前回掲載の「習近平、事実上の「皇帝」に。憲法改正で国家主席の任期撤廃」で、習近平氏が任期撤廃案を実現化させ、事実上の「終身国家主席」になる可能性が出てきたと伝えた国際関係アナリストの北野幸伯さん。この読みについて読者の方から届いた「大げさすぎないか?」との意見に対して、北野さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の中で論拠を示しています。
習近平は、なぜ独裁化を止めることができないのか?
前号「習近平、事実上の『皇帝』に。憲法改正で国家主席の任期撤廃」では、こんな記事を紹介しました。
中国主席、任期撤廃案…習氏の長期政権に道
読売新聞 2/25(日)18:44配信
【北京=竹内誠一郎】中国国営新華社通信は25日、中国共産党中央委員会が、「2期10年」と憲法が定める国家主席と国家副主席の任期について、この規定を削除する憲法改正案を、3月5日開幕の全国人民代表大会(全人代=国会)に提案すると伝えた。
これで、習近平は法的に「何期でも国家主席でいることが可能になる」「終身国家主席も可能になる」という話でした。
前号について、いろいろ質問が届きました。その一つが「終身国家主席を目指す」というのは、「大げさすぎないか?」というもの。
もちろん、習近平が何を考えているのか私たちにはわかりません。実際どうなるのかも、正確に知ることはできません。しかし、私は「習は終身国家主席を目指すことになるだろう」と考えています。その根拠を書きます。
もともと「巨大な権力欲」をもっていた習近平
近藤大介先生の名著『パックスチャイナ 中華帝国の野望』に面白い記述があります。習近平には、尊敬する人が3人いるというのです。一人は、習仲勲さん(元副首相)。習近平のお父さんです。父親を尊敬しているのは、立派です。
二人目は、毛沢東。習近平の毛沢東崇拝は、尋常ではないそうです。中華人民共和国建国の父・毛沢東。神格化を進めた独裁者として知られています。文化大革命や大躍進政策などの大失敗でも知られている。大躍進政策の失敗で、2,000~5,000万人餓死したとか。一方で、アメリカと和解し、中国発展の基と築いたともいえます。習近平は、「神格化を進めた絶対権力者」毛沢東を異常に尊敬している。このことは、私たちを不安にさせます。
三人目は、プーチン。プーチンは、2000年に大統領になり、今年で18年目(08~11年は首相)。今月の選挙で勝利し、また6年大統領でいることでしょう。習近平は、プーチンを(独裁者の)「師」として尊敬しているそうです。彼が国家主席になって初めてプーチンと会った。そのとき、プーチンは、気前よく習に「絶対権力者になる方法」を伝授した。その方法とは、「エネルギー部門を掌握せよ!」でした。実際プーチンは、石油最大手ロスネフチとガス最大手ガスプロムを支配しています。プーチンは習に言いました。「私がエネルギー産業を掌握している限り、ロシア政界に波風は立たない」(『パックスチャイナ 中華帝国の野望』p56)。
というわけで、習は、毛沢東を目指し、プーチンを先生として、最初から「絶対権力者」になることを目指してきた。今起こっていること、彼の中では「予定通り」なのです。
ニーチェは、「人間の本質は、権力(あるいは力)への意志だ」と言いました。そうなのかな? と思います。確かに、「できれば東大」「できれば大企業」「できれば社長」という人はたくさんいるでしょう。一方で、「いや、競争しないほうが気楽でいいです」という人もいますね。要は、「人それぞれ」だと思うのですが。
しかし、習近平は、どう見ても「巨大な権力欲」をもともと持っている人なのでしょう。
独裁者は、親戚、友人、部下を富ませるが…
「もともと権力欲を持っている」
これは、内面の問題です。しかし、一度「独裁化プロジェクト」を始めてしまうと、ある段階で止められなくなります。
独裁者は何をするか? 政治と共に、経済基盤を支配しなければならない。一人で全部は支配できないので、「信用できる人」に支配させることになります。「信用できる人」とは? 一番信用できるのは、「親戚」でしょう。次に信用できるのは、「昔からの友人」でしょう。次の次に信用できるのは、長年習と一緒に働いてきた人でしょう。そして独裁者は、国家の経済基盤を、「親戚」「友人」「部下」に握らせます。それで、習と親戚、友人、部下は、経済的に大いに栄えることになるでしょう。
その状態が5~10年と続く。そして習が失脚した。あるいは、良心が目覚めて、「3期でやめることにする」となった。新しい国家主席が誕生する。新しい国家主席は、習の親戚、友人、部下から、その経済基盤を容赦なく奪うでしょう。結果、習の親戚、友人、部下たちは、貧しくなる。そればかりでなく、逮捕されるかもしれない。結局、習、親戚、友人、部下は、「死ぬまで国家主席でいて!」と願うことになります。
独裁者は、「殺されること」を恐れる
中国は、今でも「独裁国家」です。しかし、「共産党の一党独裁国家」です。習近平は、これを「私一人の独裁国家」に変えようとしている。そのために何をする必要があるのでしょうか?
「ライバルを潰す」こと。
スターリンは、トロツキー、カーメノフ、ジノヴィエフなど革命の功労者たちを追放、弾圧、殺害することで権力を掌握しました。その後も、キーロフ、トハチェフスキー、ジューコフなど、国民から支持を得た人物を巧みに排除してきた。
習近平も、
- 徐才厚(元軍事委員会副主席)
- 周永康(元政治局常務委員)
- 令計画(元全国政治協商会議副主席、党中央統一戦線工作部長)
- 郭伯雄(元軍事委員会副主席)
- 薄煕来(重慶市党委員会書記)
- 周本順(河北省党委員会書記)
- 蘇樹林(福建省長)
など、「トラ」「大トラ」を次々と退治してきました。これまで約10万人の党幹部が「失職」「拘留」「逮捕」された。そればかりでなく、家族が住む場所を失ったり、息子、娘まで失職している。このことで、習近平に恨みを持つ人が増殖することになります。もし習が権力を失えば、恨みを持つ人が、彼に復讐するでしょう。
独裁者の末路は、大きく二つにわかれます。
- 死ぬまで権力を維持する(例、金日成、金正日、毛沢東、スターリンなど)
- 殺される(例、チャウシェスク、フセイン、カダフィなど)
「復讐されない唯一の方法」は、「自分が死ぬまで権力を持ち続けること」。というわけで、「権力を失ったら捕まる」あるいは「殺される」という理由で、習近平は、「止まれない道」を歩み出したのです。
「独裁者・毛沢東を崇拝するリーダー」がいる隣国。その隣国は、「日本には沖縄の領有権はない!」としています。わが国は、どうすればいいのでしょうか?