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イオンも瀕死。ドラッグストアに客を奪われ没落する大手スーパー

以前掲載の記事「なぜドラッグストアの食品は安いのか? コスモス薬品の型破り戦略」等でもお伝えしたとおり、食品販売に注力するドラッグストアが売り上げを伸ばし続けています。フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんによると、その勢いはスーパーマーケットの市場規模に迫るほど、とのこと。ドラッグストアがスーパーの年商を上回る日は来るのでしょうか。長浜さんがさまざまなデータを分析しつつ考察します。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

ドラッグストアの食品スーパー化が、イオンの衰退を招くか!?

ドラッグストアの食品スーパー化が加速している。食品販売の拡大によってスーパーマーケット、特にイオンを始めとする総合スーパーGMSの売上減に多大な影響を与えている。

日本チェーンドラッグストア協会によれば、昨年6月1日現在のおよその市場規模は6.5兆円前年比5.6%増)、店舗数は1.9万店(前年比2.1%増)に達しており、「2025年に10兆円産業を目指し、その実現に向けて業界をあげて取り組んでおります」(日本チェーンドラッグストア協会・青木桂生会長、年頭所感)と鼻息も荒い。

ドラッグストアは2007年の市場規模約5兆円から、十年間で1.5倍ほども拡大している。10兆円ともなると、およそ13兆円でもう十年間停滞しているスーパーマーケットの市場規模に迫ってくる。スーパーは、2007年の約14兆円から漸減傾向なのに比して、右肩上がりのドラッグストアが中長期的にはその売上を抜くと考えられる。

日本はバブル崩壊以降長らくデフレに悩んでおり、スーパーの売上にはもろにその影響が及んでいるが、ドラッグストアは健康・美容への消費者の関心の高まり、高齢化社会への対応が成功して、成長軌道に乗っている。2017年の日本のGDP成長率が、デフレ脱却途上の前年比1.4%(名目)であることを考えると、いかにドラッグストアの成長率が高いかがわかるだろう。

もがき苦しむスーパー各社の現状

大型の総合スーパー(GMS)を、郊外を中心に展開するスーパーマーケット業界の雄、イオングループのイオンリテールは、このようなドラッグストアの攻勢に押されて15年2月期には営業損失16億4,600万円と赤字に転落。16年~17年には黒字へと転換したが、今期は再び赤字に陥っており、18年2月期第3四半期決算では215億9,700万円の営業損失で推移している。

イオンモール日の出(東京都西多摩郡日の出町)

昨年12月、今年1月の全店売上高がプラスになっているので、通期では巻き返して利益が出る可能性もあるが、これだけ全国にイオンモールを建設して巨大な売場面積を持ちながらも、もがき苦しんでいることは確かである。

スーパーマーケット業界2位のイトーヨーカ堂の18年2月期第3四半期決算も、営業収益が前年同期より3.1%減営業利益も8.7%減と、厳しい状況にある。同3位のユニーに至っては、昨年11月にドンキホーテホールディングスに株式の40%を譲渡して業務提携を行っており、GMSの再生を諦めて「ドンキホーテ」の集客力に頼るべく戦略を転換している。

イオンをはじめとするGMSを脅かす存在として、コンビニ、食品スーパーが、地域に密着してきめ細かいニーズに対応し、顧客を奪ってきたが、新たにドラッグストアが参入してきた構図である。

最近、新しく増えているドラッグストアの傾向は、郊外、過疎地のロードサイド、生活道路沿いに大きな駐車場を有して、薬品、衛生雑貨、化粧品ばかりでなく食品を販売している。しかも、食品の売場面積が年々増える傾向があり、食品の売上比率が5割を超えるチェーンすらある。

青果、肉、魚といった生鮮はほとんど売っていないが、加工食品が全般に安い。スーパーに行かなくても米、パンから豆腐、ジュース、冷凍食品、乾物、調味料などひと通り揃い、缶ビール、缶チューハイのような酒類まで販売している。

マツモトキヨシ凋落の原因

このような新しい食品強化型店舗が伸びた結果、昨年にはドラッグストア業界各社の売上規模(連結ベース)で、22年ぶりに首位が入れ替わった

新しく首位に立ったのは、「ウエルシア薬局」をメインブランドとするウエルシアホールディングス。17年2月期には売上高6,231億6,300万円、前年比17.9%増の大幅増となっている。店舗数は1,535店。ウエルシアの品目別売上高を見ると、食品の売上構成比は全体の21.2%で、医薬品・衛生介護品・ベビー用品・健康食品の22.2%に迫っている。医薬品だけなら食品のほうが確実に上回っている状況だ。

2位には、「ツルハ」をメインブランドとするツルハホールディングスが入った。17年5月期の売上高は5,770億8,800万円、前年比9.4%増とこちらの伸び率も2桁に迫る勢いである。店舗数ではウエルシアを上回る最大規模で、1,755店まで伸ばしてきた。

