国民すべてに等しく課せられている「納税の義務」、のはずなのですが…、法律の抜け穴を巧みに突いたやり口で、相続税や贈与税を逃れている不埒な人間もいるようです。今回のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では著者で元国税調査官の大村さんが、一般社団法人を利用して無税で財産を身内に移す手口や事業用の土地を10分の1以下の税額で相続する方法を紹介しています。
相続税の抜け穴~社団法人を使った逃税術とは?~
相続税の抜け穴に、「社団法人」というものがあります。「社団法人」というのは、剰余金の分配を目的としない法人のことです。社団法人というと、公益的な事業を行うようなイメージがありますが、必ずしもそうではありません。社団法人には、「公益社団法人」と「一般社団法人」というものがあり、「一般社団法人」が行う事業には、公益性は求められていません。つまりは公益性がなくても、社団法人をつくることができるのです。
以前は、社団や財団というと、必ず公益性が求められていたのですが、平成20年12月1日に「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」という法律が施行され、公益性がなくても「一般財団法人」「一般社団法人」というものが、つくれるようになりました。「一般社団法人」は、普通にアパート経営をしたり、いろんな収益事業を行うなど、企業としての活動をしても構わないのです。ほとんど普通の法人(会社)のようですね。
「一般社団法人」と普通の法人(企業)と何が違うのか、というと、「配当の分配をしない」ということです。普通の法人(企業)であれば、事業を行なって、利益が出れば株主に配当を支払います。しかし、社団法人の場合は、配当はさずに、利益は法人の中に貯め置かれるのです。一般社団法人と普通の法人の違いは、その点だけといってもいいでしょう。他にも若干の違いはありますが、もっとも特徴的な部分は、そこだけです。
そして以前は、社団というのは、官庁の許可がないとつくれませんでした。しかし、現在は、一定の要件さえ満たせば、誰でもつくれるようになったのです。一定の要件というのも、「発起人が2名以上いる」「登記をする」というくらいの簡単なものなのです。だから、つくろうと思えば誰でもつくれるのです。
社団法人の逃税スキームとは?
社団法人が、なぜ金持ちの節税アイテムになっているかというと、社団は、税金の面で非常に大きな特典を持っているからなのです。資産家が社団を作って、自分のお金を拠出するときには、税金がかかりません。普通、自分の資産をだれかにあげたりすれば、贈与税がかかってしまいます。贈与せずに、死後に譲った場合は相続税がかかります。しかし社団にあげることにすれば、贈与税も相続税もかからないのです。
そして、その社団の運営権は、簡単に他の誰かに譲り渡すことができます。だから、自分の財産を社団につぎ込み、社団の運営権を自分の親族に渡せば、事実上、相続税を払わずに自分の資産を親族に移すことができるのです。
社団の運営には、官公庁も一応、指導をすることになっていますが、それも甘いものです。だから社団のお金の使い道は、設立者、運営者の意のままなのです。
社団の活動は、その構成員の協議で決められる、という建前があります。でも社団の構成員は、創設者の息がかかった人しかいないので、実質的に社団の資産は、作った人の思いのままになるのです。第三者を入れなくてはならないという法律もなければ、財産の運用をチェックする外部機関もないのです。
この社団法人を使った相続税逃れは、現在、税務当局で対策が講じられており、法改正されて抜け穴を封じるように検討されています。さすがに、それはそうでしょうね。
相続税の抜け穴 ~事業用の土地を相続する場合~
相続税というのは、資産を持っている人が死亡した場合、その資産を相続した人たちが払う税金です。相続税の対象となる資産は、現金預金だけじゃなく、不動産、動産など「金目のものはすべて」です。そして相続資産の計算をするときには、「時価」が基本です。たとえば、土地などの場合は、相続した時点での市場価格が相続資産価格になります。ただ、相続税には、「特例」がたくさんあり、一定の条件をクリアすれば、土地の価格などを市場価格からずいぶん差し引けるという制度があるのです。
