7月中の救急搬送人数が2万5千人あまりと過去最高を記録した熱中症。命を落とすこともある恐ろしい症状ですが、中部大学教授の武田邦彦先生は、「気候は熱中症になりにくい方向になっている」と言います。では、なぜこれだけの方が「熱中症」として運び込まれる事態になっているのでしょうか。『武田邦彦メールマガジン「テレビが伝えない真実」』では独自の考察が展開されています。
年々増え続ける原因は「医師のサボリ」
熱中症が増加している。「熱いのだから当然だ」と思いがちだが、必ずしもそんなに単純ではなさそうである。熱中症の危険性は、第1に気温、第2に湿度、であって、日本の都市は気温は少し上がっているが、湿度は低下している。
具体的な数値を整理すると、今から20年ほど前、ほとんど熱中症がなかった時代の大都市の気温を基準にとると、現在の気温のうち、特に最高気温は0.5℃から1℃程度上がっている。
それに対して、湿度は地面がコンクリートやアスファルトになったこともあって低下を続け、15%程度減少している。つまり、昔に比べると現在は「気温が少し上がり、湿度が大幅に低下した」ということになる。
一方、熱中症になりやすい指数というのがあり、温度が高いほど、湿度が高いほど熱中症にかかりやすくなる。おおよその目安は温度が1℃上がるのと、湿度が5%変わるのが同じ影響が見られている。
そうすると大都市の気温が0.5℃から1℃上がっているので、湿度が3%から5%程度下がっていれば熱中症の危険性は変わっていないということになる。現実は温度が上がっている都市をとっても1℃ぐらい、湿度は15%は下がっているのだから、熱中症的には「安全側」になっているはずである。
ところが現実には熱中症の診断基準ができた1994年以後、徐々に熱中症が増え、2015年、つまり今年の患者さんは過去最高という予想もされている。なぜ気候は熱中症になりにくい方向へ行っているのに、熱中症患者が増えるのだろうか?
最も単純な原因として考えられるのが、「医師のサボり」である。熱中症の診断基準というのは実に曖昧で、「温度が高いなど熱中症になりやすい環境にいるときに体の不調を訴えた場合、熱中症とする」というほぼ全部の病気を含む診断基準になっている。
つまり、現在使われている熱中症とは、「病気の名前」ではなく「症状の名前」だから、たとえば「発熱症」のようなものだ。つまり、風邪(ウィルス)で熱が出ても、肺炎(細菌)でも、原因はともかくとして熱がでれば「発熱症」というのと同じだ。35℃ぐらいのところに長時間いれば、人間はぐったりする。人間の体温が37℃で、外気が26℃でなければ体の中で発生する熱をとりさることはできない。
そんな時には「放熱」ではなく「蒸発熱」で体を冷やす。つまり汗をかいてそれが体表面から蒸発する時に、膨大な熱を体から奪うので、それを利用するのだ。イヌは汗腺がないので、舌から水分を蒸発させて体全体を冷やすので、いつも「ハアハア」と舌を出している。
温度が高いほど蒸発はするが、湿度が高いと蒸発しないので、湿度と温度の関係になるのも、これが理由になっているし、暑いところにいるとグッタリする理由である。だから、高齢者などは打撃を受ける。今までは熱中症という病名がなかったので、「体が弱っていた」とか、「日射病になった」と言っていたがそれがすべて「熱中症」で片付けられる。
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『武田邦彦メールマガジン「テレビが伝えない真実」』より一部抜粋
著者/武田邦彦(中部大学教授)
東京大学卒業後、旭化成に入社。同社にてウラン濃縮研究所長を勤め、芝浦工業大学工学部教授を経て現職に就任。現在、テレビ出演等で活躍。メルマガで、原発や環境問題を中心にテレビでは言えない“真実”を発信中。
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