男女関係のもつれが引き金になることが多かった、ストーカー事件。しかし、現在はSNSを媒介とした「新種のストーカー」が生み出されているそうです。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』編集長・柴田忠男さんが取り上げているのは、そんなストーカーたちを相手にカウンセリングをおこなっている著者が書いた興味深い1冊です。
『ストーカー 「普通の人」がなぜ豹変するのか』小早川明子・著 中央公論新社
小早川明子『ストーカー 「普通の人」がなぜ豹変するのか』を読んだ。著者はNPO法人ヒューマニティ理事長。ストーカー問題、DVなどハラスメント相談に対処しており、1999年に活動を始めて以来、ストーカー被害者および加害者、それぞれ500人以上と向き合い、カウンセリングを行ってきた。その具体例を多く示すが、想像以上に深刻な事態であった。
ストーカーは五つの類型がある。
- 拒絶型◇崩壊した関係の再構築を求め、叶わなければ復讐に向かう。圧倒的多数がこれ。
- 憎悪型◇自分が他者(組織を含む)から何らかの被害を受けたと感じて復讐としてのストーカー行為。被害者を恐怖に陥れ、支配感と征服感を得られるため、その行為をやめられなくなる。
- 親しくなりたい型◇勝手に恋愛感情を抱いた相手に、自分と特別な関係にあるはずだと思い込み、さらに親しくなろうとする。
- 相手にされない求愛型◇見知らぬ人か知人に、会いたい、性関係を持ちたいとつきまとう。
- 略奪型◇支配感と征服感を求め、男性から女性に対して行われる。
いずれも怖いなー。
ストーカーとは法的に「正当な理由なく故意に悪意を持って繰り返し相手をつけ回し、待ち伏せや監視などによって意思を伝達しようとすることで、相手に不安や恐怖を与える行為」とされる。これでは、五つの類型のうちの拒絶型と憎悪型だけが対象になるので、筆者は「ストーカー=特定の相手に対する過剰な関心と、過剰な接近欲求により、無許可接近をする人」と定義している。
この本ではマスメディアでも報じられた凶悪事件から、著者自身が関わった相談まで、ストーカーに関する多様な事例をとりあげる。多くは男女関係のもつれが原因だが、最近はSNSを媒介とした「新しいストーカー」が起こす事件も増加している。被害者にも加害者にもならないために、また当事者になってしまったら、問題が深刻になる前にどのような手を打てばいいか、具体的な対応策を述べる。
どんな立場にある人でも、いつ被害者から相談を受けるかも知れない。その場合、解決のゴールは何か、を決める。被害者の多くは、加害者の処罰を望む以上に自らの確たる安全を望んでいる。ストーカー対策のゴールは、加害者を無害な存在にすることだと著者は考える。加害者が今後ストーキングしないと自分で決めることができ、その決め事を守れるようになるということである。
ただし、加害者が自分一人だけの力でそこに到達するのは至難の業であろう。ストーカーから足抜けするための支援が必要である。ストーカーは犯罪性と疾患性の二つの側面を持つ。取り締まるだけではなく、臨床的なアプローチも必要だ。彼らには治療と管理が必要だが、相談できる機関や窓口がなかなか見つからない。
著者がストーカーの言い分を聞き、処理をサポートするときに決して手放さない、彼らに課す三つの鉄則がある。
- 相手は自分(ストーカー)を嫌う権利がある
- 自分の感情は自分で100%処理する
- 違法行為はしない
「愛や慈悲、友情の存在をストーカーに感じさせる、そんなカウンセラーでありたいと思います」という著者のところに、相談が持ちこまれる事例の半分は、女性が加害者だ。ストーカー、される側、する側、必読の本である。
編集長 柴田忠男
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