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青山や中目黒の奥様が殺到、パリ発「冷凍食品スーパー」が急拡大

自由が丘や麻布十番、代官山や中目黒といった都内のお洒落エリアを中心に6店舗を展開し、『「エフォートレス」な暮らしの提案』というコンセプトが高感度な女性に受け入れられつつある、フランスに本社を置く冷凍食品専門スーパー「ピカール」。冷食につきまといがちな「手抜き感」や「不健康」といったマイナスイメージを完全払拭したことで欧州では大人気を誇る同店、日本の食生活を変えるような存在となることはできるのでしょうか。フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんが考察します。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

東京に6店、パリ発冷凍食品専門スーパー「ピカール」は日本の食生活を変えるのか!?

美食の国、フランスの“国民食”とまで言われ、生活に密着した冷凍食品専門店「Picard(ピカール)」が日本に上陸。高感度の働く女性が多い東京都心部で、その利便性と家庭的な味見た目の華やかさが評価されて順調に店舗数を伸ばしている。

2016年11月に、青山・骨董通りに日本1号店を出店。昨年12月8日にオープンした自由が丘店で、6店目となった。これまで出店しているのは、青山、麻布十番、中目黒、代官山、品川シーサイド、自由が丘で、都内西部南部の所得の高い地域に店舗を広げている。

「ピカール」は世界8ヶ国、フランスを中心に、イタリア、スイス、ルクセンブルク、ベルギー、スウェーデン、イギリス、そして日本で、1,000店以上を展開する流通大手。コンセプトは「エフォートレス」な暮らしの提案で、「エフォートレス」とは最近、ファッションでよく使う用語であり、「頑張り過ぎずに素敵に生活する」を意味する。

女性の社会進出が進む中、仕事と子育てを両立する上で、全ての料理を素材から手づくりしなくてもより良い食生活が送れると、提案している。

「ピカール」の店舗では自社ブランドで、前菜から、メインの肉や魚のメニュー、パスタ、パン、デザートまで、食事の全てが揃う。しかも合成着色料不使用、保存料の使用を抑えるなど、飽きの来ない味やSNS映えする見た目のみならず、安全・安心に配慮した品質面でもこだわり抜いた商品群をラインナップ。

ピカール代官山店 店内

本国、フランスでは「好きな食品ブランドランキング」調査で、7年連続で1位を獲得するほど浸透している。フランス国内での年商は、約14億ユーロ約1,848億円、1ユーロ=132円換算)となっている。

日本では今までなかった、冷凍食品のみで構成された小型スーパーとも言うべき業態。従来の冷凍食品にあった、手抜き料理や体に良くないというマイナスイメージを払拭する革新を行っているのが、「ピカール」がヨーロッパ諸国で熱烈に受け入れられている理由だ。

つくりたてを瞬間的に冷凍保存する独自技術により、冷凍食品だからこそ実現できる、高鮮度ナチュラルな製法食品廃棄を最小限に留めるエコへの配慮を通じて、消費者の「ヘルス&ウエルネス&ハピネス」な生活をサポートするとしている。

でき立ての料理を即、冷凍すれば保存料を使わなくても鮮度が保てる。さらに、チルドの賞味期限切れになった弁当や総菜のように廃棄されることもないので食品ロスが解消される、というわけだ。

「ピカール」を経営するピカールSAS社はパリに本社を構え、1974年パリ17区に1号店を出店しているが、1906年創業の製氷会社を起源としている。62年には冷凍庫と業務用冷凍食品の販売を始めていたので、家庭用の冷凍食品に進出する以前から冷凍に関するビジネスの歴史が古く、膨大な知見の蓄積を有している。そのため、「ピカール」にかかれば、冷凍できない食品はないと言われるほどで、ありとあらゆるものを冷凍している。

日本では豊富なラインアップの中から、約200品目の商品でスタートした。この「ピカール」を日本で展開するのは、イオンの100%子会社イオンサヴール(本社・千葉市美浜区、小野倫子社長)。「ピカール」事業化のために、2016年6月に設立した新しい会社だ。

イオンは郊外にショッピングモールを建設する一方で、都心回帰少子高齢化の人口動態に対応した都市型の小型店の開発を急いでおり、2005年より出店している食品スーパー「まいばすけっと」、2014年に開発したイートインできる弁当・惣菜店「キッチンオリジン」などと共に、将来を見据えての業態である。日本でも、フランスと限りなく近い環境で買物が楽しめるような店づくりを行っており、365日、素材から加工品まで、どんな食シーンにも対応できるバラエティに富んだ商品が特長だ。

イオンでは2014年11月に東京都日野市の「イオン多摩平の森」に「ピカール」商品のコーナーを初めて設置し、約50品目を展開。さらに首都圏の総合スーパー「イオン」や「ダイエー」9店で販売動向を探ると共に顧客からの意見を聞き路面店出店への準備を進めてきた。

青山骨董通りに路面店が出店されると、総合スーパー内に設置されていた「ピカール」コーナーは、「プチピカールとしてリブランド。現在は、「プチピカール」として、イオン東雲店、イオン東久留米店のいずれも東京都内にある2店にて展開されている。なお、イオン品川シーサイド店は昨年10月に拡張され、「プチピカール」から「ピカール」にリニューアル・オープンしている。

