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エリート官僚・佐川氏が真面目に繰り広げた「証言拒否」の茶番劇

予想されていたものの、数十回もの証言拒否で森友学園を巡る改ざんの「真相」は何一つ明らかにならなかった、佐川前国税庁長官への証人喚問。これをもって与党は「首相夫妻の関与がなかったことが証明された」と幕引きを画策していますが、喜ぶのはまだ早いとするのは元全国紙社会部記者の新 恭(あらた・きょう)さん。新さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、森友問題について丁寧に振り返りつつ、昭恵夫人や迫田元理財局長の証人喚問がどうしても必要な理由を明らかにしています。

証言拒否による巨悪の隠ぺいでいまだ保身をはかる佐川氏

財務省理財局はなぜ森友学園への国有地売却をめぐる決裁文書を改ざんし、情報を隠ぺいし続けたのか。過去に例がないほど強力になった官邸の意向が理財局の判断を狂わせるもとになったのではないのか。

国民の疑惑が深まるなか、「佐川が」「佐川が」と麻生財務大臣に最終責任を押しつけられた前国税庁長官、佐川宣寿氏への証人喚問が3月27日、衆参両院でそれぞれおこなわれた。

だが、その結果は予想を裏切ることなく、真相解明にはほど遠い。佐川氏は官職を離れた今になっても、“官僚答弁”を続けた。大阪地検の捜査を受ける身という立場を、むしろ恰好の「盾」として、「刑事訴追の恐れがあるので答弁を差し控えます」の決まり文句で押し通した。

いつまでも“霞が関”の村人でありたいのだろう。一時的に追放された格好でも、やがて世の人々に忘れられたら、国の資本の入ったどこかの法人に潜り込むこともできよう。とにかく、しがみつく。それしか彼には生きる術がないと見える。

佐川氏が証人喚問で語ったのは、だいたい次のような中身だった。

決裁文書の書き換えで行政の信頼を揺るがせた。すべて理財局でやったことで、その局長であった自分に責任がある。総理、夫人、官房長官、副長官、秘書官など外部からの指示はなかった

自分が指示して改ざんしたとも、誰かに命じられたとも言わない。

交渉・面談記録は廃棄したと嘘をつき続けたことについては「財務省の文書管理規則」の取り扱いがそうなっているからで、「丁寧さを欠いていた」と釈明した。

あとは、ほとんど「証言拒否」である。

書き換え前の文書はいつ見たのか、など公文書改ざんにわずかでも関わりがありそうなこと、いや全く関係のないことでさえ、いたずらに「刑事訴追の恐れ」という理由で口をつぐんだ。

こんななか、浮かんできた疑念がある。佐川氏は、「刑事訴追の恐れ」があるからこそ、安倍政権にとって不利な証言をしたくないのではないだろうか。

法務大臣は安倍首相に重用されている上川陽子氏だ。本来ならこの機に名誉挽回をはかりたい大阪地検だが、佐川氏が安倍政権に忠誠を貫く限り、強制捜査について消極的になる恐れがないとはいえない。

佐川氏は退職後、政府関係者とは会っていないと言うが、電話やメールで連絡を取り合うことは可能である。今回の証人喚問で、トップバッターとして登場した自民党の丸川珠代氏が、あまりにもあからさまに、シナリオ通りのやりとりを佐川氏と繰り広げたのには、いささか驚いた。

決裁文書改ざんについて。

丸川 「安倍総理の指示はなかったですね?」
佐川 「ありませんでした」
丸川 「安倍総理夫人からの指示もありませんでしたね?」
佐川 「ございませんでした」
丸川 「官房長官、副長官、秘書官からの指示は?」
佐川 「ございませんでした」

森友学園への国有地払い下げに関係しているかどうかという話ではない。あくまで決裁文書改ざんについてのやりとりだが、全てにわたって関与がなかったかのようなイメージづくりを企図しているのは明白だ。

自民党はいまだ佐川氏を手のうちに入れている。佐川氏も、かねてより部下からの評判はすこぶる悪いが、スケープゴートのようにされて、財務省内に同情論がないわけでもない。自民党や財務省とのつながりさえキープしておけば浮かぶ瀬もあると高をくくっているようだ。

もちろん、そんなにうまくいくとは限らない。世間の冷たさを知らないまま歩んできた超エリートの限界だろうか。

佐川氏は2016年6月17日、理財局長になった。森友学園と国有地売買契約が結ばれたのは直後の同年6月20日だが、佐川氏はこの件について前任の迫田英典氏から引き継ぎを受けていなかったという。

迫田氏はこの件について、「報告を受けたことがない」と昨年3月の参院予算委員会で語った。しかし、国有地の売却結果は原則として公表しなければならないのに、これ一件のみが非公表だったのである。何らかの特別な理由があるから非公表なのであり、迫田氏が報告を受けていなかったというのも怪しい証言である。

財務省が1億3,400万円という売却額を開示したのは昨年2月10日だった。進んで自ら公表したのではない。その前日、豊中市の木村真市議の情報公開請求に呼応するかたちで朝日新聞が初めて森友疑惑を報じ、1億3,400万円という数字を明らかにしたため、隠し通せなくなったのだ。

非公表から公表に転じるという異例なケース。この時の理財局長はもちろん佐川氏だ。しかも、朝日新聞が森友疑惑をスクープした直後の決断に佐川局長が関わらず、部下に任せたまま放っておいたとしたら、職務怠慢である。

報道を受けて、佐川局長は土地売却に至る経緯の書かれた資料を本省の国有財産担当者に出させ、説明を受けただろう。決裁文書は当然、パソコンでも閲覧できるはずである。

今年3月15日の参院財政金融委員会で、太田充理財局長は森友決裁文書の改ざん前の原本が、本省の電子決裁システムに保存されていたことを明らかにしている。「本省には残っていない」というのは真っ赤なウソであった。

