先日、大混乱の内に成立した安保法案。この法案を巡っては様々な批判が噴出しましたが、中部大学教授の武田邦彦先生は『武田邦彦メールマガジン「テレビが伝えない真実」』の中で、国民が選挙で選んだ政権が「公約」を守ってはいけないのならば、それは民主主義とは言えない、と指摘しています。
自由をなくした日本。民主主義の生き残りを探る
私たちの日本は、平和で自由な国と思っていたのですが、最近、急に不自由になり、バッシングが盛んで、国会から発信されるのは国民の希望とズレている印象が強くなってきました。
日本は自由な社会と民主主義という体制を国の基本にしています。自由でも特に大切な表現の自由がほとんど機能していないことを先回に解説しましたが、その他にも学問の自由なども実質的に機能しないようなシステムへ変わってきているのです。
今回は、自由が失われた日本社会の中で、せめて民主主義ぐらいは生き残っているかを検証してみたいと思います。
まず最近の安保法制のことですが、民主党時代からの自民党の国防政策をまとめてみます。
1.2012年4月 憲法改正草案発表(国防軍、国連参加〈自動的に自衛権、集団的自衛権〉)
2.2012年12月 総選挙(自民党圧勝、294)
3.2013年10月 日米の新ガイドライン合意(集団的自衛権など)
4.2014年7月 内閣で「改憲なしに集団的自衛権の強化を進めることを発表」
5.同年12月 総選挙(自民党圧勝、291、マスコミは安保を争点にせず)
6.2015年5月 安保法案、国会に提出、審議開始
7.同年7月 衆議院で可決、翌日からマスコミが反対、デモ多発。
民主主義(議会制民主主義)というのが「選挙で国民の代表を選び」、「代表者が国会で審議をして政策を決める」ということなら、何の問題もありません。民主党政権時代にすでに基本方針が公表され、2度の選挙を行い、その間、憲法改正は見送るという修正はありましたが、基本的な方針に変化はありません。
また、安倍首相がアメリカで安保法制の成立を約束してきたと言う人もいますが、政府は国会に先んじで国際的な取り決めをするのは当然で、条約なら政府が条約を結ぶ時には国会の了解はいらず、後に国会が批准して効力を持ちます。そんな初歩的なことで政治の専門家が間違うのですから、これは話になりません。
また、2014年の総選挙では自民党は「アベノミクス」を前面に出して選挙を戦い、集団的自衛権をあまり強調しなかったのですが、これは選挙作戦というもので、それが問題ならマスコミやネットがあるのですから、「自民党が隠したからマスコミも隠した」というのではマスコミの意義がありません。
最後に、憲法学者が憲法違反と言ったという騒ぎがありましたが、今回の法案は、これまで「特別措置法」として何かが起こった時(たとえばイラク戦争)に自衛隊を海外に派遣していたのですが、「特別措置法」を「常設法」にしただけで、大きな変化はありません。もし憲法学者が違憲というなら日本には違憲判決を出せる最高裁判所があるのですから、カンボジアやイラクの派兵の時に「憲法違反の派兵で税金を無駄に使われた」という訴訟を起こせば良いのに、それも起こしていません。
また日米安保は岸首相の時の改訂で集団的自衛権になり、小学校の副読本にも「集団的自衛権」と明記されているのに、「日米安保は違憲だからアメリカに基地を貸すな」という訴訟を起こせば良いのにそれもやっていません。
世間が騒げば、それに勇気づけられて尻馬に乗るけれど、世間が静かなときにはバッシングを恐れて声を上げないというなら立派な学者とは言えないことは明らかです。
仮に選挙で大多数を得て、公約で宣言していることをやってはいけないということになると、それは民主主義とは言えません。これだけ長い期間、準備した政策ですから、野党は国会での採決に参加しないと選挙は「死に票」になってしまいます。
image by: 自由民主党
『武田邦彦メールマガジン「テレビが伝えない真実」』より一部抜粋
著者/武田邦彦(中部大学教授)
東京大学卒業後、旭化成に入社。同社にてウラン濃縮研究所長を勤め、芝浦工業大学工学部教授を経て現職に就任。現在、テレビ出演等で活躍。メルマガで、原発や環境問題を中心にテレビでは言えない“真実”を発信中。
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