よく知られているのは、「居住用の土地」です。このメルマガでも何度かご紹介しましたが、被相続人(資産を残して死亡した人)が住んでいた家に同居していた遺族が、そのまま住み続ける場合、その家の土地は、330平方メートル以内であれば、土地の価格は80%免除されるという規定があります。つまり、相続税の対象となる土地の価格は、市場価格の5分の1でいいということです。これについては、今回は、詳しい説明は致しません。
今回、ご紹介するのは、「事業用の土地」のことです。被相続人(資産を残して死亡した人)が事業を営んでいた場合に、遺族がその事業を引き継ぐことを条件に、その事業のために使っていた土地の価格を80%免除するという規定があるのです。たとえば、10億円の事業用の土地があったとすれば、遺族がその事業を引き継ぐのであれば、相続税の対象として換算する土地の価格は、2億円でいいということです。ただし、土地の広さに制限があり、400平方メートルまでです。
この制度には、実はさらなる抜け穴があり、必ずしも事業を継承しなくても特例を受けられるケースもあるのです。というのも、「事業を承継する」ということの条件が、非常に緩いのです。この「事業承継」の要件というのは、次のようになっています。
その宅地等の上で営まれていた事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつ、その申告期限までその事業を営んでいること。
ということは、まったく事業を継ぐ気がなくても、相続税の申告期限までに形だけ事業を承継するという手続きを取っていれば、それでOKということになります。申告が終わった後は、その土地を売ろうが、事業をやめてしまおうが、関係ないわけです。
たとえば、です。都内の一等地に、200平方メートルの土地にたばこ店を建てて営んでいる人がいたとします。何十年も前からたばこ店を営んでいて、その間にグングン土地の値段が上昇したわけです。その土地は、時価総額10億円だったとします。このたばこ店の経営者が死亡しました。相続人は長男が一人です。この長男は、サラリーマンをしています。でも、相続税対策のため事業承継の手続きをしました。事業承継の手続きといっても、特別、何かを申請するというようなことは必要ありません。サラリーマンを辞める必要もありません。税務署に開業届を出せばだいたい事が足ります。ちょっと頑張れば、自分でもすぐにできますし、税理士に頼めば1万円くらいでやってくれます。そして、相続税の申告書を提出するまで、一応、店の開けたりして、営業しているという実績を残すのです。
たったそれだけの作業で、10億円の土地の相続評価額が80%免除されて、たったの2億円で換算されるのです。普通に10億円を相続すれば、だいたい3~4億円の相続税がかかってきます。しかし、2億円であれば、3~4千万円で済んでしまいます。うまくいけば相続税額が10分の1以下に抑えられるのです。
相続税の申告書を提出する期限というのは、被相続人(遺産を残した人)が死亡したのを知ってから10か月以内です。10か月以内ということは、死亡した日でもいいわけです。だから、被相続人が死亡してすぐに、形ばかりの事業承継をし、すぐに申告書を提出すれば、相続税が10分の1近くに下げられるのです。そして相続税の申告書を出してしまえば、後は、店の営業をやめようが、店を売ってしまおうが、大丈夫なのです。
普通の人にも応用できる
この相続税の抜け穴は、商売をやっていない普通の人も、使おうと思えば使えないことはないのです。というのも、「宅地」というのは、いつでも「事業用の土地」にすることができるからです。
たとえば、都心部の200平方メートル10億円の土地に住んでいたとします。昔からここに住んでいた人で、いつの間にか土地の値段が上がっていた、というパターンです。この土地の上に立っている家を改造し、何かの店を始めます。コーヒー豆の販売でもいいし、雑貨店でもいいし、ちょっとした飲食店でもいいわけです。そして、税務署にも開業届を出し、毎年、事業としての申告もすれば、それはもう立派に事業として認められるのです。売り上げの規模の大きさとか、儲かっているかどうかというのは関係ありません。事業をしているという事実があればいいのです。そうすれば、その土地は「事業用の土地」ということになります。
この土地の所有者が死亡した場合、遺族は、事業の承継の手続きを取ればいいわけです。そうすれば、先ほどご説明したのと同じ要領で、10億円の土地が、相続資産としては2億円の換算で良い、ということになり、相続税が数分の1から10分の1以上に激減してしまうのです。
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