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iPhoneを生み出せなかった日本企業の「しくじり」を中島聡が分析

モノ作り大国として名高い日本。今も「日本製なら安全」という認識をもつ人々は世界中に数多くいます。それではなぜ、日本は「iPhone」のような革新的なものを生み出せなかったのでしょうか? 今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では著者でWindows95の設計に携わった世界的プログラマーの中島聡さんが、このことをテーマに早稲田大学で行った興味深い講演内容を自ら解説しています。

早稲田大学での講演

先週の金曜日(10/20)に、早稲田大学で開かれた「WASEDA EDGE-NEXT人材育成のための共創エコシステムの形成 キックオフシンポジウム」で講演をしました。「学生の起業家精神を刺激して欲しい」とのリクエストを受けたので、色々と考えた末、「日本にはなぜ iPhone が作れなかったのか?」というタイトルで、日本の問題は、企業の新陳代謝が遅く(ダメになった大企業がいつまでも生き残り、ベンチャー企業が育ちにくい)、優秀な人材が有効に活用されていない点にあるということを、話すことにしました。

まず最初に、日本の問題は、単なる90年代始めのバブル崩壊後の10年間にとどまる話ではなく、2017年の現在でも続いている話だということを、グラフと数字ではっきりと示しました。

次に私個人が、ここ10年間で「ライフスタイルを変えるほどのイノベーション」と感じたもの、そして実際に毎日のように使っているものを列挙してみました。残念ながら日本製のものは一つもありません

次に、大企業での商品開発プロセスに関して簡単に説明しました。市場調査をし、そのデータに基づいて企画を立て、予算の承認を経営陣から取ってから、仕様を作り、設計し、開発する、という典型的なプロセスです。ちなみに、これは日本企業に限った話ではありません。

もの作りのプロセスとして、決して間違っているわけではありませんが、このアプローチの一番の問題は、このプロセスの中で働く人々の当事者意識の欠如です。それぞれの人は、与えられた仕事を作業としてこなしているだけで、そこに「が込められていないのです。

多くの大企業では、企画から承認の段階で膨大な時間をかけて綿密な資料作りをしますが、それはいつのまにか「これだけ準備をしたし、みんなが納得したのだから、うまく行くに違いない」というエビデンス作りになってしまっているのです。

十分なエビデンスがあり誰もが納得できるようなところにはイノベーションは起こりません

8割の人に「そんなもの売れるわけがない」「そんなもの作れるわけがない」と否定されながら、その困難を乗り越え、「実際に役に立つもの」「実際に動くものを作ってしまった人がイノベーションを起こすのです。

企画部にたまたま配属されたサラリーマンが企画書を書いた商品と、周りの人には否定されながらたった一人のエンジニアが寝るまも惜しんで作った商品と、どちらに魂が込められているか、という話なのです。

この「魂」の話に説得力を持たせるために、私が引き合いに出したのが、Simon Sinek Golden Circle です。このメルマガでも彼の TED Talk “How great leaders inpire people” を紹介したことがあるので、ご存知の人も多いと思いますが、商品の購入の際に、人の心を一番動かすのは、どんな機能があるか(WHAT)や、それで何ができるか(HOW)ではなく、なぜ自分はそれを持たなければならないかWHY)という部分だ、という話です。

この「WHY」は、単に商品を売る段階の話だけではなく、商品を開発する段階からとても重要なのです。そこを熱く語れるリーダーがいてこそ、優秀な人を集められるし、彼らが情熱を持って働いてくれ、結果的に「魂が込められたもの作りが出来るのです。

iPhone が出てすぐ、ソニーで働く知り合いが、「あんなもの、ソニーでも簡単に作れる」と批判的に語っていたので、「なぜ作らなかったのか?」と尋ねたところ、「作らせてもらえなかった」という答えが返ってきました。私から見れば、この返事こそが「当事者意識の欠如の証拠なのです。

大企業のサラリーマンは、よくこの手の「言い訳」をしますが、結局、世の中は「作ったもの勝ち」なのです。上司の反対を押し切ってでも物作りをしてしまう、もしくは、会社を飛び出しても物作りをしてしまう、そんな情熱を持った人たちだけが、イノベーションを起こせるのです。

ありきたりの「調査→企画→承認→仕様→設計→実装」ではイノベーションを起こせないとしたら、どんなプロセスがイノベーションに適しているのでしょうか?

私は、そもそもこんなシーケンシャルなプロセスではイノベーションは起こせないと思っています。WHAT や HOW ではなく、WHY からスタートし、情熱的に不可能を可能にするような人々を育てる環境を作る必要があるのです。

つまり、そこにいる人たちが競って試作品を作るような場を作るのです。そしてその中から、目利きの人がダイヤの原石を見つけ出して投資して育てる(=商品化する)、それがイノベーションの正しい起こし方だと私は思います。

ちなみに、これを一企業の中でやることはとても難しいのは事実です。特に大企業は、守らなければならないもの(現状の売り上げや顧客)がたくさんあるため、こんな手法はなかなか取れないのです。

それを社会全体で解決しているのが、シリコンバレーを中心とした米国のベンチャー市場なのです。それぞれのベンチャー企業に熱いビジョンを持った創業者がおり、彼らが作ったものの中から、大きな可能性のあるものだけに目利きの投資家が資金を投入して育てる、そんな環境が米国にはあるのです。

image by: Shutterstock.com

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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【著者】 中島聡 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 火曜日(年末年始を除く) 発行予定

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