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習近平の掲げる中国「新社会主義」が日本の経済と外交を脅かす日

前回掲載の「恐ろしい中国。「社会主義帝国化」宣言した隣国は世界を支配する」で、中国共産党全国人民代表者大会(全人代)にて発表された今後5年の重要方針について紹介したメルマガ『国際戦略コラム有料版』の著者・津田慶治さん。今回は、同じく全人代で習近平氏が掲げた「新社会主義」を中心に、同氏の野望と今後の中国と他国の力関係について詳述しています。

新しい社会主義とは何か?

世界の景気は上昇している。その中で前回指摘したように、習近平は、新しい社会主義思想を確立するというが、どのような社会主義なのであろうか? それを検討しよう。

現状の世界景気

海外政治や国内の政局の記事が続いているが、この期間、日経株価は22000円にもなり、景気は良いように見える。この状況を生み出しているのが、1つに世界の中央銀行の量的緩和を含む金融緩和であり、もう1つが、中国景気の上昇で、日本の部品企業の受注が好調であり、また世界的なブランド品や高品質な製品の好調な売れ行きのためである。

中国の景気が良いのは、一帯一路の国家政策が世界的な物流改革を起こし貿易を活発化させたことによる。このため、世界的な金融緩和よる資産バブル崩壊の危機を救い、かつ世界的な景気の押し上げになっているからである。世界はすでに中国の景気動向に大きく影響されている状態である。

そして、これにより、米国を追い越せる位中国の経済規模が大きくなり、習近平は経済政策でも自信を持ってきた。このことにより、新しい社会主義を打ち立てる野望を持てるようになったのである。

やっと、今回の19回全人代で、自分の部下を常務会メンバーに多数入れたことで権力の集中化が増し、習近平独裁ともいえる体制ができ、比較的容易に新しい社会主義を構築できるようなったのである。

この社会主義思想面では、王滬寧(おう・こねい)の存在が大きい。その王滬寧を精神文明思想のイデオロギー担当にしたことでも、思想構築の重要性と、その思想に期待が込められている。

さあ、どのような思想なのであろうか?

中国の国際展開・外交

中国の外交の基礎は、孫子の兵法である。トウ小平は実力が着くまで欧米に従い技術を習い尊大に振舞わないとしたが、この次の段階に来た。尊大に振舞うことができるようになったということである。

そして、一帯一路により中国は海外に巨大な権益を持つようになり、この権益拡大で、より大きな利益を生むように、中国主導のルール作りも始めるようである。中国主導の世界的な規範が動き始め、手始めにインターネット規制の規範を世界の標準にしようとしている。これとともに、権益防護のために、海外への兵力の展開をする必要で、愛国心を強調することも重要になっている。

また、一帯一路の成功で、本来の中国の世界観が出てきている。世の中は「中華」とそれを取り巻く蛮族と見る「華夷(かい)思想」であり、小国を小さくとも法的に大国と対等の主権国家という発想がない。この華夷思想が前面に出てきた。

このため、中国に近い友好国であるカンボジア・ラオスなどは属国化して、2つの国の首相は、簡単には習近平にも会えないし、国の法律も中国の制限があり中国内の省長のような存在にされている。

これが嫌で、ミャンマーは中国離れをしたことでも、属国化した国には国としての自由もなくなることがわかる。

中華思想の中心でもある習近平によると、中国は2050年までに「国家として総合的な力を確立し、世界に大きな影響力を及ぼす国際社会のリーダーになるとし、米国を仰臥すると言っている。中国の夢でもある。

しかし、これも孫子であるが、「戦わずに勝つ」方法を今の中国は実践している。1つ1つの兵器の性能は、米国兵器の70%であるが、数を圧倒的に多くして勝てないと思わせることに注力している。日本の海上保安庁の艦艇の数でも、すでに中国が圧倒的な数にして日本を仰臥している。質より量の考え方で来る。

