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国会も紛糾。あなたは「裁量労働制」について正しく理解してますか

与野党の意見が対立している「裁量労働制」問題ですが、安倍総理を「知識が無さすぎる!」と批判する前に、自身でもどこまで正しく理解できているかを確認してみてはいかがでしょうか。今回の無料メルマガ『新米社労士ドタバタ日記 奮闘編』では、裁量労働制について初心者にもわかりやすく解説しています。

国会における裁量労働制

いま、ニュースを賑わしている、働き方改革案、国会での裁量労働制。裁量労働制の労働時間に関する不適切なデータ処理をめぐり、連日、激しい論戦が続いている。

安倍首相は1月29日の衆院予算委員会で「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般労働者よりも短いというデータもある」と答弁していたが、このデータがまったくのデタラメだった。


新米 「最近、働き方改革のことで国会が騒がしいですね」

大塚 「あぁ、裁量労働制のこと?」

深田GL 「国会での裁量労働制の件、一体どうなってるんだろうね。全くハチャメチャなやりとりだよね」

新米 「データの比較がおかしいって、どのデータを比較していたんでしたっけ?」

E子 「『1ヵ月で最も長く働いた日の残業時間(一般労働者)』と『1日の労働時間(裁量制の労働者)』という全く違う質問のデータを比較して、『労働時間は一般労働者よりも短い』と言っていたんでしょ」

深田GL 「裁量労働制をめぐる残業時間のデータについては、不備が続々と見つかっているよなぁ」

新米 「そんなにいっぱいなんですか?」

大塚 「『1日の残業時間』が『45時間』と書かれていたのもありましたよね」

E子 「あぁ、テレビでやってたわね。あれはひどいわ」

新米 「1日は24時間しかないのに、あり得ない数字ですよね」

大塚 「きっと1ヵ月の時間外労働の上限を書いてたんでしょうね」

E子 「そうよね。質問を理解して答えないと、答えもおかしなものになるわね」

深田GL 「違うデータが使われている場合もあるけど、答えそのものが間違っているというケースもあるかもね」

新米 「それも含めて、検証してから数字を扱わないといけないってなると、事前チェックも大変ですね」

深田GL 「安倍首相は、データの撤回というより、答弁を撤回したってことらしいけど、データも正しいものに差し替えてもらわないとね

E子 「そもそも『1ヵ月で最も長く働いた日の残業時間(一般労働者)』と『1日の労働時間(裁量制の労働者)』を比較したって仕方ないわよね」

新米 「比較しても仕方ないデータを比較して、『裁量労働制の労働時間は一般労働者よりも短い』と言ってたってことなんですよね」

大塚 「そういうことって、普通はあり得ないですよね」

深田GL 「早く帰っても8時間働いたとみなすことは裁量労働制でなくてもできるけど、8時間より多く働いたのに8時間とみなすことは裁量労働制でしかできないよな」

大塚 「裁量労働って、実労働時間の記録をまともにしていないケースもあるから、しっかりした統計ってとれるのかしらね」

新米 「そういえば、ついこの間、顧問先さんに裁量労働についての自主点検表が届いてましたが、あれって、今回の統計とは全く関係ないんですか?」

深田GL 「あぁ、タイミングよく届いたけど、あれは違うんだ」

新米 「なんだ、関係ないんですねー」

深田GL 「全く関係ないって言ったら嘘になるけど、あれは、『労基法第38条の3に基づく専門業務型裁量労働制についての自主的な確認』をお願いするものなんだ。昨年、NHKなどで裁量労働制について誤った見解が放映されたことから確認依頼も兼ねているそうだよ。ところで、時間外労働については、まだまだ理解があいまいな人って周りに多いよね」

