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議事録には「……」のみ記載。安保法案はこれで成立といえるのか?

ラグビーワールドカップで日本代表が強豪南アを破り大きな話題となりましたが、安保を巡る参院平和安全特別委員会での採択でラグビー顔負けの「認定トライ」が行われていた、と指摘するのはジャーナリストの高野孟さん。メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』によると、委員会の議事録に記載されているのは「……」のみなのだそうです。一体どういうことなのでしょうか。

これで本当に安保法案は採決されたのか? ──議事録には「……」としか書いてないが

●理事(佐藤正久君)鴻池委員長の復席を願います。速記を止めて下さい。
  [速記中止]
  [理事佐藤昌久君退席、委員長着席]

 

●委員長(鴻池祥肇君)……(発言する者多く、議場騒然、聴取不能)
  [委員長退席]
  午後四時三十六分

日本政府が自ら憲法を壊して集団的自衛権の行使に踏み出した歴史的瞬間──9月17日の参院平和安全特別委員会の最後の採決場面の議事録は、たったこれだけである。これは参院記録部が翌日に出した未定稿であり、報道によると「参院事務局は他に記録が残っているか調査中」と言うから、何らかの補充が行われて正式の議事録が作られる可能性もないではないが、あの大混乱ぶりでは難しかろう。国民の大反対の中でこの国の姿形が大きく変形した瞬間の公式記録が、こんなふうにしか後世に伝えられない可能性のほうが大きい。

委員長の認定トライ?

これでも採決そのものは有効なのか。参院事務局は「鴻池氏の認定として、自民、公明その他3党の賛成多数で可決された」(18日付朝日)と看做していて、こういう場合には委員長による「認定」を以てよしとするというルールがあるようだ。

ラグビーには「認定トライ」というルールがあって、例えばゴール目前でのスクラムで守備側が意図的にスクラムを落として潰すなどの重大反則を繰り返すと、レフリーはその反則がなければ攻撃側が確実にトライに成功したはずだと判断してトライを宣し(5点)、その場合のコンバージョン・キックはゴールポスト正面で与えられるので、まず成功は間違いない(プラス2点)。こちらはもちろん公式のルールだが、国の大事を決める国会の議決に「認定」などというものがあっていいのかどうか。

この「……」の間に起きていたのは、どうもこういうことらしい。

▼16時28分に鴻池委員長が着席、すぐに後方に控えていた自民党議員約10人が委員長をガードするためスクラムを組んだ。それを見て野党議員も委員長席に殺到した。

▼佐藤理事が手を挙げて合図すると、山本一太議員が自席で「質疑終局動議」を読み上げ、委員長は議事を書いた紙を野党に奪われまいと机の下に隠して、用意された懐中電灯を使って読み上げ動議の採決を求め、佐藤の合図で自公その他の議員が起立し、賛成多数で質疑打切りを宣言した。

▼その時点=16時31分頃に安倍首相は退室した。

▼引き続き、同様にして安保法案2本、自公とその他3党との合意による付帯決議、法案可決の事実などを盛り込む「審査報告書」の作成を委員長に一任する決議を賛成多数で可決した。

▼その間約5分で、16時36分に閉会し、委員長が退席した。

自民党はこの段取りを前夜から繰り返し練習して本番に臨んだが、それでも何が何だか分からずに、全部で5回のはずの議決に6回も7回も起立した者もいたというから滑稽である。

安倍政権のコソ泥体質

審査報告書とは、「委員会が、付託された法律案の審査を終了したときに委員会での審査の内容と結論を議長に報告する文書です。報告書の内容については、委員長に一任される例になっています」(参議院キッズページ)と説明されているので、これがどうも「認定トライ」の根拠とされるのではないかと推測されるが、議事録が空白でも当該委員長が後で「私はちゃんと採決をしたんだ」と議長に報告すればそれで済むというのは余りに国会と国民を馬鹿にしているし、参議院規則のどこを読んでもそんなことを許すとは書いていない

むしろ、速記者が聴取不能で中継録画で確かめても誰が何を言っているのか分からないような審議は無効とするよう、規則を改正したらどうなのか。

この安保法案は、内容面から言っても、安倍が昨年5月に大型のパネルまで持ち出して説明したホルムズ海峡や日本人母子救出の典型例を自ら引っ込める羽目に陥ったことが象徴するように、国民に目眩ましをかけて海外武力行使への扉を少しでも押し開けようとする詐術に満ちたデタラメ法案だが、形式面から言っても、本当に参院委員会で可決されたのかどうか疑わしいもので、裏口から忍び込むことばかりを狙うコソ泥のような安倍内閣の体質がここに極まったと言える。

image by: Chris McGinley / Shutterstock.com

 

 『高野孟のTHE JOURNAL』より一部抜粋

著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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