また、孤立化を避けるためにロシアとは特別な関係を持つとしているが、天然ガスの価格などの交渉は厳しく、ロシアの経済的なメリットはそれほどでもないようだ。また、中国は、ロシアの軍事技術を手に入れて、自国の軍事産業を活性化することを図り、よって、政治的関係だけの同盟であり、ロシアも孤立化を避けるためだけに中国と良好な関係にしているようだ。米国は、トランプ大統領になり、中国包囲網を築けるチャンスであったが、ロシアゲートにより実現しなかった。日本はロシアとの友好関係を構築して、中国の攻勢を防ごうとしている。

もう1つが、遠交近攻策である。遠くとは友好関係を構築し、近くは攻めることになる。欧州やアフリカとは友好関係を構築して、近くのインドとの国境では国境紛争を起こし、南シナ海でも領有権を主張している。

中国の新社会主義とは

Wikipediaによると、社会主義とは、個人主義的な自由主義経済や資本主義の弊害に反対し、より平等で公正な社会を目指す思想である。

そして、習近平は、新たな常務委員全メンバーを引き連れ、1921年に中国共産党第1回党大会が開かれた上海の記念館と、同会が官憲に察知され、場所を変えて続行された浙江省嘉興の記念船「南湖紅船」を訪れ、習近平を先頭に7人がそろって拳をあげ、入党の誓いをしたという。公平な社会を目指す習近平の新社会主義に掛ける意気込みを感じるし、中国共産党による一党支配体制を堅持することを誓わせたようである。

習近平は総書記就任直後、党中央委員を集めた会議で、「(改革開放の前後)二つの歴史時期において、社会主義建設の思想指導や方針、対策、実際の施策に大きな違いがあるのは確かだが、両者は分断されたものではなく、まして根本的に対立しているわけではない。改革開放後の歴史時期によってその前の歴史時期を否定し、また、改革開放前の歴史時期によってその後の歴史時期を否定することはできない」(2013年1月5日新華社通信)と語っている。この意味は「立ち上がり(毛沢東)、豊かになる(トウ小平)段階から強くなる(習近平)段階を迎えた」との時代認識を示したのであろう。習近平思想中国が強くなる時代の思想ということである。

今の中国は、国家政策である一帯一路の成功で経済は拡大しているが、しかし、資金のバラマキによるミンスキー・モーメントなど金融崩壊などの可能性がある国内事情を承知している習近平と共産党指導部は、国内に向って規制や統制を強化せざるを得ない。ジャーナリズムの制限や言論統制を強めている。

一党支配を崩す民主化も進めないが、このため、国民の期待を維持することが重要な課題になる。この方法として、当面は、貧富の差を縮小して国民の多くが豊かになるという期待を持たせることで一党支配の維持を図るようだ。

逆に、習近平は、「我が国の経済は急成長の段階から、高品質なものを生み出す段階に移行し、今まさに転換期にいる。途切れさせることなく、我が国の革新力と競争力を高めなければならない」と言い、“創新経済”とも命名し、自由な発想を奨励もしている。

この結果、経済政策を2つの柱で進めるようである。国家が進める計画経済と民間企業中心のイノベーションを進める市場経済の混合経済のようである。民間企業の資本自由化を進めて、自由な発想ができる方向にも動いている。

しかし、民間企業も過剰な介入はしないが、統制できるように国家総動員法を整備して、危機時にはいつでも介入できるようにしたし、企業内に共産党委員会を作り、平時でも企業に介入できる仕組みを整えた。

今までの経済成長は、国家政策と自由経済の両方でうまくいったが今後もこれを推し進めて、うまくいくのかどうかはよくわからない。

しかし、中国衰退の評論とは違い、世界的な経済圏を構築することは確実である。ある程度の経済原則が中国流になることも避けられないし、華夷思想で日本を経済的に属国化しようとしてくることも確実である。中国では自由な発想ができないので、中国人技術者が育たずに、日本人技術者を引き抜き新技術製品を作る可能性も高い

それに対応する日本の経済政策、外交政策をどうするのか、非常に難しいことになってきたことは確実である。

参考資料

Why China’s Capital-Account Liberalization Has Stalled

Oct 31, 2017 YU YONGDING

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