「ワタシのおなかにぴったりおいしい!」のキャッチコピーで、魅力的でちょうどいいボリュームの軽食「ミスドゴハン」をスタートさせたミスタードーナツ。今回の無料メルマガ『ビジネスマン必読!1日3分で身につけるMBA講座』では著者でMBAホルダーの安部徹也さんが、ドーナツ市場の縮小とミスドの業績不振を挙げ、新たな「ミスドゴハン」という戦略の是非についてプロの目線で分析しています。
ミスタードーナツは『ミスドゴハン』で長期に低迷している業績を回復できるか?
「ミスタードーナツ」の新たなチャレンジが話題になっています。
ミスタードーナツは、11月17日から全店を対象に「ミスドゴハン」と銘打ち、トーストやパイ、サンドウィッチなど11種類のメニューを新たに投入し、従来のドーナツ主体のメニューに飲食関連のラインナップを加え、「軽い食事もできるお店」へと変貌を図っているのです。
朝食向けには卵サラダとマヨネーズをトッピングしたホットトースト(税込270円)やドーナツにハムとツナサラダを挟んだサンドウィッチ(税込172円)などのメニューを新たに開発。
ドーナツやトースト、パイの中から1品とドリンクがセットになった「朝のミスドゴハンセット」は、320円、340円、360円の3種類を揃え、最大200円以上を割り引いてお得感を際立たせています。
加えて来月からは昼食や夕食需要を取り込むべく、ピザやパスタの販売を開始し、さらなる売り上げの上積みを目指していく計画です。
なぜ、ミスタードーナツがピザやパスタを販売するのか?
これまで飲茶などの飲食メニューは提供していましたが、あくまでもドーナツ主体のビジネスを展開してきたミスタードーナツは、なぜ今回トーストやピザ、パスタなどの飲食関連のメニューに力を入れて、ドーナツ以外の売り上げシェアを高める戦略に舵を切ったのでしょうか?
その背景には、ドーナツ市場の縮小に加え、大手コンビニなどとの競争の激化で業績不振が長引いているという要因が挙げられるでしょう。
これまで長い間ミスタードーナツはドーナツ業界において市場をほぼ独占してきました。
ところが、2015年にセブンイレブンを始めとした大手コンビニチェーンがドーナツ戦争を仕掛けてくると、顧客を奪われて業績不振に陥ります。
ミスタードーナツの売上推移を分析しても、2015年度以降は売上減少に拍車がかかっていることがわかります。
ただ、最近では大手コンビニチェーンのドーナツ販売への力の入れ様も下火となっていることが、店頭を訪れれば如実に感じ取れます。
このコンビニの戦略転換は、ミスタードーナツにとっては売り上げ回復の大きなチャンスといえますが、11月10日に発表された2018年3月期の第2四半期決算を見ると、運営企業のダスキンの飲食部門の売り上げは前年同期に比べて9.6%と大幅な減収を記録するなど販売減に歯止めがかかっていない状況が浮き彫りになります。
このミスタードーナツの長引く業績不振は、ドーナツという商品自体の魅力度が相対的に低くなってきたことに起因するといってもあながち間違いではないでしょう。
たとえば、健康やダイエットに対する関心が高まるにつれ、甘いスイーツは敬遠される傾向にありますし、今ではコンビニを始めインターネットでお取り寄せするなど、手軽においしいスイーツが手に入る環境にあります。
そこで、敢えてドーナツを食べるという機会が大幅に減少しているということなのです。
このような様々な理由によって主力のドーナツの市場規模が縮小する中で、ミスタードーナツはより市場規模の大きい外食業界にまでプロダクトポートフォリオを拡げて再び成長を目指すべく、「ミスドゴハン」の投入に踏み切ったといえるのです。
「ミスドゴハン」は戦略的に正しいか?
さて、今回ミスタードーナツは、業績不振から抜け出すために「ミスドゴハン」をスタートさせたわけですが、果たして戦略的に正しいといえるのでしょうか?
