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安倍首相も小池氏も。政治家が選挙戦で「国益」を語らない理由

無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係研究者・北野幸伯さんのもとに、読者の方から質問が届きました。その内容とは「なぜ政治家たちは日本にとって大切な国益について語ろうとしないのか」というもの。確かに「消費税を上げさせません」などという主張は耳にしますが、国益という大きなテーマを熱心に語る政治家はあまりいません。その理由について、北野さんが明快な答えを記しています。

日本の国益とはなにか?

読者のSさまから、メールをいただきました。

北野先生

 

こんばんは。自民党に意見を伝えようと、僭越ながら先日自民党員になりました。役目を終えたら、日本人の一人に戻ります。これから本題へ。

 

何故、各政党、そして候補者は、国益とは何か? と

 

  • 主張しないのでしょうか?
  • 主張できないのでしょうか?
  • わからないのでしょうか?
  • 知らないフリをしているのでしょうか?

とにもかくにも謎です。たしかに国益という言葉、かつての右翼用語ではなくなったように、様々聴くようになりました。

 

  • 戦略は公開するもの。
  • 作戦は秘密にするもの。

だと思っています。件の敗戦後リベラル(我が国が発明したナンチャッテリベラル)排除の先、理由は何だろうか? と、只今考え中です。今、我が国が国益を定義するのは、時期尚早なのでしょうか?

 

対米、対露、対中、対韓、対北、対世界各国、そして我が祖国の同胞に対して日本国の国益とは何か?と、政府が定義することは、相手国にとって、そして我々日本国民にとって、とても分かりやすくなると思います。

 

そこから話し半分、いわゆる「落としどころ」を、つまりベストウェイを双方納得できるのでは? と思います。

 

北野先生に質問しました。宜しくお願いします。

国益」に関するご質問です。

  1. なぜ政治家は「国益」を主張しないのか?
  2. 国益とは何か?
  3. 今の日本の国益とは?

私なりの回答をさせていただきます。

なぜ政治家は「国益」を主張しないのか?

答えは、「国益を主張すると選挙で勝てないから」です。これ、私が考えたのではなく、知人の政治家さんがいっていました。

RPEのスーパーエリート読者さんは、まず世界のこと、日本のことを考えておられるでしょう? しかし、普通の人は、まず「自分のこと」を考えます。次に「家族のこと」。その次は、自分の住んでいる市町村のこと。

国益」というのは、一般人にとっては、「あまりにも抽象度が高すぎる」。つまり、「実感圏にない」のです。それで、政治家さんが選挙で勝とうと思えば、「私が勝てばあなたにメリットがありますよと信じさせる必要がある。たとえば、「私が勝てば沖縄基地問題を解決します! それが国益です」といっても、沖縄県民以外は、なかなかイメージできません。

しかし、「安倍総理は、必要もないのに消費税を引き上げようとしています。それで、あなたの月々の出費は増え、財布は軽くなります!」といえば、奥さんは「あらまあ、私は、重い財布が好き。やっぱり凍結宣言している小池さんに投票しようかしら」となる。

というわけで、答えは、「国益を主張すると、選挙で勝てないから」でした。

国益とは何か?

次、行きます。私は、19歳でモスクワ国際関係大学に入るまで、「国益」という言葉を聞いたことがありませんでした。これはSさんがおっしゃっているように、かつては「右翼用語」「事実上の禁句」だったからでしょう。

ところが、モスクワ国際関係大学では、毎日毎日「国益」(ロシア語で、ナツィオナリニー・インテレス)の話を聞かされました。そう、ロシア外務省付属の大学では、毎日毎日「国益とはなんぞや?」という話をするのです。

ところで「国益」ってなんでしょう? シンプルに、「国の利益」のことです。では、「国の利益」とはなんでしょうか? これは、いろいろな国によって違うでしょう。

しかし、外交にかかわってくるのは、大きく二つです。一つは、「安全保障」です。これは、「国民の命を守ること」。命を守るための安全保障は、金儲け=経済より重要です。なぜ?

皆さん、自分の命とお金どっちが大事ですか? もちろん、命ですね。銀行員も、「命の次に大事なお金を預からせていただいております」と言うでしょう???

次が、金儲け=経済です。たとえば、日本が外国に新幹線を売るのは国益です。儲かりますから。たとえば、日本企業がある国で活動しやすいよう、その国の投資環境を整えてもらうことは、国益です。あるいは、日本製品が外国で売れるよう、外国の関税率をひきさげてもらうのは、国益です。

国益は、他にもいろいろあります。しかし、外交に関わる主なものは、この二つ。「安全」と「金儲け」。

今の日本の国益とは?

