最初と最後、すなわち異世界への入口を通るという事を意味するのでしょうか。
そんなところまで深読みすると…やっぱりここは、幻獣界への入口だったのかと感じます。

牛をモチーフにした像。

扉を抜けて本堂へ足を踏み入れると、何やら視線を感じます。そっと右手に視線を移すと、「」のお目見え。
階段手すりの支柱部分の牛がこちらを見つめています。牛は仏教では神聖な生き物として崇められていますが、こちらの牛はずんぐりむっくりとした肉感がなんとも愛らしい。ただ可愛いだけではなく、同時に強さも秘めているよう。

クジャクをモチーフにした像

そして、牛の向こうから、不思議そうにこちらを眺めている孔雀がいました。キョトンとした顔をしていますが、こちらの孔雀は阿弥陀経に説かれている鳥の一種ですね。その生態から、物事を包み隠さず、自分の心をさらけ出すものの例えとされているようです。

 

ここで、邪な気持ちを捨てていきなさいー

クジャクの像を見つめていると、そんなふうに言われているようで、なんだか、自分の心が見透かされたようで恥ずかしい気分になりました。

獅子をモチーフにした像(左)と、馬をモチーフにした像(右)。獅子は、正面階段の像と顔が似ていますね。

いきなり2体の獣を見つける事ができるとは、幸先の良い探検です。さぁ、次にいくぞ!

と、中央扉に足を向けたところで、視界の端に何かが映り込んだ気がして振り返ると、獅子と馬の姿が。こちらもむっくりとした姿形がなんともいえません。馬の足の動きに躍動感を感じますね。
獅子は、神社仏閣の狛犬に見立てられるような神聖な動物であると共に、仏教では、仏の知恵の象徴ともされています。そんな視点で見ると、どことなく賢い顔をしているようにも

また、馬は仏教では珍しいようですが、王族であった釈迦が俗世に旅立つ際に乗っていたのが白馬であったとされていますから、別れや旅立ちの象徴ということでしょうか。ある意味、お寺にふさわしい彫像なのでしょう。

こうした彫像を施した階段は、本堂の講堂入口の左右に存在するのですが、この日は入口左手側の階段は、通行禁止とされており、残念ながら、探索はできませんでした。

講堂内にも聖獣たちの姿が

まるで洋館のような講堂手前の廊下。

講堂内の主柱。黒い部分に四聖獣のモチーフが施されています

本堂講堂。一見普通のお寺のように見えますが、白い柱と梁が異色を放ちます。

満を持して講堂内に立ち入ると、正面には黄金に彩られた立派な仏壇が飾られています。気を抜くと忘れがちになりますが、ここがお寺であることを思い出させてくれます。

しかしながら、やはりちょっと異質感を感じさせるのが、白い梁と柱。さり気なさを装いながらも、「コチラを見て!」と言わんばかりの存在感を感じます。近寄って行ってみると、やっぱりいました。朱雀、青龍、玄武、白虎の四聖獣です。

朱雀

青龍

玄武

白虎

“ザ・幻獣”と言って良いくらい有名な幻獣達ですね。四聖獣の起源は中国とされており、世界の四方向を守る神獣と言われています。ちなみに、それぞれの担当する方位は、北が玄武、南が朱雀、東が青龍、西が白虎です。

ひとしきり精巧な四聖獣の彫像を眺めた後に講堂入口側を振り返ると、これまたお寺には似つかわしくない銀色のパイプが並んでいます。大きさからして、獣を呼ぶための犬笛では無いようです(当たり前!)。いったいコレは?

パイプオルガンの演奏部

パイプオルガンのパイプ部分入口扉との比較で、その大きさがわかりますね

こちらは、パイプオルガンなのです。本堂講堂の壁面に設置された無数のパイプは、まるでヨーロッパの教会のような雰囲気ですね。このパイプオルガンは、1970年に、財団法人仏教伝道協会より寄贈されたもので、法要や結婚式などの行事や、ランチタイムコンサートなどの際に演奏されているのだそうです。

 

グロテスクと称される手すり上部に施された彫像。イメージは、鬼瓦のようなものでしょうか。

講堂を後にして、本堂の探検を進めると、ひっそりとした階段に辿り着きました。そうした静かな雰囲気の中、まるで竹取物語の一節にある「あやしがりて 寄りてみるに」といった感じで吸い寄せられ、そろりそろりと階段を上り下りしてみました。

すると・・・“痛っ!手を何かに噛まれた!”

と、そんな気分になって暗がりに目をやると、「うわぁ!」叫びたくなるギョロ目がこちらを見ていました!グロテスクと称されるこの彫像は、手摺りに噛みついたような状態で、階段上部からこちらを見下ろす異形のモノです。指を折り曲げた状態で手を前に置くと、本当に噛まれているような写真が撮れそうですね。

人なのか?怪物なのか?こうした摩訶不思議な彫像は、正に、伊東忠太氏の世界観を表しているようですね。

 

グロテスクに睨まれたドキドキ感を押し殺し、勇気を持って本堂内の探索を続けると、窓の外から綺麗な鳥の声が聞こえたように感じました。その雰囲気に誘われて窓際から中庭を除くと、半鐘が見えます。

外壁に半鐘。鳳凰像に吊られていました。どうやって鳴らすのでしょうか?

 

実際には、鐘は鳴らされていないはずですが、綺麗な声が聞こえたように思えたのは、半鐘を支える鳳凰の存在感のせいかも。
2階の壁に安置されたその姿はやはり、半鐘の重さに負けない力強い肉感がありました。鳳凰といえば、建物の頂上に祀られているイメージがありますが、こうした壁際に安置されている姿は、なんだか斬新ですね。

 

ご朱印はないとのこと。

ご朱印帳は持ち合わせていなかったので、メモ帳にスタンプを押してみました。

参拝記念スタンプ。

左側は工事区域。右手前に盆踊りの櫓が組まれていますが、本堂の荘厳さに変わりはありませんね。

 

伊東忠太氏が集めた世界の動物意匠が集約された築地本願寺は、現代の私たちが見てもエキゾチックで摩訶不思議、そして斬新そのもの。ここでご紹介した動物たちは一部ですが、それぞれ愛嬌のある雰囲気の中に精巧さを感じる彫像でした。

もしここを訪れる際には、ほかの動物たちも見つけ出してみてください。

 

【築地本願寺に棲む動物たち】
翼の生えた獅子像/牛/馬/獅子/象/孔雀/猿/鳳凰/グロテスク(珍獣、青龍・朱雀・白虎・玄武)

【伊東忠太が生み出した”妖怪”がいるほかの建物】
湯島聖堂/一橋大学 兼松講堂/靖国神社遊就館

伊東 忠太(1867年〜1954年)
山形県米沢市出身。明治から昭和にかけて活躍した、日本を代表する建築家。明治35年、建築を学ぶためにインド、トルコ、中国へ留学する。帰国後は東京帝国大学教授に就任。築地本願寺のほか、平安神宮(京都)、俳聖殿(三重県)などの重要文化財など、多くの建築物を手掛ける。妖怪が好きで、妖怪を描いた漫画なども描いていた。「妖怪研究」という書籍も発表。

 

 

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梅原 慎治

梅原慎治 
埼玉県生まれ、都内在住のツーリングライター。主に関東近郊を走り周り、美味しい物や良い景色などを見つけて楽しんでいる。趣味としてフルコンタクト系の空手も嗜んでいる。

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