平和の祭典・平昌オリンピックの最中にも止むことのなかった中東での戦闘。多くの子供を含む無辜の民が犠牲になりました。メルマガ『国際戦略コラム有料版』の著者・津田慶治さんによると、今、我々はこの中東紛争を含む3つのリスクに襲われつつあるとのこと。津田さんはそれぞれについて個別に解説するとともに、今後の日本、そして世界を占っています。
風雲急を告げる世界経済と中東紛争
米国経済は好調であるのにNY株が暴落し、中国でも資金調達ができずに海外資産売却に走る企業が出てきたし、かつ中東ではシリア、クルド、トルコの三つ巴の戦いに、イスラエルも参戦して戦争拡大の様相になっている。3つのリスクが押し寄せてきた。今後の世界を検討したい。
米国株はどうなるか?
2月初めに大暴落したが、23日の米ダウ平均が大幅に続伸し、前日比347ドル51セント高の2万5,309ドル99セントになった。この理由は、米長期金利の指標である10年物の米国債利回りの低下が続き、金利上昇で株価の割高感が高まるとの警戒感が後退したことだ。
最高株価2万6,616ドル71セント(18/01/26)で直近安値2万3,360ドル29セント(18/02/09)なので、3/4以上を戻したことになる。最高値まで1,000ドルちょっとである。というように市場に安心感が戻ってきた。
イエレン前議長は、FRBの資産圧縮のために米国債を売ったが、株暴落で、パウエルFRB新議長は、10年物米国債を110億ドル買い、長期金利を押し下げた。これにより市場に安心感が広がった。パウエルプットが来たと市場は評価した。銀行は国債を売り、得た金で株を買ったようである。実質的なPKOである。政権と銀行が繋がっている。
しかし、FRBは3月に政策金利を0.25%上げるので1.75%になり、長短金利をフラット化するようである。しかし、年4回の利上げではなく、3回と当初予想通りと思われている。
トランプ大統領は、11月の中間選挙に勝つために、そこまでは景気(米国では株価)を持たせる必要があり、それをパウエル議長は忖度したのである。このため、11月までは米ダウ平均は高値維持か上がり続ける可能性が高い。
米政権の政策
減税とインフラ投資、米軍装備の拡充などで企業の利益は増すことが確実であり、株価は高値維持か上昇する。そして、長期金利は3%以下に固定するのであるから適温相場を保持することになる。その上に、ドル安政策をトランプ政権は行うようである。
しかし、その後は株価の大調整になる。財政赤字で国債発行量が多いが、中国は買わないので、金利を下げるためにFRBが買うことになる。
もう1つ、ドル安にするという。日本企業の海外利益を年度末の配当などが必要で日本に戻すための円買いはあるため、円高になりやすいが、その上に米国機関などがユーロ・円買いドル売りをするが、買った円をどうするのであろうか?
私は日本株に再投入するしかないと思っている。ゼロ金利の日本国債を買うことはないはずで、日本株買いである。
しかし、米国は日本とは違い人口が増加しているので、物価上昇が比較的容易に起こり、そのため賃金UPで物価3%以上に上昇したら、3%以上に短長期金利も上げざるを得ないことになる。
長期金利を下げることは、米国債をFRBが買い入れることでできるが、実体経済での物価上昇はFRBには止めることができない。また、長期金利を押し下げるために、米国債買いをFRBが行うということは量的緩和であるが、短期の政策金利は上げるというアクロバット的な金融政策になることを意味する。
無理な金融政策は、その反動も大きいことを覚悟する必要がある。今年後半は米株大暴落が確実になっているとみる。それまでは株価は高値維持か上がることにはなるが、上がった時期に株式投資家はなるべく早く手仕舞ったほうがよいと思うがどうであろうか? 「頭と尻尾はくれてやれ」の意識が必要である。
中国経済
海外投資を膨らませている海航集団、安邦保険集団、大連万達集団、復星集団の資金調達が厳しくなり、海外資産の投げ売りが始まっている。
