京都の夏といえば鱧、秋といえば丹波産の松茸。そして今時期は、この二つの食材の贅沢なコラボレーション料理を食すことができるそう。今回の無料メルマガ『おもしろい京都案内』では著者の英学(はなぶさ がく)さんが、秋の出会いもの「鱧松茸」について詳しく紹介しています。
鱧松茸(ハモマッタケ)
この時期、京都の代表的な食材といえば丹波産の松茸です。高級なものだと1本10万円もするような代物が店先に並んでいるのを見たことがあります。
秋から冬に向かう季節の変わり目に和食ならではの季節感だと感じることが出来るのが「ハモマッタケ」の料理です。季節の移ろいを楽しむ「走り」と「名残」が同時に味わえる「秋の出会いもの」です。
「旬」はその食材が食べごろを迎える最盛期です。市場に多く出回る時期なので、手に入りやすく値段も手頃になります。食材を気軽に楽しめるタイミングと言ったところでしょう。それよりも前に初物をいただくのが「走り」です。先取り感や、新しい季節の訪れを待ち望む気持ちを満たしてくれます。逆に、旬が過ぎて食材を惜しみつつ頂くのが「名残」です。去り行く季節を惜しみつつ、来年また出会えることを心待ちにして、その貴重な瞬間を味わう充実感があります。
出始めの季節が訪れ、盛りを迎え、そして去っていくまでの移ろいに思いを馳せる。仏教の無常観にも通じるところなのかも知れませんね。
秋の出会いもの
この「走り」「旬」「名残」のうち「走り」と「名残」を組み合わせた秋の出会いもの、ハモマッタケです。
鱧の旬は夏です。京の夏は、鱧と祇園祭。鱧は、梅雨の雨を飲んで旨味を増すといわれています。祇園祭で賑わう7月が一番美味しいことから、祇園祭は別名「鱧祭」と呼ばれるぐらいです。京都の料理屋では、酢みそや梅肉でいただく鱧落としや鱧寿司を味わえる季節です。極上の鱧料理が揃うのが夏とされています。
しかし、鱧が本当に美味しいのは秋だという意見の人も多いようです。鱧が名残になると、走りの松茸と組み合わせて秋の出会いもの、ハモマッタケの土瓶蒸しになります。土瓶蒸しはこの時期に味わうことが出来る極上の料理です。あの透き通ったお出汁の汁は永遠に飲んでいられるぐらい優しい味がします。香り高い走りの松茸も最高です。出会いものとは、異なる季節に旬を迎える食材で、料理の相性が良い組み合わせのことを言います。
本来なら魚は秋の方が脂がのっていて美味しいはずです。ではなぜあまり魚の中でも有名じゃない鱧が京都の夏の旬の料理になったのでしょう? 鱧は6~7月の産卵前の時期に一番身がやわらかくて美味しいそうです。ところが、鱧にはもう一度秋に美味しい時期が来ると言うのです。松茸が走りの時期の鱧は産卵を終えとても脂ののった、弾力性のある身になります。しかし残念ながらこの秋の鱧のおいしさはそれ程知られていません。
鱧の旬が夏と言われる理由
京都は海から遠いので、海で捕れる魚は、若狭でとれる鯖や鯛か、瀬戸内から運ばれてくる魚ということになります。昔は冷凍技術がないので、夏に新鮮な魚を京都へ運ぶのはとても大変でした。若狭で獲れた鯖は塩でしめて運ばれました。その由来から若狭から京へ向かう道は今でも鯖街道と呼ばれています。
鱧は瀬戸内方面から運ばれてきた魚です。他の魚は弱ったり腐ってしまっても、鱧はとても生命力の強い魚で、夏の暑い時期でも生きたまま京へ運ぶことが出来たと言います。夏の暑い時期には、鱧のような生命力の強い魚しか持ってくることができなかったということです。そこから「鱧は夏が旬」というイメージが定着したようです。
現在では、鱧は秋の土瓶蒸しにも名残リの鱧として欠かせません。鱧は小骨が非常に多いので専用の骨切り庖丁で骨切りしなければ食べられません。海から遠い京都の都で極められた調理法に先人の知恵を感じますね。
いかがでしたか? 京都は日本人の知識と教養の宝庫です。これからもそのほんの一部でも皆さまにお伝え出来ればと思っています。
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