アメリカの国民食とも言える「ハンバーガー」ですが、消費の中心がミレニアル世代に移るとともに、その業界に変化が起こっているようです。無料メルマガ『顧客を喜ばせる世界の成功企業最新戦略紹介』の著者で米国ビジネスモデルコンサルタントの清水ひろゆきさんは、現在支持されているのは「こだわりを美味しさに設定した店」だとし、今人気を集める3つのハンバーガーショップの特徴を専門家目線で分析するとともに、そこから学べる「日本のビジネスが次世代を取り込む方法」を考察しています。
本場アメリカのハンバーガーに見る進化形戦略
今、マクドナルドの人気復活と共に日本ではアメリカ以上にバーガーブームが食のトレンドを引っ張る勢いとなっています。
19世紀初頭からアメリカのレストランで提供されていたハンバーグをパンに挟んで販売した「ハンバーガー」は、3種の具材「ピクルス」「オニオン」「レタス」にケチャップやマスタードなどを加味したものが定番化し、ファストフードの代表格となりました。その後、1971年には米ファストフードの最大手マクドナルドが、本場アメリカのハンバーガーとして日本上陸を果たしたのです。
当時は独特の酸味を持つピクルス(アメリカのソウルフード)にアレルギーを示した日本人でしたが、ここにきて改めてハンバーガーの旨さに目覚めてきたようです。一体、何がきっかけとなって今日のバーガーブームが始まったのでしょうか?
それは、日本人が、アメリカンバーガーの本場の味である、ジューシーなビーフパティと「ピクルス」「オニオン」「レタス」が醸し出す酸味、シャキシャキ感のアンサンブルに美味しさを感じ始めたからに相違ありません。
3つの具材がファストフードハンバーガーを進化させた?
アメリカのハンバーガーの二大勢力は、世界最大のハンバーガー企業マクドナルド(1937年創業)と超大型のハンバーガーで知られるマクドナルド最大のライバル企業バーガーキング(1953年創業)です。
バーガーキングは、ワッパー(Whopper=とてつもなく大きい)を売りに、炙り焼きした香ばしいクォーターパウンド(約113グラム)のビーフにジューシーなトマトとシャキシャキのレタスとパリパリしたピクルス、更にさらしたホワイトオニオンをケチャップとクリーミーマヨネーズで旨みを倍増させ、美味しさを訴求しています。
かたやマクドナルドは、ファストフード独特のシーズニングをほどこした、あとを引くビーフの味にケチャップとマスタードが絡まり、酸っぱいピクルスと刻まれたオニオン、カットレタスが無性に食べたくなる旨さをかき立てます。
この二大勢力に、レストランのシェフがベストバーガーと評価する第三の勢力の(作り置きしない)ファストフードとも言えるイン&アウトバーガーが出現。
同社は1948年カリフォルニア州ボールドウィンパーク創業と老舗ながら現在同州を中心に300店舗を超える店舗を展開し、2017年にはハンバーガーブランドランキングで第2位(1位はフランチャイズ店舗が多いファイブガイズ)を獲得します。
イン&アウトが2大勢力に対抗できたのは、食材の鮮度を重視する地元密着の戦略を戦術化できたからです。
●イン&アウトの美味しさを生み出す戦術とは?
- ピクルスは注文すれば入れてくれる(代わりに酢漬けハラペーニョ=青唐辛子取り放題)
- 冷蔵で運ばれたオニオンをスライスかグリル調理
- 冷蔵レタスは手でもぐ
- 一切つなぎを使っていない冷蔵100%メイドインアメリカのビーフ
- 冷蔵トマトはスライス使用
- 1948年創業から一切変わらない特製ソースをグリドルでトーストしたバウンズにスプレッド
ファストフードのハンバーガーは、イン&アウトの出現により本場アメリカンバーガーの3つの具材「ピクルス」「オニオン」「レタス」をカスタマイズすることで、より美味しくバージョンアップさせる進化を遂げたのです。
こだわりを美味しさにしたアメリカンバーガー3つの特徴とは?