佐川氏は平成27(2015)年4月30日付の「特例承認の決裁文書」を読んで、どう感じただろうか。

平成26年(2014年)4月28日 (森友学園との)打ち合わせの際、「本年4月25日、安倍昭恵総理夫人を現地に案内し、夫人からは『いい土地ですから、前に進めてください。』とのお言葉をいただいた。」との発言あり。(籠池理事長と夫人が現地の前で並んで写っている写真を提示)

朝日の報道で、小学校の名誉校長に昭恵夫人が就くことも知れ渡った。国会で野党の集中砲火を浴びるのは避けられない。そのさい、この決裁文のままでは大問題になるのではないか。佐川氏に不安がよぎったであろう。

今回の証人喚問において、公明党の竹内譲議員は「(決裁文書を見て)部下に“責任を誰がとるんだ”と怒りを激しくぶつけたのではないか」と佐川氏に問いただしている。佐川氏はこれについても答えなかったが、「なぜこんなことまで書くんだと部下を怒鳴りつけた可能性はある。

朝日のスクープの後、佐川氏の日常は大きく変わった。理財局長はもともと国会答弁が多いポストではない。なのに、森友疑惑が発覚して以降4か月ほどで、62日も国会に呼ばれた。

予算委員会はもちろん、財政金融委員会、決算委員会、国土交通委員会…と、国会開会日は毎日といっていいほどだ。

疑惑発覚後初めて佐川氏が国会で答弁した場は17年2月15日の衆院財務金融委員会だった。

宮本岳志議員(共産党)の「国は土壌汚染の除去費用として1億3,176万円を支払い済みで、その上さらに埋蔵物の撤去費用として8億1,900万円を控除したとすれば、土地をタダで手放したということにならないか」という問いに対し、こう答えた。

佐川氏 「不動産鑑定評価に基づいて時価で売却している。更地の価格からさまざまな撤去費用を控除したものが時価であり、御指摘は当たらない」

佐川氏はこの理屈で押し通すつもりだった。前日までの官邸とのすり合わせでも、OKが出ている。

ところがこの後、福島伸享議員とのやりとりで、安倍首相のあの発言が飛び出した。佐川氏の脳裏に昭恵夫人についての記述がある決裁文書の内容が浮かんだのではないだろうか。

福島議員 「森友学園が安倍晋三記念小学校の寄付名目でお金を集めているということを総理は御存じでしたでしょうか」

 

安倍首相 「私が総理をやめたときに、うちの妻が知っておりまして、私の考え方に非常に共鳴している方で、その方から小学校をつくりたいので安倍晋三小学校にしたいという話がございましたが、私はそこでお断りをしているんですね。…いずれにいたしましても、繰り返して申し上げますが、私も妻も一切、この認可にもあるいは国有地の払い下げにも関係ないわけでありまして…」

注意すべきは、福島議員の質問に対して、安倍首相は二度にわたり「私も妻も一切関係していない」と繰り返していることだ。

それは、感情的になってとっさに出た言葉ではなく、あらかじめ秘書官と十分に打ち合わせて、「強気を押し通そうと決めていたからこその発言ではないか。

安倍首相の発言でもわかるように、安倍夫妻と森友学園の関わりは「総理をやめたときにまでさかのぼる。第一次安倍政権の終焉は2007年8月だ。同学園の籠池理事長は安倍氏のことを「偉人」とまで賞賛し、自分の幼稚園の園児たちに教育勅語の暗誦をさせている。

幼稚園だけではなく、同じ教育方針の私立小学校ができることを安倍夫妻が望んでいたのは間違いない。

その思いをいちばん知っていた今井尚哉秘書官が、同じ経産省出身の谷査恵子氏を夫人の秘書役に据え、財務省との間をとりもってきた。夫人と森友学園との付き合いは十分に把握していたはずだ。

安倍首相が「関係していない。関係があるのなら総理も国会議員も辞める」とまで言い切ってしまったこと。それは今井氏にとって意外ではなかったはずだ。

今井氏は経産省官僚としての長い経歴から、近畿財務局の職員がそこまで踏み込んで決裁文書に経緯を書き綴るとは思ってもみなかったにちがいない。だから答弁の打ち合わせで、「関係があるのなら総理も国会議員も辞める」と安倍首相が大見得を切る気だと分かっても止めなかったのだろう。

一方、佐川氏はあの決裁文書をそのままにしておけないと、この安倍発言で強く思ったのではないか。ひょっとしたら、今井氏に決裁文書の中身を知らせ、対応を協議したかもしれない。

3月26日の参院予算委員会で財務省の矢野康治官房長は公文書改ざんに関し総理大臣や財務大臣の指示はなかったと明言したものの、「官邸の指示はなかったのか」という問いには「あったという事実には突き当たっておりません」とぼかして答えた。

佐川氏は官邸の指示を否定しているが、矢野官房長の言い方からみると、秘書官や補佐官あたりからの働きかけがあった疑いは残る。

今井秘書官と最後に会ったのはいつかと聞かれた佐川氏は「理財局長になったばかりの頃、総理にご説明にあがったとき、そばにおられました」と答えたが、会うことがなくとも、電話やメールで要求や指示はできる。

一部の自民党議員のように、今回の佐川証言で、安倍夫妻の関与はないことが証明されたと喜ぶのはまだ早い。政府が公文書を改ざんするのが民主主義にとっていかに深刻なことなのか。真相解明はもちろん、国民の関心を持続するためにも、昭恵夫人や迫田英典元理財局長の証人喚問がどうしても必要である。

image by: 宮本たけし - Home | Facebook

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