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彼女たちは幸せ。フツーの子を浪費に走らせる非日常ビジネスの実態

外車に乗り、DCブランドの服を着て、高級レストランに行くことがステイタスだった昔に比べ、現代の若者たちは贅沢品をあまり好まず、家でまったりとSNSやゲームを楽しむのが好きなんだとか。では「浪費」をしなくなったのかといえば決してそうではないようです。メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんが、話題の本『浪費図鑑』を挙げ、昔とは方向性を変えながらも活性化している「浪費市場」の今を伝えています。

浪費市場の活性化

1.『浪費図鑑』が面白い!

浪費図鑑』(劇団雌猫著・小学館)という本が売れているというので、早速書店で購入した。

この本は当初、同人誌として発行され、それが商業出版につながったらしい。オタク女子たちが集まり、「人のお財布事情が知りたい」という興味で始まったという。

この本には、多様な浪費生活が吐露されている。共通しているのは、ある日突然何かにはまり通常の経済感覚が麻痺し、お金を「溶かす」ようになること。定期預金を解約し、生活費を使い込んでまで趣味にお金を使いまくる女性達。

何にはまるかと言えば、「あんスタ」「同人誌」「若手俳優」「地下声優」「宝塚歌劇団」「東京ディズニーリゾート」「ホスト」等々である。

ネットゲームで推しのキャラクターが出るまでガチャ(ゲーム)を続け、10万円使った。

親に借金して、同人誌を買いに行った。

若手俳優が好きになり、2年間で30万円もプレゼントした。

声優のイベントの応募券が同封されたDVDを15枚買って応募したが、全て落選し、一般発売のチケットを死に物狂いで入手し、イベントで声を聞くために10万円使った。

宝塚歌劇団に魅了され、遠征、お茶会、グッズに時間とお金をかけまくった。

一般的に考えればバカな話だが、彼女たちの思い切りの良い熱中ぶりはどこか清々しささえ感じるし、何よりも彼女たちは幸せなのだ。

2. 浪費の定義

この本で書かれている浪費は、全て正規の商業サービスを対象にしたものである。しかも、経済的に破綻している人はいない

たとえば、愛人に入れあげている人を浪費家とは言わない。キャバクラ、アイドル、ホストは商業サービスであり、料金も決まっている。正規の商業サービスや商品を対象に散在しているのが浪費の条件だ。

浪費は過剰ではあるが健全な消費である。

浪費の対象は、非日常の消費である。トイレットペーパーを大量に買い溜めしても浪費とは言わない。日用品、コモディティ商品は浪費の対象ではない。

我々は賢い生活、バランスの良い生活を良としているが、浪費はそのバランスが崩れた状態だ。逆の言い方をすれば、バランスなど考えられなくなるほど、強く魅了されるのだ。

この本を読むと、ある日突然何かの拍子に浪費の沼に足を踏み入れている。それまで賢い生活者だった人が、突然感情を揺さぶられ、浪費に走るのだ。

多くの浪費の対象は過剰な人工物である。宝塚もホストもディズニーリゾートもネットゲームも人工的であり、過剰で現実離れしている。

そこに魅了されるということは、ある意味で現実逃避かもしれない。素敵で過剰な現実逃避。それをビジネスとして演出し、そこにはまり込んで幸福感を味わうのである。

3. 浪費を誘うファッションとは?

80年代DCブランド全盛の頃ファッションに浪費する人は多かった。DCブランドを着用すると、良い意味で周囲から浮き立った。その効果は抜群で、異性に好感を持たれたし、同性の友人からも称賛された。正に、着用するだけで異世界に行けたのだ。だから魅了される人が生まれ、浪費の対象になったのだ。

現在のSPAは、トレンド追従型にせよ、ベーシック型にせよ、周囲から浮き立って見えることはない。品質と価格のバランスも良い。賢くバランスの良い生活を志すのに最適な服である。しかし、突き動かされるような感動を覚えることはない。

私たちの生活は、賢さを求められている。ビジネスの世界も同様だ。独創的、個性的なデザインよりも、消化率を追求した方が効率が良い。

コモディティ商品は賢く作ればいいが、ファッション、特に浪費の対象となるようなファッションは浪費を誘う魔力が必要だろう。但し、この魔法は商品だけでは完結しない。

AKBのファンは、総選挙のためにCDを大量に購入し、推しメンを応援する。最早、CDは商品ではないのかもしれない。

ファッション商品も同様のアプローチがあるかもしれない。デザイナーを応援するために商品を購入する。あるいは、服を着用した画像をアップするために服を購入する。

最近、Perfumeがブランドをプロデュースするというニュースを聞いたが、もし、ファンがPerfumeを応援するために、ブランドの商品をコレクションするなら、単なるタレントブランドではなくなるかもしれない。

4. 浪費市場の活性化

外国人は「私はオタクです」と胸を張る。オタクの意味を尋ねると、「オタクとは、一つのことに純粋に興味を持ち探求する人」であり、「オタクという呼び方には尊敬の意味が含まれている」とか。

オタクは、世間体とか一般常識にとらわれずに、自分の好きな道を邁進する。一般の人から見たら、オタクの消費行動は理解できないだろう。自分の好きなコトやモノには惜しげもなくお金を遣う。むしろ、それが生き甲斐であり、そのために他のことを犠牲にもするし、そのために仕事をする。

オタク消費は一般の人から見れば浪費である。本人にとっては素敵な体験であり生き甲斐だ。

きもの好きは、洋服を買うならきものにお金を遣いたいと思う。したがって、普段の洋服には無頓着だ。ロリータの子も同様の傾向がある。お金を遣うなら、ロリータのドレスに遣いたいので、普段のファッションは気にしていない。

ここが分かれ道だ。どうでも良いと思われる服か、お金を遣うならこの服やブランドだけに遣いたいと思われるか。現在のアパレル市場は前者ばかりを相手にしている。

ファッションの活性化には、ファッションオタクの育成が必要である。そして、オタクの興味の対象となるファッションとは何か。オタクが浪費したくなる服とはどんなものかを考えなければならない。

たとえば、アイドルに浪費しようとする人にはどんな商品を用意すればいいのか。現在、フィギュアやグッズだけで十分なのか。それとも、何らかのコラボイベントを仕掛けるべきなのか。そこを深堀してみたい。

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