これは、人によっていろいろ考えが違うでしょう。しかし、「日本は、今どんな問題を抱えているのか?」を考えてみることから始めます。

まず、日本の安全を脅かしているのは、北朝鮮です。だから、北朝鮮に核兵器を放棄させることが日本の国益です。しかし、日本一国があ~だこ~だいっても、北は聞かない。それで日本は、アメリカと共に、国連安保理を通し、制裁を強化することで、北に圧力をかけています。

長期的に日本の安全を脅かしているのは、中国です。この国は2012年11月、ロシア、韓国に「反日統一共同戦線」構築を提案しました。

ちなみに中国は、ロ韓に、「アメリカも反日統一共同戦線に入れよう!」と呼びかけている。つまり、中国の対日戦略は、「アメリカ、ロシア、韓国で日本を孤立させ、尖閣・沖縄を奪うこと」。

対する日本の戦略は、「アメリカロシア韓国と良好な関係を築き中国の戦略を無力化させること」でしょう。これが、今の日本の「国益」です。安倍総理は、まさに国益を追求する外交をしている。

しかし、長いスパンでみれば、もっと視野を拡大することが必要になってきます。

日本にとって最重要の国が二つあります。一国目は、いうまでもなく、現在の同盟国アメリカ。二国目は、将来、アメリカ、中国に並ぶ大国になることが確実な親日国インドです。アメリカは衰退が著しいので、日本は、インドとの関係を深めていく必要がある。

次に重要な国は、ロシアとEUでしょう。日中戦争が起こったとき、ロシアが中国側につけば日本に勝ち目は1%もありません。それで、日本は、ロシアとの関係を強化し、結果として中ロを分断させる必要がある。

EUは、「国際世論」と「経済」で重要です。「人権先進地域」のEUは、国際世論をリードする立場にある。日中間で何か起こったときEUがどちらにつくかは非常に重要です。そして、EUは、世界GDPの2割強を占めている。日中間で問題が起こったとき、EUが日本側に立って、たとえば中国に制裁を課してくれるかは、非常に重要です。(クリミア併合後、EUは、ロシアに制裁を課している)。

次に重要なのは、東南アジア諸国、オーストラリアなど、「中国は脅威である」という認識を共有している国々です。日本は、

  1. アメリカ、インド
  2. ロシア、欧州
  3. 東南アジア、オーストラリア

という優先順位で、せっせと関係を強化していく。そして、中国が動けないようにしておく。これが、今の日本の国益です。

国益追求は、露骨であってはならない

ここからはご質問以外の話。どんな国でも「国益」を追求しています。すべての会社が「利益」を追求しているのと同じこと。しかし、国益の追求は「スマートに」やる必要がある。トランプさんみたいに、「アメリカ・ファースト」とかいって、「露骨にやると嫌われます

会社でも、「わが社の理念は、『わが社ファースト』、わが社の利益が一番です」とは言わないでしょう? 「お客様の笑顔が見たいだけです」などといって、儲けます。そして、実際「お客様の笑顔が見たい」と思って働いた方が儲かるようになっているのです。

だから、世界に向けて「日本の国益は〇〇である!」と宣言する必要はありません。繰り返しますが、国益はスマートに追求します。

「自立」にむかう政策も、「国益」

ロシアの話をします。日欧米は、ここ3年間「対ロ制裁」を続けています。原油価格暴落もあり、ロシア経済はボロボロになりました。しかし、この国は、驚くべき安定を保っています。なぜでしょうか?

私は、常々「5つの自立」をいう話をしています。

ロシアは、自虐史観に染まっておらず、「精神の自立」を成し遂げている。経済の自立は、イマイチですね。資源依存が高過ぎる。この国は、世界有数の資源大国で、エネルギーの自立はOK。食糧の自立も問題ありません。また、ロシアは、アメリカよりも核を多く保有している。だから軍事的に自立している。要するに、ロシアは自立した国」なのです。だから、安定している。

日本はどうでしょうか?

こう見ると、

  1. 自虐史観脱却。道徳教育。
  2. エネルギー自給率をあげる。
  3. 食糧自給率をあげる。
  4. 軍事力を強化していく。

これらも、「国益」ですね。

さらに、少子化問題を解決するために、「子作り支援」「子育て支援」も国益。AI、ロボットの普及(たとえば3K労働ロボット、介護ロボットなど)も国益です。

というわけで、国益=国の利益。最大の物は、安全と経済。しかし、細かい話をしたらキリがありません。安倍総理も小池さんも、日本の国益を、スマートに追求していただきたいと思います。そして、

  1. 国益を軸に考える
  2. 「どうすれば、国益を(他国に嫌われず)スマートに追求できるかな?」と考える癖づけをする

この二つは、「リーダーの条件」でしょう。

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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