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【書評】スパコン社長逮捕は国際的陰謀?本人の著書を読んでみた

最近よく耳にするようになった「シンギュラリティ」という言葉。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんが紹介しているのは、その前に訪れる「プレ・シンギュラリティ」について書かれた一冊です。そこには「不労」と「不老」が同時に手に入ると記されているのですが…、その時、我々は「幸福」なのでしょうか。


プレ・シンギュラリティ 人工知能とスパコンによる社会的特異点が迫る
齋藤元章・著 PHP研究所

齋藤元章『プレ・シンギュラリティ 人工知能とスパコンによる社会的特異点が迫る』を読んだ。筆者は詐欺罪と法人税法違反で東京地検に起訴されている。筆者の開発したスーパーコンピュータは2016年6月期まで世界ランキングGreen500で史上初の3連覇を達成した。2018年にはエクサスケールのコンピュータが稼働する予定だったが、それも夢と消えるのか。

この本は、著者が2014年末に出版した600ページに及ぶ大冊『エクサスケールの衝撃』の内容を約半分に凝縮した抜粋版である。当初、この大冊はありえない夢物語やトンデモ本として捉えられていた。しかし2年後の2016年末、この本に示された衝撃が、本当に訪れる可能性が出てきた、と力説するのだけど。

2005年にレイ・カーツワイルが『特異点は近い 人類が生命を超越するとき』で、シンギュラリティ(特異点):コンピュータ自身の知性か、それが作り出す新しい人工的知性が人類全体の知性の総和を大きく超越する世界、という概念を示した。その前にプレ・シンギュラリティが到来するというのが本書である。

プレ・シンギュラリティを我々人類がきちんと消化し、次世代に向けて昇華させた後に、本当のシンギュラリティを安全なかたちで迎えられる、という。我々人類は最初の衝撃であるプレ・シンギュラリティにしっかり備え、適切に対峙し、遅滞なく対処しなくてはならない。それは間違いなく急務であり、人類最優先課題である。許された時間はわずか5年か10年ほどしかない、という。

エクサスケール・コンピューティングによってもたらされるプレ・シンギュラリティの変革は、まずエネルギー問題の解決から始まる、と著者は断言する。そして安全性が十分に担保された遺伝子編集技術と、高度に進化した生産・栽培・養殖・収穫技術によって食糧問題の解決と自然環境の保全、そして極めて重要な生物多様性の維持にも大きく貢献することになる、という。

「衣・食・住に関する問題はそのすべてが解決され、生活必需品のすべては事実上無料で『フリー』と呼び得る状態での入手が可能となるのだ」「人類は生活のために働く必要性から、有史以来、初めて完全に解放される日を迎える」「プレ・シンギュラリティの変革において、我々は二つの“ふろう”、すなわち「不労不老」を、なんとほぼ同時に手にすることになる」、という。

「簡単にまとめれば、ある時点で次々と起こるその変革の連鎖は、同時多発的に生じるようになり、やがて沸点とも呼べる相変換点に到達し、我々がこれまでの現世人類の25万年史と呼んできたものとは完全に異なる種類の時代と世界をつくりだす、ということになる」とはすごい話になってきた。ついて行けぬ。

2020年から2030年にかけて、膨大な研究開発の成果が生み出されるという。各種の発電効率の大幅な改善、様々な新しいエネルギー創出方法の確立、食料・衣料・住居が無料化、お金自体を不要とする社会、公平・公正・平等で安全な社会、老化を制御して不老の実現……むしろ、ディストピアだと思うがなあ。

唯一納得できたのは終章。何のしがらみもなく、新しい世界を創出するための要件を備えた唯一の国、それが日本だ。最後に太文字で「我々日本人こそが次世代スーパーコンピュータを開発し、新世界を創出しなくてはいけない」。そういうご本人が不名誉な事態に陥っている。もしかしたら国際的陰謀?

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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