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日本には見えていない、この10年ではっきりした世界の対立構造

世界が北朝鮮に振り回された感のあった2017年ですが、明けて2018年、今年はどのような危機に襲われる可能性があるのでしょうか。アメリカ在住の作家で世界情勢にも精通する冷泉彰彦さんが、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』の中で「2018年の世界、3つの課題と日本」と題し、現在の世界で起きていることを俯瞰的に考察・分析しています。

2018年の世界、3つの課題と日本

アメリカの政治経済ということですと、トランプ政権が大減税に加えて、インフラ投資をやるとか、その上で景気を引っ張って中間選挙を乗り切ろうとしているとかいう話があります。ですが、その種のストーリーは、既に織り込み済み」ですし、そもそも具体的すぎて面白くも何ともありません。

年の初めですので、もう少し俯瞰的に現在の世界で起きていることを考えてみたいと思います。

1点目は、グローバルとローカルコスモポリタニズムとナショナリズムという問題です。2010年代の現在、非常に単純化してみれば、金融・ソフトウェア・エンジニアリングといった最先端産業は、完全にグローバル化しています。

また、ネット環境、送金決済・金融市場のシステム、国際航空ネットワークといった、グローバルな「ヒト、カネ、情報」流通のインフラも整備されつつあります。

そんな中で、高付加価値産業高収入の職種というのは国境のない世界に属しつつあります。また、そうした世界に属する人々の思考法は、コスモポリタン的になって行きます。

その一方で、モノの世界というのは、モノというものの「重さ」や「送りにくさ」「検疫」「関税」と言ったシステムで、ある意味ではナショナルな世界に属しているわけです。ですから、「モノに付加価値を乗せる」という第一次・第二次産業的な労働も、ローカルな世界に属しています。

そんな中で、「高学歴、高付加価値労働、自由貿易、グローバル、コスモポリタン」というグループと、「低付加価値労働、保護貿易、ローカル、ナショナリズム」というグループが鋭角的に対立するというのは、構造的な宿命と言っていいでしょう。

2点目は、国家財政と通貨という問題です。ビットコインの乱高下が話題になっていますが、これは「無価値なものに資金が流入してバブル化」しているのではありません。「国家財政が債務超過化する」こと、つまり「マイナス」を忌避してプラマイゼロに資金が流れてきているだけです。

ですから、余剰資金によるバブルという観点よりも、「国家の信用力低下」というストーリーで見るべきなのでしょう。その意味で、中国だけでなく韓国などでもビットコインへの警戒感が出てきているというのは重要です。

一方で、日本の場合は「長期悲観」ということで「円の先安感」があるわけですが、それはちょっと測定ミスという面があります。「国内の個人金融資産」とオフセットできる日本の国家債務というのは、国家全体、通貨圏全体で見れば決して不健全ではないわけで、短期から中期ということでは、むしろ円高要因があるという見方もできるわけです。

ということは、日本という「企業」のCEO・CFOがしっかり大局観を持っているのであれば、ここは思い切って「世界でファイナンスをして資金を引っ張ってきて」最先端、つまり巨大なビッグデータによるAIであるとか、バイオ製薬、今度こそまともな金融立国といった高付加価値の内容へと、企業をリストラ(再構成)する時期なのではないかと思うのです。

3点目は軍事という問題です。現在の状況は、例えばナショナリズムとグローバリズムの階層文化であるとか、国家債務の危機であるとか、一見すると1930年代危機の構造に酷似しているように見えます。

そこに、例えば米国のF35増備であるとか、中国の原子力空母構想といった話を加えると、危険極まりない、これこそ1930年代危機の再来だという恐怖に駆られるのも分からないではありません。

ですが、F35とか原子力空母といったものは、1930年代の兵器とは全く次元が異なります。というのは、構造的に実戦に向かないという欠陥を抱えているからです。それは「高額に過ぎて損失に耐え得ない」ということと、「実戦運用時のメンテコストが高額すぎて実用にならない」ということなのです。

つまり、あくまで威嚇という格好で軍事バランスを維持する、つまり抑止力兵器ではあるものの、実戦投入すると「それだけでメンテコストが国家を押し潰す」し、「まして全損のリスクは取れない」ということ、つまりは実戦に投入できない兵器であるわけです。

ですから、こうしたハイテク兵器というのは、ローカルにしがみつく世論の安心感を政治的求心力にするためのツールであり、また「モノという内需拡大のツールであるわけですが、それ以上でも以下でもないわけです。また、仮にそのレベルを超えた軍拡競争に陥ったとしても、その出口はドイツの1939年の破綻ではなく、ソ連で1990年に起きた破綻という形態を取る可能性が強いのではないかと思います。

その意味で、北朝鮮危機というのも、経済制裁がある臨界点を超えて機能し始めた際に、それでも高価な軍拡を続けるのであれば、ソ連型の自滅というシナリオに近い格好になるのかもしれません。その場合も、日本は「反日の統一韓国成立を警戒する、あるいは国内にそうした存在への過剰な敵意が生まれることへの警戒も必要かもしれません。

話が大局から具体的な問題へと流れましたが、3つの危機、つまりグローバリズムとナショナリズムの支持階層分化の問題、国家財政と通貨の危機、軍拡の危機という3点が恐らくは2018年の危機を見ていく上での重要な軸なのだと思います。

そうではあるのですが、危機が1930年代のような大規模な破綻へ向かう可能性は低く、むしろ部分的にソ連崩壊のような破綻が起きるのではないかという観点で考えるべきなのだと思います。年末年始におけるイランの動揺もそういた予兆と見ることができるのかもしれません。

その一方で、極めて高い教育水準を有した分厚い人口を擁する日本が、ローカルな世界に沈んでいくというのは、全くもって勿体無い話であり、非合理な、自然の流れに反した話であると思います。

いい加減に、産業構造の転換を図って、高付加価値産業の流出を止め、今度こそ金融立国ができるようなカルチャーの修正をやり、バカバカしいほどの低生産性社会を止めるようにしなくてはなりません。金が必要であれば、世界から調達すればいいのです。

その意味で、安倍政権に問題があるとしたら、そうした構造改革について、全く切迫感がないし、そもそも高付加価値創造型の産業に対して理解がないということであり、この点に関して強い修正を求めたいと思うのです。

やや総花的な論になりましたが、年始の観点として、皆さまのディスカッションのたたき台として頂ければ幸いです。

image by: Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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