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【書評】犯罪に手を染める高齢者「アウト老」たちの呆れた老人力

少子高齢化が深刻な問題となっている我が国ですが、犯罪の高齢化も大きな問題となっていることをご存知でしょうか。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんが紹介してくださっているのは、そんな犯罪に手を染めた老人たちの実態を露わにするルポ。にわかに信じ難いエピソード満載の一冊です。

暴走老人・犯罪劇場
高橋ユキ・著 洋泉社

高橋ユキ『暴走老人・犯罪劇場』を読んだ。高齢者たちが凶悪な犯罪に手を染める。そして公判ではその「老人力を全開して奔放に振る舞う。その身勝手さ、自由さはみごとなものである。著者は13年にわたって刑事裁判の傍聴を続けてきた。そして、彼らのように高齢になってから殺人など、ルール違反人間失格な行動に走る人たちをアウト老と名付けた

「犯罪白書」を見ると、近年、男女ともに高齢犯罪者の増加が著しい。殺人や強盗などの凶悪犯に加え、傷害や暴行といった粗暴犯では高齢者が凄まじい勢いで増えている。高齢者人口が増加し、出生率の低下による少子化は、ますます高齢者犯罪を生む。アウト老のとんでもない実態を露わにするレポート。

この本に登場するアウト老たちは、著者がこれまで見てきた高齢凶悪犯罪者のほんの一部だという。共通項は、カネの問題を抱えていること、かつて「良い時代」を生きてきた過去があり、妙にプライドが高いこと、不寛容さがあること、そして「歪んだ正義感」があることだ。これらは燃料でしかない

「着火」させるのは高年齢者ゆえの「他者への強い執着心」「怒りを制御できない」という「性質」である。認知力の低下に加えて、「プライドの高さ歪んだ正義感」といった共通項が、執着心や怒りを増幅させていった。それをコントロールできれば、アウト老にはならなかっただろうと著者は考える。

アウト老たちは逮捕されてもなお、自分が正しいと信じて疑わない。この独善性はどこからくるのか。精神科医の春日武彦氏に聞くと「〈プライド・こだわり・被害者意識〉がグロテスクに結実しているということでしょうね。自分には人生経験と苦労がある。それなのにオレを〈ないがしろ〉にしやがった世の中こそが反省すべきだ、という思いが根底にあるからでしょう」と説く。

アウト老たちは、法廷でもアウト老ならではの振る舞いを見せる。妙なプライドを振りかざして被害者を悪し様に罵る。老人力を駆使して公判を混乱に陥れる。自分こそ弱者、被害者だと主張する。いずれもまったく自分勝手、まったく自由奔放、まったく反省がないのが特徴だ。救いがたいアウト老たちである。

それぞれの事件の概要と、法廷での彼らの言動を具(つぶさ)に描写していて興味深い。著者の傍聴ポイントが「車椅子の被告人の裁判は何かある」で、たいてい不可解な言動を繰り返す。車椅子は殆ど偽装であるらしい。弁護人は犯行時に被告は心神耗弱状態であり責任能力について争うと主張するのはお約束だ。

いやはやとんでもない凶悪事件の詳細と、公判時のとんでもない言動がミックスされ、とんでもないアウト老の本性が暴かれていて、その方面が好きな人には格好の娯楽レポートになるだろう。一章まるまる使った「恐怖の隣人トラブルはリアルに怖い。幸い我が家の両隣は静か過ぎる人たちである。

この新書のフォーマットが問題だ。1ページが1行42字、16行、断ちから6ミリの余白である。余白が狭すぎて落ち着かない。1行多いからだ(代表的な新書として新潮新書を例にあげると、1行39字、15行、断ちから10ミリの余白である)。右ページ隅に1行15字だけ、左ページは次の章のタイトルが中央に、というみっともない見開きもある。右ページ白のほうがまだましである。設計が菊池信義とあるが、なんでこうなるの? 残念な新書である。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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