E子 「ん、確かに…。たとえば、こんなやりとりしたことない?」

<まず1例目>

A 「管理監督者って、休日出勤に対して振替休日はなくていいんですよね?」

E子 「そうですね。労基法41条に該当する管理職の方は、労働時間の概念がないですからね」

A 「管理職は裁量労働ってことですもんね」

E子 「え? いえいえ、裁量労働とは別物ですよ」

<2例目>

B 「定額時間外手当ってみなし労働ってことでしょ?」

E子 「みなし労働と定額時間外手当とは、全く別物ですよ。みなし労働と呼べるのは、裁量労働と事業場外労働です。みなし労働っていうのは、決まった時間、〇時間働いたとみなす』ということで、定額時間外手当制度は、予め決めた時間外労働時間分の時間外勤務手当を支給するだけのことで、その手当分以上の時間外勤務をした場合は差額賃金を支給しなければなりません。裁量労働制の場合は、差額賃金は発生しません」

そもそも裁量労働制とは

今回政府が改正法案の一つとして成立を目指している裁量労働制とは、実労働時間ではなく「みなし労働時間で時間管理をする制度です。裁量労働制では、8時間、あるいは9時間といった「みなし」の労働時間に対し、賃金が決められます。本来であれば、8時間を超える労働には、割増賃金(時間外労働手当)の支払いが必要です。残業させる場合には、割増賃金の支払いが必要であること、また三六協定を締結しその範囲内での残業しか認めないことが、長時間労働を抑制しています。

しかし裁量労働制では、実際には9時間働こうが10時間働こうが最初に決められたみなし労働時間に対する賃金だけ払えばよいものです。例えば「みなし労働時間」が8時間と定められていれば、実際には11時間労働していても、8時間分の賃金の支払いのみで済ませることが可能です。事業主にとってはお得で労働者にとっては危険な制度です。そこで、対象を厳格に絞り、かつ手続きを必要とすることで、拡大を抑制してきました。今回の法案は、その対象を広げようとするものです。

ところが、一方では、事業主がとんでもない目に合うこともあります。裁量労働=いつ出勤してもいつ退勤してもかまわないということを悪用して、遅刻、早退のしまくり、極端に言うと、8時間のみなし労働に対して、毎日1時間しか働かないといったこともあり得るのです。こういうことが増えて、裁量労働制を止めた会社もあります。

裁量労働制は、2種類にわかれています。専門業務型と企画業務型です。専門業務型はSEや記者などが対象です。今回枠を広げようとしているのは企画業務型です。現在、企画業務型の裁量労働制は、企業の中枢部門で働いている人に限定し、企画立案などの業務を自律的に行う人にその適用を認めています。今回の改正では、その範囲を法人提案型営業などについても拡大しようとするものです。単なる商品の販売は対象外となっています。しかし、「単なる商品の販売」と「非常に高度なコンサルティング営業」の間には、大変幅の広い営業活動が含まれます。幅広い営業職のうち、どこまで対象範囲となるのかどの程度の労働者が対象となりうるのか政府は具体的に示していません。さらに今回、法人提案型営業に対して裁量労働制が適用可能となると、今度はなぜ個人への提案型営業ではだめなのか、という議論になるでしょう。相手が法人だから高度で、個人だから高度ではないといった区分けは困難です。法改正がいったん行われれば、裁量労働制がどんどん拡大してしまう恐れがあります。

*「専門業務型裁量労働制」とは (東京労働局)

専門業務型裁量労働制とは、労働基準法第38条の3に基づく制度であり、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として、法令等により定められた19業務の中から、対象となる業務を労使協定で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使協定であらかじめ定めた時間を労働したものとみなす制度です。専門業務型裁量労働制を導入するためには、導入する事業場ごとに、次の事項について、書面による労使協定において定めることが必要です。

また、労使協定は、労働基準法施行規則様式第13号(専門業務型裁量労働制に関する協定届)により、その事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に届け出ることが必要であり、労使協定については労働者に周知させなければなりません。

image by: 首相官邸

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【著者】 イケダ労務管理事務所 【発行周期】 週刊

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