ピカール公式HP 新商品より

また、ECショップも16年11月にオープンしているので、遠隔地に住んでいる人も通販にて「ピカール」商品を買うことができる。

オープン以来の人気の商品は、自宅で本場の味を、焼き立ての状態で食べられる「クロワッサン」(10個入り843円、税込・ECショップ、以下同)。生地に発酵バターを使っているので、香りが高くコクがある味わいだ。クリスマスのようなパーティーシーズンには、「サーモンのパイ包み焼き」(6皿分3,219円)や「食いしん坊のミニエクレア」(12個入り1,599円)など、写真映えする商品がよく売れる。最近は、野菜の価格高騰もあり、料理の素材となる野菜がヒットしている。

ピカール 食いしん坊のミニエクレア

従来の冷凍食品のような、安価なものではなく、食生活を華やいだ雰囲気にしてくれるそれなりに単価を取る商品が揃っている。一方で、従来のフランス料理のイメージにある、こってりした濃厚な味付けではなく、全般にカロリー、塩分、糖分は控えめのヘルシーな料理となっている。

顧客層は幅広いが、料理をする機会が多い女性男女を問わずトレンドに興味がある人食にこだわりを持っている人が主流。週末には家族連れが増える。平日の青山骨董通り店では午前中は近隣住民、夕方以降は仕事帰りの人が増える。ショッピングや観光の流れで立ち寄って購入していく人も多い。

外国人の顧客が一番多いのは、麻布十番店となっている。麻布十番店は土地柄、外国人が多いこともあるが、イオンの子会社ビオセボン・ジャポンが経営する、フランスで100店舗を展開するオーガニックスーパー「ビオセボンの日本1号店に併設しているのも、外国人顧客が増える要因となっている。

現在のところ卸売を行っていないので、飲食店の関係者がどの程度購入しているのかは不明だが、「品質の良さは料理のプロからも評価をいただいている」(イオンサヴール・広報担当者)と、業務用途の拡大にも自信を見せている。実際、フランスの「ピカール」の店舗には、日本から多くの冷凍食品やコンビニ、スーパーの関係者が視察に訪れており、商品開発のヒントにしていると言われてきた。また、フランスでは「ピカール」商品をホームパーティーのみならず、レストランでも活用するケースがあるという。

日本限定で販売している商品はなく、輸入の規制が厳しい肉類の「スパゲッティ ボロネーゼ」、「鶏肉のソテー レモン風味」など一部は国内で製造している。オーブンを使わなければできない「クロワッサン」、人気のスイーツ「モアローショコラ」のような商品も多数あるが、今まで使っていなかったオーブン機能を使ってみたら意外と簡単で便利だったといった、消費者の声も寄せられている。オーブン電子レンジフライパン蒸し器などを組み合わせて、幾つかの料理を同時に調理できるのも、「ピカール」の魅力の1つである。

4号店の「代官山アドレス」内にある、代官山店で本格的に導入されたイートインは、ランチタイムやティータイムによく活用されているようだ。席数は21席で、電子レンジが設置され、セルフで温めて食べる。モバイラーのビジネスパーソンには嬉しい無料コンセント付のカウンター席、リビングのようにゆったりできるテーブル席がある。近隣のママ友たちの少人数の集まり、休日ならばファミリーも多いが、女性のおひとり様も目立つ。

ピカール代官山店 イートイン

イートインで食べられるのは、1人用の電子レンジで温めるだけの商品に限られ、売場では陳列に「こちらの商品はイートインできます」と表示されている。商品的にはパスタ、カレーライス、ラザニア、グラタン、スープ、フレンチトースト、デザートなどとなっている。コーヒーや生搾りジュースと共に購入すると、100円引きになる。コーヒーは「イリー」の商品を提供、生搾りジュースは注文を聞いてからオレンジを搾ってくれる。

このように、従来の冷凍食品のイメージを覆す店舗、商品を展開する「ピカール」は、デパ地下にも売っていない独自の商品が魅力。しかし、今のところフランスで開発された商品のみを扱っているので、日本人の食生活の一部、洋食しかカバーしていない弱点もある。これまで「ピカール」はヨーロッパでしか店舗展開していなかったので、日本人に馴染みが深い和食中華には対応していない。スーパーやコンビニの冷凍食品も、チャーハン、うどんの麺などは、改良が進んでお店の味に近づいてきている。「ピカール」ではカバーできていない領域だ。

それゆえイオンでも、麻布十番店のようにスーパーに併設してみたり、代官山店のようにイートインをつくってみたりと、日本での展開に最善なスタイルを確立しようと探っているようだ。

さらに進化を続ける、「ピカール」がどういった形になっていくのか。女性が活躍できる社会を目指す国策、食品廃棄はもったいないと考える国民意識の高まりといった、時流に乗った業態であることは確かだ。果たして100店、200店と店舗を出し続けられるのか。今後の動向に注目したい。

image by: ピカール公式Facebook

長浜淳之介

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

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兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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