アメリカのベビーブーマー(1946~1964生まれ7,700万人)が、薄いアメリカンコーヒーから本格的な味のコーヒーを好みスタバを支持したように、ハンバーガーもイン&アウトの出現により、ファストフードを超えた個性あるものが今ホットです。
国民食でもあるアメリカンバーガーは今3つの特徴で顧客に支持され、かつ利益を生み出す仕組みを構築しています。
1.プロデュース(コンセプト重視)バーガー:シェイクシャック
高級レストランのオーナーだった創業者ダニー・マイヤーがマディソンスクエアパークの再開発のためにプロデュースしたハンバーガー。
肉の部位の配合を考えたパティは前日に挽いた新鮮なアンガスビーフ100%で健康的に飼育されたものを厳選し、焼き加減も指定できる。又ジャガイモを使った「ポテトバンズ」を使用し、肉の香りを最大限に活かしている。
バーガー&カフェバーに近い業態(バーガー専門店ではない=ホットドック、デザート、地ビール、ワインも販売する)を導入し、食事以外の多用途で来店機会をアップさせ、高品質なグルメバーガーを5~6ドルで提供しても、高い売り上げにより利益を生み出す。
※ 再開発がお店のコンセプトだったことで、廃材をリサイクルし、キッチン、照明もエネルギー効率を考えた設備でローコストオペレーションを実現。
現在海外16都市、136店舗展開。
2.カリナリー(調理重視)バーガー:ハビット
1968年カリフォルニア州サンタバーバラで創業。冷凍は一切使わず、新鮮な食材を地元で調達し、キッチンで全て調理。特製のバーベキュータイプのグリドルでビーフパティを炭焼きし、野菜も手でもぐ手づくり感満載。
ファストカジュアルという業態で、作り置きせず(イン&アウトはカウンターで呼ばれるまで待つ)テーブルで待っているとページャーで知らせてくれるのでレストランと同じ心地よさがあり、ディナー需要も多い。
炭焼きの香ばしさは独特の美味しさを醸し出し、炭焼きバーガー3~4ドルというコスパの良さが客単価を8ドルにまで押し上げ、来店頻度(夕食)のアップにより損益分岐点を突破できる売上高を確保。
ショッピングモールやストリートへの出店をメインに利益を生み出す仕組みを確立。投資会社の傘下から2014年に上場し、現在195店を展開。
3.レストラン(レシピ重視)バーガー:50・50スレーター
2009年カリフォルニア州アナハイムヒルズで創業。バーガーとベーコンと地ビールをこよなく愛すスコットスレーター氏がベーコン50%とビーフ50%のパティを作り上げたことがきっかけとなり、5種類のパティ(ビーフスパイシーなど)と5種類のバンズ(ブリオッシュなど)、12種類のチーズ(ブリエなど)と30のトッピング(アンチョビなど)と20のソース(ステーキソースなど)を組み合わせるメニューを開発。
国内29種類のビールを扱い、店内をスポーツバーエリアとダイニングエリアに分けることでランチ、ディナー、ファミリー、カップルという来店機会をつくり、多様な客層の支持を出店地地域で獲得。
ビーフとベーコンを50・50で組み合わせたバーガーは10ドルを超えるがバーガーフリークの人気を博し、ビールの売り上げによる客単価のアップで利益を生み出している。
ハンバーガーカジュアルレストランとして地域密着型で住宅地に隣接するショッピングモールに出店。現在7店舗展開。
アメリカのバーガーが示唆、存続するビジネスの価値とは?
アメリカで10兆円の市場を狙うハンバーガーマーケットの争奪戦は、美味しさにこだわるバーガー企業が大手企業がビジネス化できないこだわりを突き詰め、いかにビジネスモデルとして確立するか? にかかっています。
国民食ハンバーガーが健康志向より美味しいもの志向へと向かっている中、支持されるこだわり(価値観)とは、食材の鮮度と調理法とトレーサビリティー、そしてサステナブルです。
なぜならアメリカの消費は、ベビーブーマーから既にミレニアル世代(1980年以降生まれ)とその後の世代に人口規模において移っており、この層がお金を使う基準は、美味しさを生み出すビジネスが世の中にとってよいことを実施しているのか? という企業の在り方なのです。
少子高齢化の日本は、これから高齢化対策と共に若い世代をいかに取り込んでいくか? がビジネスの存続には不可欠となります。
アメリカで起こっているハンバーガービジネスが存続をかけて訴求する価値は、SNSが口コミを起こす時代を見据えた戦略であり、日本のビジネスが次世代を取り込むには必要なのです。
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