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ここ2年、上海に起きた「進化」が日本を完全に周回遅れにしている

中国といえば「まだ遅れている」というイメージを持つ日本人は多いのかもしれません。しかし、メルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で米在住の世界的プログラマーである中島聡さんが見た中国・上海は、想像をはるかに超えた「近未来化」が進んでいました。現金を一切持たずに暮らす人々、空港まで走るリニアモーターカー、街中を走るシェア・サイクルなど、中島さんが現地で感じたことをレポートしています。

上海とビジネス

今回、日本出張のついでに、上海に寄って知り合いの会社(Yi Technologyを訪問して来ました。わずか二泊の短い滞在でしたが、色々と学べたことがあるので、順不同で書いてみます(下の写真はホテルの部屋から上海のダウンタウンを写したもの。風が強かったので、空気はそれほど汚れていませんでした)。

まず最初に感じたのは、変化のスピードです。レストランや小売ショップのレジには、WeChatAliPayのQRコードが表示しており、誰もがスマートフォンを使ってお金を支払っています。私が見る限り、現金を使っている人はおろか、クレジットカードを使っている人すらいませんでした。

彼らによると、今や現金を触ることは一切なくなり全てスマートフォンで決済をするようになったとのこと。給料が振り込まれる銀行口座と直結しているため、キャッシュレスな生活が可能になったとのこと。

また、スマートフォンによるマイクロペイメントが普及したからこそ初めて可能になったビジネスも急速に伸びています。乗り捨て可能な自転車のシェアリング・サービスはその典型的な例です。下の写真を見ても分かる通り、上海の歩道にはシェアリング可能な自転車が溢れており、上海市民にとっては重要な交通手段の一つになっています。道を走っている自転車も、大半はそんな自転車で、「My自転車」を運転している人は今や少数派です。

驚異的なのは、この変化がわずか2年ほどの短期間に急速に起こったということ。一旦この仕組みが提供されると、誰もが便利さに飛びつき一気に普及してしまったとのことです。

米国でApple Payがスタートしたのは5年前ですが、使っている人はそれほど多くないし、使えないところもたくさんあります(私自身もApple Payで支払うのは10回に1回ぐらいです)。日本にもSuicaに代表される「電子マネー」が長い間存在していますが、未だにトランザクションの75%は現金だそうです。

つまり、中国の電子マネー」は、米国と日本を一気に抜き去っただけでなく、他の国が「未来社会のあるべき形」として描いていたキャッシュレス社会を短期間に実現してしまったのです。色々と理由があると思いますが、米国ではクレジットカード会社が必死の抵抗を試みるでしょうから、難しいと思います。

ちなみに、中国の電子マネーには簡易ローンの仕組みまでついており、審査なしでスマートフォンからその場でお金を借りられるようになっています。それまでの電子マネーの使い方が審査代わりになっているそうで、使えば使うほど、借りられる額は多くなるそうです。私の知り合いの家族と一緒に夕食を食べている時にこの話題になったのですが、彼の奥さんが「私は12,000元(約20万円)まで借りられる」と自慢げにスマートフォンの画面を見せてくれたのが印象的でした。

私自身もWeChatを使ったペイメントを試したかったのですが、(あらかじめ元に換金しておいた)現金をアカウントに追加する方法が見つからず、今回は断念しました。

ちなみに、彼女によると「最近の若い人たちは、外食もしないし、家で料理もしない」と嘆いていました。食事の配達サービスが便利になりすぎて、出前を頼むのが当たり前になっているそうです。中国の出前サービスは、レストランとは独立した第三者がサービスとして行なっていますが、利用者が増えるにつれ、彼らの力が強くなり、「配達料金はレストランが負担一皿から注文が可能が当たり前になっているそうです。

そのため、「青椒肉絲はこの店、小籠包はあの店」のように店をまたいだ注文まで可能になってしまい、家から一歩も出ずに夜を過ごすライフスタイルが、独身の人たちにとって、当たり前になりつつあるそうです。先週号で、日本で「ひきこもりライフスタイル」が当たり前になるかも知れないと書きましたが、同じことが中国でも起こりつつあるのです。

ちなみに、YI Technologyは、アクションカメラや家庭用のセキュリティカメラの会社ですが、会社訪問するまでは、自社工場を持った会社だと頭から思い込んでいたのですが、それは全くの勘違いでした。YIのビジネスは、Appleのビジネスに近く、ハードウェアの設計とソフトウェアの開発のみ自分たちで行い、実際の製造はアウトソースしているのです。

製造をアウトソースしているとは言え、完全に相手任せにしてしまうと品質が上がらないので、製造プロセスの設計までし、試作の製造ラインまでは自分たちで行なった上で、大量生産をアウトソースしているとのことです。

ちなみに、行きは上海空港まで車で迎えに来てくれたので車で行きましたが、帰りはリニアモーターカーで空港まで行きました。「帰りも車で送るから」と強く主張するので、それを振り切るのに少し苦労しましたが、なんとか乗ることが出来ました。

磁気浮上型なので、「どんな乗り心地なのだろう」と楽しみにしていたのですが、思ったより揺れがあり(モノレールのような乗り心地です)、新幹線の方がずっと乗り心地が良いと感じました。一応磁気で浮上させているものの、風などの影響で結構上下動があり、その結果、程速度用のタイヤが時々触れており、それが振動として感じられるのだと思います。

ちなみに、JRは東京から大阪までリニアを建設していますが、使う立場から言えば、(上海のように)成田空港と東京駅の間に設置してくれた方が、ずっと付加価値は高かっただろうと思います。

「EV化」が加速していると言われている中国ですが、私の見る限り、まだまだ始まったばかり、という感じです。一番目立つのはテスラで、滞在中に10台ぐらい見たと思います。私の暮らすシアトルよりは少ないですが、日本よりははるかに多いです(日本で Tesla を見かけたことはありません)。しかし、変化のスピードはどの国よりも早いので、2~3年でガラッと変わっている可能性は十分にあります。

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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【著者】 中島聡 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 火曜日(年末年始を除く) 発行予定

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