ここでは経営戦略のフレームワークを活用して検証してみることにしましょう。
経営戦略を立てる際に、事業拡大の方向性を検討するために活用されるフレームワークに「アンゾフのマトリクス」があります。
このフレームワークは、製品と市場から取るべき戦略を導き出すために『製品・市場戦略』とも呼ばれています。
企業は通常、既存製品を既存顧客に販売して事業拡大を図ります。
たとえば、ミスタードーナツであれば、ドーナツをターゲット顧客に販売して売り上げアップを目指すということになります。
実際にミスタードーナツでは今期に入って宇治茶専門店や人気ラーメン店、ハウス食品など様々な企業とコラボして魅力あるドーナツを次々に投入してきました。
最近では8月にタニタ食堂でおなじみのタニタと共同で、健康志向を踏まえた野菜を使用した「ベジポップ」を開発しています。
加えて、トレンドに乗るために、シーズンごとに「インスタ映え」するようなカラフルなドーナツを投入し、若い女性の心を惹きつける努力も行っています。
このように既存のマーケットに既存製品を販売していく戦略は「市場浸透戦略」と呼ばれています。
一方、既存顧客に既存製品を販売していくといずれマーケットは飽和状態になり、なかなか売り上げを上げることは難しくなります。
たとえば、ミスタードーナツは前述したように市場の縮小に悩まされており、まさに飽和状況に陥っているといえるでしょう。
そこで事業を拡大するためには、3つの方向性の戦略を検討することができます。
一つ目は、既存顧客に新製品を販売する戦略。これは「新製品開発戦略」と呼ばれています。
たとえば、ミスタードーナツが既存顧客にトーストやピザ、パスタなどのドーナツ以外の新メニューを販売するのはこの「新製品開発戦略」といえるでしょう。
続いて二つ目は、既存製品を新たなマーケットで販売する戦略であり、「新市場開拓戦略」と呼ばれています。
たとえば、ミスタードーナツであれば、ドーナツ店をアメリカや中国、台湾など海外で展開するなど、新市場に進出する戦略が該当するでしょう。
そして、最後の三つ目は、新製品を新市場で販売する「多角化戦略」になります。
たとえば、ミスタードーナツの「ミスドゴハン」のケースで考えれば、新たなメニューでこれまでミスタードーナツを利用してこなかった顧客層を取り込もうという狙いであれば、この「多角化戦略」に該当するということになるのです。
この「アンゾフのマトリクス」でミスタードーナツの戦略を読み解くと、今回の「ミスドゴハン」は既存顧客に新製品を販売する「新製品開発戦略」、そして新たなメニューでこれまでミスタードーナツを利用してこなかった顧客の取り込みを図る「多角化戦略」ということになり、戦略のセオリーに沿った選択をしていることがわかるのです。
ミスタードーナツが「ミスドゴハン」で業績回復という目的を達成するために鍵になるものとは?
さて、低迷する業績の回復を図るためには、「ミスドゴハン」の投入はセオリー通りの戦略といえますが、成功するかどうかは未知数といえるでしょう。
特に飲食関連のビジネスは市場規模も大きく、常に激しい競争が繰り広げられています。
これまで需要のなかったマーケットで需要を創造するのではなく、すでに他の店舗で食事をしている顧客をライバル企業から奪い去る「ゼロサムゲーム」に勝利する必要があるのです。
このような激戦区でミスタードーナツが思惑通りに飲食関連の需要を取り込むためにはライバル企業が提供する商品に対して圧倒的なアドバンテージがなければいけません。
そして、そのアドバンテージを価格に求めるか、品質に求めるかで、戦う相手や戦場が変わってきます。
安さで勝負するならコンビニやマクドナルドが強力なライバルとなるでしょう。
たとえば、セブンイレブンはパン1個とコーヒーがセットになって200円という「朝セブン」キャンペーンを不定期で開催していますし、マクドナルドはマフィンとドリンクのセットを200円で販売しています。
もし、ミスタードーナツがこれらのライバルから価格を武器に顧客を奪おうと思うなら200円以下のセットメニューが必須といえるでしょう。
また、パスタやピザでいえば、業績堅調で外食チェーンの勝ち組と称されるサイゼリヤが強力なライバルになってきます。
サイゼリヤでは、パスタにサラダとスープが付いてわずか500円のランチセットメニューがありますし、単品ではペペロンチーノが299円と驚くような安さで提供されています。
つまり、ミスタードーナツが価格でサイゼリヤから顧客を奪うのなら、それ以下の安さを実現しなければならないのです。
一方、品質を武器にライバル企業から顧客を奪おうと考えるなら、どのライバル企業よりも「価格の割には美味しい」というコストパフォーマンスを高めていく必要があるでしょう。
これまでのミスタードーナツの戦略との親和性を考えれば、価格で勝負するよりは、料理のクオリティで勝負する差別化戦略の方が勝算は高くなると考えられます。
実際にミスタードーナツは2014年からおよそ70店舗で九州を中心にパスタレストランを展開するピエトロの監修でパスタを提供していましたが、その販売結果が好調だったことより10月には正式に提携を結んで全国規模での展開を目指していくと発表しています。
今後はピエトロと組んで、クオリティの高いパスタをメニューに投入することが見込まれます。
当然のことですが、ミスタードーナツが飲食関連のメニューで成功を収めるためには、「ミスドゴハン」に常に磨きをかけて、お腹が空いたときに「そうだ!ミスドに行こう!」と、何度も顧客に思わせることができるかどうかが鍵を握ることになるでしょう。
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