ツルハも食品強化の方針を打ち出している。直近の品目別の売上は明らかにされていないが、カップ麺、調味料、レトルト食品、缶詰などの保存性の高い加工食品ばかりでなく、乳製品、デザート、総菜などのチルド日配品が充実してきている。

マツモトキヨシ(訪日外国人インバウンド観光マーケティングより)

3位は「マツモトキヨシ」で著名なマツモトキヨシホールディングスが入り、1位から一気に転落してしまった。17年3月期の売上高5,351億3,300万円、前年比0.2%減。店舗数は1,555店となっている。店舗数も2位で、業界トップ企業とは言えなくなっている。

マツモトキヨシの小売事業の品目別売上構成比率では、化粧品が突出しており38.6%を占める。医薬品の32.2%よりも多く売っており、実態は半ば化粧品店である。そして食品は10.3%に留まっており、この食品の弱さが波に乗れなかった要因と目される。

マツモトキヨシの場合は、繁華街の駅前、駅ビルへの出店が多く、近年は主に中国人をターゲットとしたインバウンドで業績を伸ばしてきた。今期は中国への越境ECや新たな働く女性向けの新業態「BeautyU」の展開などで、盛り返してはいるが、美容に特化した独自路線が吉と出るか、凶と出るかは3年後、5年後を見てみないと判断しにくい。

4位は僅差で「サンドラッグファーマシーズ」をメインブランドとするサンドラッグ。17年3月期の売上高は5,283億9,400万円、前年比4.9%増。店舗数は1,070店となっている。

サンドラッグは2009年に、九州を基盤とするディスカウントストアのダイレックスを買収している。ダイレックスは敷地面積1,000坪、売場面積300~500坪という広大な郊外店にこだわっており、約1万6,000品目を扱い、一部の店を除き夜10時まで開いているので、共働きの夫婦でも利用しやすい。ディスカウントストアなので、もちろん食品の比率も高い。ダイレックスの売上は、2013年の約1,184億円から、17年には約1,799億円まで、4年間で1.5倍に急成長しておりサンドラッグの成長エンジンになっている。

5位には「ディスカウントドラッグコスモス」をメインブランドとするコスモス薬品がつけている。17年5月期の売上高は5,027億3,200万円、前年比12.4%と2桁増。店舗数は827店である。

コスモス薬品も九州を基盤とし「日本で初めて小商圏をターゲットとしたメガドラッグストアを多店舗展開するビジネスモデルを構築した」(同社HPより)としており、商圏人口1万人に対して、あえて売場面積2,000平方メートルまたは1,000平方メートルの大型店を構築。医薬品・化粧品のみならず日用雑貨生鮮三品以外の食品等の消耗品を揃えて、その地域の住民にとって最も便利な店づくりを目指している。

このままの勢いだと、サンドラッグとコスモス薬品が、年商でマツモトキヨシを抜くのは時間の問題だろう。

ドラッグストアの「さらなる奥の手」

上位5社のうち、マツモトキヨシを除く4社は皆、同じようなビジネスモデルを擁している。郊外型の大規模店を主力に出して小商圏のデイリーニーズを独り占めにしにいくタイプの店である。

イオンモールは全国に145ほどあるが、車で1時間、2時間移動しなければ行けない人も多い。休日には賑わっても、平日はガラガラなケースがほとんどだ。食品のようにデイリーに必要なものは、わざわざ道路やレジの渋滞に巻き込まれる大変な思いをして、週に一度イオンモールで買いだめしなくても、家のすぐ傍の店で十分に間に合うだろう。

今までコンビニと地域の食品スーパーが、日常のニーズを埋めてきたが、そこにドラッグストアが加わり消費者としては選択肢が広がった。イオンモールの中にある巨大なスーパーに敢えて足を運ぶ必要性が、薄れてきたということなのである。

以下、10位まで駆け足で見ると、6位「スギ薬局」のスギホールディングス、4,307億9,500万円、3.8%増、1,048店。7位、「ココカラファイン」、「セイジョー」、「セガミ薬局」などのココカラファイン、3,772億300万円、1.1%増、1,304店。8位、「カワチ」のカワチ薬品、2,664億2300万円、2.2%増、311店。9位、「ドラッグストア クリエイト」のクリエイトSDホールディングス、2,473億4,100万円、6.7%増、541店。10位「クスリのアオキ」主力、クスリのアオキホールディングス、1,887億4,400万円、16.8%増、386店、と続いている模様だ。

カワチ薬品、クリエイト、クスリのアオキのように店舗数が少なくて売上高が上位にあるチェーンは、郊外型の小商圏独占タイプの店が主力である。

こうしてドラッグストア業界のトップ10を並べてみると、上位10社中で9社が増収。しかもウエルシア、コスモス薬品、クスリのアオキの3社が2桁増である。

ちなみにドラッグストアの6.5兆円の市場規模は、百貨店と既に同規模だ。また、コンビニの市場規模は11兆円ほどであり、前年比4.1%増の伸び率となっている。従って将来的にはドラッグストアは、コンビニと小売の覇権を争うほどのポテンシャルを秘めていると、言えるのではないだろうか。