ドイツ銀行株を持つ海航集団は、大量のドイツ銀株を売りドイツ銀の株価は15ドルになった。大連万達集団は、ホテルとテーマパークの大半を売却すると発表した。安邦保険集団は、保険未払いの可能性があり、政府の管理下に置かれたなど、中国経済の変調をうかがわせる事態が出てきている。
金融危機のサインであるミンスキー・ポイントであると解任時の記者会見で述べていた周小川中国人民銀行前総裁の言葉の通りの事態になってきた。このため、金融引き締めを政府も行い始めていることによるが、金融引き締めを行うと確実に景気は悪くなる。
投資経済の中国では、インフラ投資がなくなり、その上に民間投資も減退することで、景気後退の可能性が出てきているように感じる。今年度中には景気後退が表面化する可能性がある。
米株価は、無理な高値維持策で持たせる方向であるが、中国経済は確実に減速するようである。日本企業の業績を左右することになる。
中東情勢
シリアとトルコ、それにクルド人勢力が北シリア地域支配の勢力争いをしている。イスラエルもシリア空爆を行い、その紛争に加わっている印象を受ける。
米国はクルド人勢力とイスラエルに肩入れしているが、クルド人はアフリン攻防戦で侵略してきたトルコ軍に対抗するために、シリア政府に支援を求めた。シリア軍は援軍を差し向け、トルコ軍との戦闘になっている。
米国はトルコに対して、米軍がいるマンビシを攻撃するなと要求しているが、アフリン攻略は認めている。クルド人勢力は、トルコの勢力範囲外で海への出口が欲しくて、アフリンなどの西寄りの北シリア地域を占領している。それに対して、クルド人勢力の海への出口を与えたくないトルコが、そのシリア西地域の奪還を目指してトルコ系民族の保護を名目に侵略してきた。
トルコ軍とシリア軍の戦いを中止したいロシアは、仲裁会議を開いて、トルコ、シリア、クルド人勢力の仲介を買って出ている。米国は仲裁会議にも出席せずに、この地域での覇権はないに等しい状態である。
しかし、その仲裁がうまくいっていない。IS打倒のために米軍も多数、その地域に駐留しているので米国も関与しているが、関与レベルが大きくない。トルコとクルド人の対立関係を無視したことへの代償である。
イスラエルは別個にレバノンのヒズボラを叩くために、シリア内戦に参戦しているヒズボラに対して空爆をしているし、サウジが裏にいるスンニ派シリア反政府軍を支援している。
このように完全に敵味方がわかりにくい状況になっていて、米国は自国軍をどのように撤退させるのかを問われている状態である。
米国は、クルド人勢力を支援してISを倒したが、もう1つの味方で米空軍基地のあるトルコとクルド人勢力の紛争に明確な方針が立たないようである。
スンニ派の盟主サウジとは関係なく、トルコ・エルドアン大統領の独自の動きであり、シリアの裏にはイランやヒズボラがいる構図である。トルコはイランやロシアとの経済関係でもよい。トルコはクルド人独立が問題であり、スンニ派対シーア派という戦いとは大きく違う。
クルド人はトルコを敵としているが宗教はスンニ派であるし、シーア派のシリアやイランとは敵対関係ではない。シリア内での自治権を要求しているだけである。シリアのラタキアがクルド人が望む海の出口であり、その面からもシリアとは友好関係を保つ必要がある。
そのラタキアにはロシア空軍がいるので、クルド人はロシアにも敵対していない。
しかし、この民族紛争が絡む中東戦争が起きると、米軍の引き上げが必要になり、クルド人勢力に味方しながらトルコと戦うことになり、中東政策の混迷が深くなる。米国はイスラエルの首都をエルサレムと認めたことで、中東の多くの国との真剣な対話ができず、代償を払うことになりそうである。
マクマスター大統領補佐官は、エルサレム首都容認に反対したが、補佐官を辞任して米軍の撤退戦の指揮を執るようである。難しい戦争になりそうだ。明確な敵対関係がなく、その中で戦うということになる。
もし、中東で戦争になると、米軍の引き上げで先に中東に海兵隊や空母を送り、北朝鮮との戦争は当分棚上げの状態にする必要がある。
この中東情勢を正確に記述しているのが、黙示録であることも気になるポイントである。イスラム教の黙示録ではマンビシが焦点となっている。
さあ、どうなりますか?