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日本人が知らぬ、トランプ大統領アジア歴訪に隠された本当の意味

先日、アジアを歴訪したトランプ大統領。日本国内では「日本を最初の訪問国に選んだ意味」や「トランプ大統領と安倍総理の蜜月ぶり」ばかりが報じられていましたが、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんは、アジア歴訪の本当の目的は、北朝鮮に圧力をかけるための「政治的威力偵察」だったとの見方を示しています。

トランプのアジア歴訪は「政治的威力偵察」

軍事の世界に「威力偵察」という言葉があります。

物の本には次のように定義されています。

「隠密偵察とは敵に察知されることなく行う偵察行動であり、威力偵察とは部隊を展開して小規模な攻撃を行うことによって敵情を知る偵察行動である」

隠密偵察というのは、普通に「偵察」と呼ばれている情報収集と考えればよいでしょう。

その「威力偵察」ですが、米国と北朝鮮の間の駆け引きについても行われていることはご存じでしょうか。

今年になって激しさを増してきた米朝のチキンゲームですが、9月29日に発表されたトランプ大統領のアジア歴訪(11月5~14日)が終わるまでを「猶予期間」と位置づけ、北朝鮮に態度を決めるよう求めた面があります。

話し合いの方向に舵を切るのならよいが、そうでなければ軍事力の行使もやむを得ないとする、北朝鮮から見れば、米国による「最後通牒」に近いものでもありました。

はたして、北朝鮮は沈黙」しました。

あれほど強硬にミサイル発射を繰り返し、9月3日には水爆実験まで強行したというのに、9月15日の中距離弾道ミサイル「火星12」の北海道襟裳岬越えの発射を最後に、ぱったりと動きが見られなくなったのです。

もちろん、それでも北朝鮮の「口撃」は止むことなく続きます。9月21日には、北朝鮮建国以来2回目、実に1950年6月26日以来という「朝鮮労働党委員長声明」なるものが発せられ、金正恩党委員長は史上最高の超強硬対応措置の断行を慎重に考慮する」と言い放ちます。

この「超強硬対応措置」について、李容浩(リ・ヨンホ)外相は記者団に対し、「おそらく歴代最大級の水爆の試験を太平洋上で行うことになるのではないか」と、おどろおどろしく威嚇して見せます。

しかし、9月23日にB-1B戦略爆撃機が今世紀に入って最も朝鮮半島に近いルートを飛行したのに対して、北朝鮮側からはスクランブルの戦闘機の発進がなかったばかりか、防空レーダーさえ作動しなかったという、信じがたいほどの無防備ぶりがさらけ出されたのです。

B-1B戦略爆撃機の接近飛行に狼狽したのでしょうか、北朝鮮外務省の崔善姫(チェ・ソンヒ)北米局長が慌ただしくロシア側と協議し、核不拡散会議出席を名目に米国側のウェンディ・ルース・シャーマン元国務次官と接触するなど、なんとしても米国の軍事攻撃を避けようとするかの姿勢が目立つようになっていきます。

そういう展開の中で行われたトランプ大統領のアジア歴訪です。日本の訳知り顔のコメンテーターのように「首脳会談と言っても、通訳が間に入った30分とか40分で何が話せるのか」などと軽視してはなりません。具体的な話を首脳会談ですると考える方が間違いで、それは前もって事務方が行っているのが普通なのです。

トランプ大統領が日本、韓国、中国を歴訪し、ベトナムでAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議、フィリピンでASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議に出席して、各国首脳から歓迎される姿を「これでもか」「これでもか」と北朝鮮に見せつけ、その光景を圧力として金正恩党委員長に核開発の放棄や凍結などについて決断を迫ったところに、アジア歴訪の最大の意味があったことを見逃してはならないのです。

9月23日のB-1B戦略爆撃機の北朝鮮への接近飛行は、北朝鮮の軍事的な出方を探るための「威力偵察」そのものだったわけですが、トランプ大統領のアジア歴訪は、いわば「政治的威力偵察」の性格を備えていたと考えてよいのです。

これに対しても北朝鮮は「沈黙」を続けてきましたが、11月13日号の編集後記「ちょっと気になる北朝鮮ニュース」に書いたように、明らかに戦争モードとは逆の方向にハンドルを切っています。その北朝鮮が、どのような形で米国との対話や交渉に臨むのか、注目したいと思います。

(小川和久)

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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