食品強化は、マツモトキヨシを除くほぼ業界の全社が目指す方向性と言っても過言ではなく、都市の駅前の「セイジョー」、「セガミ」など小型店が多く食品の売上構成比が10.8%に過ぎないココカラファインでも、戦略的に食品を拡大している。

ココカラファイン17年3月期では、品目別の粗利益率は医薬品39.0%、健康食品34.6%、衛生品27.9%、化粧品27.4%、日用雑貨19.9%、食品11.7%で、これだけ見ると食品を強化する妙味はないように思える。しかし、食品は客数増に貢献している。この食品の粗利益率の低さをどうカバーするかが、経営の腕の見せ所で、サンドラッグのようにプライベートブランドの拡張で流通の中抜きをして、利益を上げようとする試みがある。

さらなる奥の手は、調剤薬局を併設することだ。これを最も進めているのはウエルシアで、調剤併設店は1,025店(前年から131店増)、調剤併設率は66.9%(前年比6.0%増)に及ぶ。調剤売上高は約975億円(前年比27.5%増)で、調剤薬局チェーンのランキングでも6位に入ろうかという勢いだ。将来的には首位に立つ可能性すらある。

消費者にしてみれば、調剤薬局で薬を調合してもらっている間に、食品などの買物ができるメリットがある。高齢者にしてみれば、流行に敏感なファッション衣料や雑貨の専門店を山ほど揃えたイオンモールよりも、非常にありがたい店になっているのだ。

ウエルシアではコンビニのように公共料金の支払いもでき、スーパーによくあるアルカリイオン水の無料サービスもあるといったように、さまざまなサービスを取り入れている。

ドラッグストアに死角はあるのか

さて、このように成長率が高く死角がないように見える、ドラッグストア業界であるが、薬剤師の不足が深刻化してきている。

2012年に薬学部4年制から6年制への移行による初めての国家試験が行われたため、一時的な薬剤師不足が生じたが、28校もの大学に薬学部が新設され、いずれ薬剤師は過剰になると言われていた。しかし、ドラッグストア業界の成長もあって、実際は薬剤師の求人の張り紙があちらこちらの店舗に張ってあるのが現状だ。

ドラッグストア業界では初任給で月給25~30万円と言われ、ウエルシアでは月給約43万円(年棒制のため賞与分を含む)と、かなり厚遇で迎えているが、薬剤師が調剤以外の仕事をする機会も多く、それを快く思わない薬剤師もいる。調剤以外の仕事とは、かぜ薬、胃腸薬、傷薬など家庭用常備薬に関して顧客の相談に乗る、品出し、POP作成、店によっては食品や化粧品も含めたレジ打ちまでするケースもある。

市販薬の知識は、調剤では得られないので、薬剤師でも幅広く医薬品の知識を身につけたい人にとっては向いた職場だ。しかし、顧客対応が苦手な人には勤まらない。人手不足だからと、レジ打ちにまで駆り出すと、アルバイトのように扱ったと辞めてしまいかねない。

ドラッグストアでは夜の9時、10時と遅い時間まで調剤を営業している店が多く、長時間労働になりがち。年収が高くても遅い時間まで働かせると、嫌がられて離職される確率も高くなる。また、薬剤師には女性も多いので、産休・育休の考慮、子育てのために一旦仕事を辞めていた薬剤師の再雇用も必要となる。このように薬剤師の人材確保が課題となってくるだろう。

以上、論じてきたように、イオンを始めとするGMSの顧客を容赦なく奪っているドラッグストア業界であるが、実はその最大手ウエルシアはイオンの連結子会社である。2014年11月にイオンが株式公開買い付けを実施し50.1%の株を保有するようになった。

その意味では売上が移転しただけではあるが、セブン&アイ・ホールディングスの主力2社のうちのコンビニチェーン「セブン-イレブン」が、GMS「イトーヨーカ堂」を脅かしているのと似たような構図になってきた。

ウエルシアの店舗では「Tポイント」カードによる販売促進を行っている。イオンの「WAONカードの普及には寄与していない。また、ウエルシアの店舗に行っても、イオンのプライベートブランド「トップバリュの製品はほとんど見ない

セブン&アイの2社では、「nanaco」カードによる販売促進、プライベートブランド「セブンプレミアム」の品揃え強化で、足並みが揃っているのと大きな違いだ。

背景として、ウエルシアの場合、イオンが買収した会社というのがあるが、今後ウエルシアの勢いがさらに増すと、イオンモールのみならず「WAON」も「トップバリュ」も衰退していくリスクがある。そうなるとイオングループ全体の売上や利益率はウエルシアのおかげで高まるかもしれないが、イオンのブランド力自体はどんどん低していくのではないだろうか。

image by: Wikimedia Commons(Yumimi)

長浜淳之介

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

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兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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