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日本どころじゃない。韓国の「受験戦争」は想像以上に過酷だった

先日、韓国で行われた「大学修学能力試験(スヌン)」。その過熱ぶりから、日本のメディアでも度々取り上げられているため、韓国が日本以上の学歴重視社会であると認識されている方も多いのではないでしょうか。今回の無料メルマガ『キムチパワー』では、「韓国の受験戦争の今」を、歴史的な背景も踏まえて韓国在住の日本人著者が解説しています。

韓国の「受験戦争」事情

ここ韓国はヤンバンの国ソンビの国だ。ヤンバンというのは、科挙試験に合格した文官・武官のことである。ソンビというのは、学者のことである。古くは新羅時代のファラン(花?)もあった。ファランというのは、新羅の青年貴族たちことで、文と武にはげみ、学者でありながら武もたつという理想的な若者たちのことである。日本にも文武両道という言葉がある。武の鍛練を積みながら、文をも修めるというのが武士としてのたしなみであった。しかしどちらかというと武のほうにウエイトのあったことは明らかだ。

武が70〜80%で、文が20〜30%といった比率であろうか。これが韓国ではまったく逆である。新羅のファランは文武両道であったが、文が60で武が40ぐらいであったろう(わたしの判断)。

朝鮮時代のヤンバンは、文官と武官にわかれていて、文官は文の人、武官は武を中心として文もかなりやる。ここで重要なのは、朝廷では文官の地位が武官のそれよりも高かったことである。学問を修め頭の切れる人は大きく出世したのである。武官がいくらケンカが強くても、文官の前ではシュンとならざるをえなかったのである。それだけこの国では文が上である。

こうした背景があるからだろうか、現代でも子どもを文つまり学者にさせようという空気が色濃く残っている。学者まではいかないまでも、勉強に対する思い入れは並々ならぬものがある。勉強して成績をあげ、いい大学に入ることが当面の唯一の目標となる。

高卒では社会に出て食ってゆくことは無理だという雰囲気だ。大学に行かないで一生他人の下っぱしりとして暮らすか、苦労してもいい大学に入りいい会社に就職するのか。このことは韓国に限らないものと思われるが、日本と違うのは、日本の場合60%ぐらい(と想像するが)の人がそう思っているのに対し韓国の場合は100%そう考えている点である。高卒でも才能があれば、その方面で立派にやっていけるし、短大でもいろんな可能性がある。専門学校でも、社会人として立派に仕事をこなしている人がいるじゃないか。大学に行く者もいれば高校から働きに出る者があってもいいじゃないか。日本の場合はこのように考え方が分散しているため、社会全体が勉強一色という雰囲気はない。ある層では熾烈な勉強地獄が見られても、ある層ではゲームをやっていたり、ケーキ作りをやっていたりと多様性が見られる。ちなみに日本の大学進学率はだいたい55%くらいなのに対して韓国は80%ほど。ただし、韓国に住んでいる者の体感としては、95%以上といっても言い過ぎにはならないはずだ。

韓国の空気は勉強一色といっていい。全員がカンナム(高級住宅地)に住むことを望み全員が八学群(カンナムの学群で韓国一の学群といわれる)に通うことを願う。親も子も大変だ。全員が八学群に通うことなんてはじめからできないのだし、全員がソウル大学に入ることなどできないのである。そんなことはみな、百も承知なのだが、それでもなお、勉強つまり文に対するあこがれは冷めやらないのである。そのエネルギーたるや言葉での形容は不可能に近い

「武よりも文」というこの意識は、また、「理系よりも文系」という意識に通じているようにも思う。電気や機械などを扱うよりも、文学哲学を論じるほうが高尚だという意識があるようだ。この現象はあるいは韓国に限らずいろいろの世界にも言えることなのかもしれないが、ここ韓国の場合は、こうした形而上学的な方面に対する憧れ、畏敬の念のようなものが色濃く漂うお国柄だ。もっとも最近は、IT、半導体の先進国らしく、理系工学系重視の傾向がやや醸成されつつあるようではある。

受験戦争を象徴するものの一つに「ヤジャ」というものがある。「夜間自律学習」の「夜自」をとって「ヤジャ」という。高校生の夜間学習のことである。有名校はもちろんのこと、韓国のありとあらゆる高校でこのヤジャというものがある。男子高、女子高を問わない。高校一年生からこのヤジャはある。放課後になっても家に帰るのではなく学校に残り夕食を食べてから教室で学習が始まる。

担任の先生がいることもあるが、普通は生徒だけで学級委員が中心となり自習が行われる。一年生は夜9時まで。二年生は夜10時まで。三年生は夜11時までというのが大部分の高校のスタイルといえるだろう。これが毎日続くわけだ。どうだろうか。日本の皆さん、想像できますか? ただし、「自律学習」ということなので、勉強する子もいれば、友だちとグラウンドに行ってダベリングで過ごす子もいるのは世の常。三年生ともなるとさすがにほとんどのクラスで静かに黙々と勉強に励む姿が見られると、韓国の女子高校に通ったわが子も言っていた。

ヤジャがクリアできるのは、「修能試験」(スヌンの日である。日本で言う大学入学の統一試験、韓国ではこれをスヌンといっている。11月の第2か第3週目の木曜日がだいたい毎年その日である。この日はまた大変だ。受験生のために、会社の出勤時間を1時間遅めたり早めたりして交通の混雑を緩和しようとするほどだ。また遅刻しそうな生徒がいたら、すかさずパトカーや白バイが動員されその生徒を向かうべき所定の学校に運んでくれる。数年前、朝日新聞で見た記事だが、京都でもこうした遅刻学生がいてパトカーが動員され20キロほど突っ走って生徒を試験場まで運んでくれたそうだ。そうすると京都府警に700件を越す反響が届いたそうだが、8対2で賛成が多かったという。「2」は反対ということで「甘すぎる」「不公平だ」といった意見。韓国だったらこういう賛否論争はありえない。10対0で皆賛成ということになろう。韓国の高校生もこのスヌンの翌日からはヤジャがなくなるのである。

また外国語学習に関して一言。こちらの若者は外国語を学ぼうとする姿勢が子供の頃からできている。幼稚園のころから英語を学ばせたり、中国語を学ばせたり、日本語を学ばせたりする家庭も多い。子供たちもあまり反発することなく親の言う通りにそれらの外国語を嬉々として学ぶ。国の成り立ちが貿易であること、日本や米国などから技術を取り入れる必要があったことなどが外国語の学習欲につながっているようだ。日本の場合は、明治時代は別として、現代にあっては、せいぜいアメリカあたりから技術を取り入れるために英語をやるというくらいなので、外国語に対する学習欲というのはそれほど見られないのではないだろうか。外国との付き合いが大事になるこれからの世に、こういう姿勢はかなり危険だとわたしは考えている。英語はもちろんのこと、お隣の韓国語とか中国語は必須だと思う。日本の技術はすごいんだとあぐらをかいているといつの間にか足下からすべてをすくわれてしまっていた、などということもなきにしもあらずだと思うのだ。

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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