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絶望のビットコイン、中島聡が可能性を感じたインド政府のある発表

大幅下落が止まらない仮想通貨市場ですが、そもそもその根幹の技術である「ブロックチェーン」に革新的な技術としての可能性は見出せなくなってしまったのでしょうか? メルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で世界的プログラマーの中島聡さんは、仮想通貨に規制をかけたインド政府の声明に注目し、そこに「ブロックチェーン2.0」とでも呼ぶべき「答え」があると指摘。その他、仮想通貨取引所や銀行がひた隠しにする「手数料」ビジネスの実態などを紹介しています。

読者からの質問

今週はこんな質問が来ていました。

ビットコインを可能にしているブロックチェーンという技術は、本当に素晴らしい技術と仰っていましたが、ブロックチェーン技術をうまく活用した事業を展開している企業をご存知でしょうか?※米国、日本や大企業、スタートアップ問わず、ブロックチェーンの可能性や期待の高さはよく聞くんですが、実際に活用している企業を仮想通貨以外であまり聞かないため、質問しました。

まだ技術的に課題があるのか?まだインフラが整っていないのか?普及、浸透までの課題点についても知りたいです。

とても良い質問ですね。私自身も、これで頭を悩ませているところです。

ブロックチェーンという技術は、これまで色々な人が作ろうとして挫折してきた、分散台帳を可能にしたという点では、本当に画期的で、発明者が名乗り出たら、ノーベル経済学賞を上げても良いぐらいの大発明です。

しかし、その分散台帳が何に応用できるのか、という点に関して言えば、実際のところは、ハンマーが釘を探しているような状態、というのが実態です。

もっとも分かりやすい応用例は仮想通貨ですが、残念なことにあまりにも相場が不安定なので「国際通貨としての役割を果たせなくなってしまいました

でも、全く役に立たなかったということもなく、「国の目をすり抜けて海外送金する」「武器や麻薬を匿名で購入できる」などの非合法な分野には強いニーズがあったことも事実です。

また、パチンコ屋やFXで射幸性の高いギャンブルに親しんできた一部の日本人にとっては、格好のギャンブルの対象になった、というのも事実です。

とは言え、ブロックチェーンの技術を活用しようというベンチャー企業もたくさん現れているので、そのうち誰かが有効な使い方を見つける可能性は十分にあると思います。

ちなみに、各国政府は仮想通貨に対して様々な規制をかけていますが、先週インド政府が出した声明に私は注目しています。

Arun Jaitley has just killed India’s cryptocurrency party

この記事によると、インド政府は投機対象になってしまった仮想通貨が作り出しているバブルに大きな懸念を持っており、インド国内で仮想通貨を通貨として使うことは全面的に禁止するそうです。しかし、ブロックチェーン技術には大きな価値があると見ており、政府としても不動産の登記などに積極的に使いたいそうです。

国が不動産の登記に使う場合などに、本当に分散台帳が必要なのか、その場合、マイニングはどうするのかなど色々と疑問はありますが、ひょっとすると、ここに「ブロックチェーン2.0」とでも呼ぶべきものの答えがあるような気持ち(と言うかエンジニアとしての直感)があります。

Satoshi Nakamoto氏のせっかくの発明が、「仮想通貨は投機の対象になってしまう」という致命的な欠点のために、上手に活用できていないのは、とても残念なことです。こんな問題を解決することこそ、私たちエンジニアの役目ではないかと思うのです。

スプレッドに隠された手数料

580億円相当の仮想通貨を顧客の口座から盗まれたコインチェックが、それを現金で補填すると発表しました。そんな現金があることが驚きです。コインチェックの主たるビジネスモデルは、仮想通貨の売買時の手数料ですが、日々の取引高が事件前は一日300億円あったことを考えれば、十分に可能です。

私もコインチェックに口座を開いて知ったのですが、仮想通貨の取引所には、一般向けの「販売所」と、トレーダー向けの「取引所」があります。取引所では、株式市場と同じく、指値での売買が可能なので、スプレッド買値と売値の差はとても小さいのですが、販売所の方は、取引所が設定した価格での売買となるので、スプレッドが2~3%ほどあります。

このスプレッドは、実際には取引所が設定している手数料なのですが、どの取引所もこれのことを手数料とは呼ばず、平然と「手数料無料」と宣言しています。

これは消費者を騙すかなり悪質な行為ですが、これは仮想通貨の取引所に限った話ではなく、日本の大手銀行も堂々とやっています

上の画像は、三菱東京UFJ銀行の外貨預金の宣伝ですが、為替手数料のところには(1ドルあたり50銭と大きく書いてありますが、下の注意書きを読むと、スプレッドが最大1ドルあたり2円あると書いてあります。つまり、片道で2円50銭往復だと5円の手数料を取られることになるのです。

これは1ドル110円で計算すると4.5%にもなる手数料で、年利1.4%の外貨預金をすると、為替が動かなかった場合で3.1%のマイナス金利になります。

私の目に止まった記事

The sad state of crypto custody

仮想通貨は、ブロックチェーンという素晴らしい技術によって、システムとしての信頼性を担保していますが。しかし、仮想通貨を保持するウォレットと呼ばれるアカウント情報(正確には秘密鍵)を盗まれたらそれで終わりであり、その部分に関しては、アカウントの保持者が責任を持って管理する必要があります。

多くの人は、仮想通貨の取引所にウォレットの管理を任せていますが、コインチェック事件でも分かる通り、全く安全ではなく、そこが銀行預金とは大きく違います。

銀行預金よりも危なく、かつ、利息もつかないにも関わらず、将来の値上がりに期待する人たちの熱狂により値段が高騰しているのが仮想通貨なのです。

取引所が信用できない人は、自分でウォレットを持つことも出来ます(タンス預金に相当するものです)が、ちょっとした注意不足でそれを紛失してしまう可能性もあり、それはそれでとても不安です。

結局のところ、資産運用の王道は株と不動産だとつくづく思う今日この頃です。

image by: shutterstock

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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