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がん検診はカネと時間の無駄。早期発見で得するのは医療資本のみ

連日のように年金問題が取りざたされる中、もう一つ無視できないのが医療費の増大。「ホンマでっか!? TV」でもおなじみの生物学者・池田清彦先生が自身のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』で、医療費が増え続ける理由と、今までの常識をくつがえす内容を明かしています。 

医療費はなぜ増大するのか

医者の名郷直樹に『「健康第一」は間違っている』(筑摩書房)と題する本がある。去年の秋にこの本の出版を記念して、吉祥寺の本屋で私は名郷さんと対談をした。

この本の帯の表面には「常識を疑ってみる。」と書いてあり、裏を見ると、「長生きしたいという欲望と酒を飲みたいという欲望は等価である/健康・長寿を目指しても幸福にはなれない/日本人の生活習慣は悪化していない/降圧薬の効果は血圧を下げることではない/がん検診は過剰診断を避けられない/認知症の早期発見はデメリットが多い/禁煙は医療費の抑制をもたらさない/がんを早期発見しても寿命が延びるとは限らない/「死なないための医療」だけが医療の役割ではない/生存欲は決してかなえられない」と確かに世間の常識とはほとんど反対のことが書いてある。

名郷さんの主張を私なりに解釈すると、人は長生きをするためにのみ生きているわけではない、ということだと思う。私は毎日酒を飲む。飲まない日はない。酒を飲まなかった記憶のある直近の日は1987年の2月だったので、連続飲酒記録は28年を超えた。28年×365日=10,220日だから、10,300日以上毎日酒を飲んでいることになる。1日の酒代を平均500円として、500万円飲んでしまったことになる。医者には滅多に行かないので、国に払った酒税は、公的に補助してもらった医療費よりもはるかに多いだろう。それで急性アルコール中毒か何かでばったり死ねば、医療費を使わなかった人として表彰してもらいたいくらいのものだ。酒を飲んだり、タバコを吸ったりしていると、医療費がかかるというウソ話が流行っているけれど、少なくとも私に関して言えば、これは全くの誤解である。

名郷さんはタバコは平均的には健康に悪いという前提で(私があちこちで書いているようにタバコの害には個人差があり、タバコを吸ったほうが長生きする人もいると思う。122歳5ヶ月という世界一の長寿記録を持つジャンヌ・カルマンさんが禁煙したのは117歳の時なのだから)、禁煙は短期的な医療費を減らすかもしれないが、長期的には生涯医療費を減らさずむしろ増大させると主張している。長生きすればするほど、医療費は増大するのである。私が常々主張しているように一番健康に悪いのは長生きなのだ。タバコも酒もやらず、健康第一の生活をしていても、最後は必ず年を取って、介護が必要な年数は増えるのである。これは必然的に医療費の増大をもたらすのだ。先に述べたように、平均寿命が長い女性は死ぬ前に介護が必要な年月も男性より3年長い。病気になってとっとと死ねば、医療費はそれほどかからない。ちなみに2009年度の男性の平均生涯医療費は2,200万円、女性のそれは2,500万円。長生きする女性のほうが医療費を使うのである。

先に名郷さんの本の帯文を紹介したが、早期発見、早期治療も、医療費がかかるだけで、余り効果がないのである。たとえば、この本には、認知症を早期発見して薬を飲んでも、認知症の進行をそれほど顕著に止められず、むしろ薬の副作用によるQOLの低下のデメリットのほうが大きいとデータを上げて説明しているし、あるいは、がんの検診にはほとんどメリットがないこともデータを挙げて丁寧に説明してある。がん検診は金と時間の無駄なのである。健診やがん検診をして病気を早期発見して医療費の抑制に協力しようというキャンペーンは全くのデタラメで事実は反対なのだ。それで得をするのはもちろん医療資本である。

 image by:Shutterstock

 

池田清彦のやせ我慢日記』より一部抜粋

著者/池田清彦(生物学者)
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