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フランスで過労自殺が急増。G8で自殺率世界3位の仏が抱える闇

「フランス人は週35時間しか働かない」と聞けば、多くの日本人は「優雅だなぁ」「フランス人に生まれたかった」と思うかもしれません。しかし、メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』の著者にして米国育ちの元ANA国際線CA、元お天気キャスターという健康社会学者の河合薫さんによると、その法律の裏には新大統領のマクロン氏が「法の廃止」を訴えるほど深刻な事情が隠されているようです。一体どういうことなのでしょうか。

フランスの週35時間労働と過労自殺、日本はどうなのか?

今回はフランスのペタジーニことマクロン氏が掲げている政策のひとつ「週35時間労働制を若年層で廃止し、柔軟性を拡大する」という点についてです。

週35時間労働制」というのはフランスで決められている労働時間で、2000年からは従業員21人以上規模事業所を対象に、2002年には20人以下の事業所についても施行された国の法律です。

現行法では週35時間を超える場合、時間給は原則25%~50%増とされていますが、労使の合意がある場合は10%増まで下げることが可能です。

もともとは失業率を改善させる目的で導入されました。

一人当たりの労働時間を削減して雇用を増やす「ワークシェアリング」という言葉を使わなかったのは、週35時間労働制が単に「雇用創出・失業対策」のものではなく、「生活の質の向上」や「変形勤務の多様化」なども目的としたからです。

失われつつある社会性や連帯の再構築、「自由という人間性の回復という、歴史的・哲学的思想が、そこには存在しています。

では、効果はどうだったか?

失業率は改善しました。実際に2001年に行われた全国調査でも、50.4%が「部署の人員が増加した」と回答しています。

ただ、雇傭改善に大きな影響を与えたのは「週35時間労働」ではなく、1990年代後半の好景気だとされています。つまり、増えるには増えた。失敗ではないけど、成功と言いきるほどではありませんでした。

理由は簡単です。

新しく雇用するのはコストがかかります。ですから、企業によっては35時間労働で“欠けた労働力”を、「アンタ、トイレに行くヒマがあったら仕事しなさいよ!!」と個人の時間単位生産性をあげることで補おうとしたのです。

先の調査でも、4割強が「短縮された時間内で以前と同量の業務をしなければならない」「仕事の兼務が増加した」とする人が、48.4%もいました。

また、別の調査では労働時間が減ったことで賃金が抑制された」とする人が、7割もいたことがわかっています。

一方、「生活の質」はどちらの調査でも、6割が向上した」とし、とりわけ12歳以下の子を持つ親の半数以上が「子どもと過ごす時間が増えた」と回答。

しかしながら生活の質の向上を実感したのは階層が高い人たちがメインで、低い労働者からは否定的な意見が多く認められたという問題も浮き彫りになりました。

さて、そんな週35時間労働政策ですが、法の施行から10年以上が経過し、いくつかの深刻な問題が出始めています。

一番大きいのが、若年層の失業率の増加です。25歳未満の失業率は約23%。

4人にひとりが失業している状況です。といっても欧州全体で同様の傾向が認められているので、週35時間だけが原因ではありません。

ただ、短時間勤務だと、若者を雇用して“教育する時間を作るのが厳しいのもまた事実。マクロン氏が「35時間制を若者で廃止する」としたのも、こういった実情に基づいています。

2つ目の問題が、「生産性の低下です。これは雇用主が指摘していることで、マクロン氏が掲げた「柔軟性の拡大」も、企業ファーストによるものです。

つまり、現行法の原則25%増し=残業代をなくせば企業がもっと楽になる。

「実際、フランス人の週平均労働時間は39時間という調査結果もあるし、働く側も『もう少し働いて収入をあげたい』という要望も少なからず出てるからいいでしょ?」という趣旨の発言をマクロン氏はダボス会議で発言しました。

しかしながら、マクロン氏は週40時間は守る」と断言していますし、これまでのフランスの労働改革の歴史からみても、それ以上増えることはないと思われます。

そして、3つ目が「過労自殺」です。週35時間労働の導入当初から、この点は懸念されていました。

管理職層でサービス残業が増えているのに加え、グローバル化による競争の激化で業務目標が高く設定され生産性の向上を強いられスピードを重視される。

世界といつでも繋がるので、24時間休まるヒマがないーー。

いくつものストレス要因が管理職を追いつめ、過労自殺する人が上昇。週35時間労働、夏休みひと月という国でありながら、人口10万人に占める自殺者の割合は、G8(主要8カ国)の中ではロシア、日本に次ぐ3位となっているのです。

過労死が「長時間労働による肉体の悲鳴」から起こる突然死であるのに対し、過労自殺は「長時間労働と、上司部下関係、仕事のプレッシャー、裁量権のなさ」などの組み合わせから“もうこれ以上はムリ…”と、生きる力が失せた結果です。

日本では残業上限100時間、週労働時間にすると「週65時間労働」に国がお墨付きを与え、過労自殺と過労死を一緒くたにしています。

おい、日本よ、これでいいのか? EUのこと心配するのもいいけど、フランスの「週35時間労働」から学ぶことあるでしょ?  と思うわけです。

まだまだ書きたいことはあるのですが、これくらいしておきます。

image by: Shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
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