3月4日にイギリスで起きた、ロシア人元スパイ襲撃事件。これをロシア政府による凶行とする英国はじめ欧米各国が即座にロシア外交官を追放、対するプーチン大統領もロシアに駐在する外交官を国外退去処分とするなど、対立が激化しています。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係アナリストの北野幸伯さんはこの状況を「立派な戦争状態」とし、今度予想される展開について記しています。
剛腕プーチン、23か国の外交官を追放!(倍返しも)
「やられたらやり返す、倍返しだ!!!!!!!」(半沢直樹)
「北野さん、古!」と思われましたね? しかし、プーチンの逆襲を一言で表現しようしたら、半沢直樹さんの言葉が一番ぴったりだと思いました。なぜ? 復習からはじめましょう。
3月4日、イギリス・ソールズベリーで、ロシア人スクリパリさん、娘ユリアさんが重体で発見されました。スクリパリさんは、ロシアの元諜報員。しかし、祖国を裏切り、イギリスの諜報機関に情報を流していた。ロシアでは、「裏切り者」「売国奴」として知られています。
問題は、二人の殺害未遂に使われた「道具」です。ロシア製神経剤「ノビチョク」だと推定される。神経剤といってもわけわかりませんが、要は「化学兵器」。スクリパリさんの過去から、イギリスは、即座に「犯人はロシアの可能性が高い!」と宣言しました。「ロシアは、NATO加盟国であるイギリスを、『化学兵器』で攻撃した!」こういうロジックで、メイさんは、欧米諸国に「みんなで一緒にロシア制裁しましょう!」と呼びかけます。
そして、ものすごく成果があったのです。アメリカ、EU諸国、カナダ、オーストラリアなど、なんと25か国が「ロシア外交官追放」に同意した。特に、多くの外交官を追放したのは、
- アメリカ60人
- イギリス23人
- ウクライナ13人
など。そして、ロシアの対応が注目されていました。プーチンさんは、どうしたのでしょうか???
ロシアも、外交官を追放!
そう、もちろん逆襲したのです。
ロシア、23か国の外交官追放 元スパイ襲撃で対立激化
3/31(土)4:19配信
【AFP=時事】ロシアは30日、英国で起きたロシア人元二重スパイ毒殺未遂事件をめぐり、欧米諸国が実施したロシア外交官追放措置への報復として、ロシアに駐在する23か国の外交官を国外退去処分とした。同事件を発端とした外交官追放の応酬は近年最大規模に激化している。
「23か国の外交官を国外退去処分とした……」、すごいことです。追いだされる外交官の数がもっとも多いのは、いうまでもなくアメリカ。
【元ロシア・スパイ】ロシアが米外交官60人を追放へ 報復措置で
BBC NEWS 3/30(金)12:10配信
ロシア外務省は29日、米外交官60人を追放し、サンクトペテルブルクの米領事館を閉鎖すると発表した。ロシアの元スパイに神経剤が使われた英国での殺人未遂事件に対する米国の対応に、報復するもの。
「米外交官60人を追放」
「サンクトペテルブルグの米総領事館を閉鎖」
アメリカと同様の対応とはいえ、すごいことです。プーチンが「目には目を、歯には歯を」ではなく、「やられたらやり返す、倍返しだ!!!!!」(半沢直樹)をしたのは、いうまでもなくイギリス。なんといっても今回の「ロシア包囲網」の主導国ですから。
ロシア、英外交官をさらに50人超追放 計200人超に
朝日新聞 3/31(土)23:52配信
ロシア外務省は31日、英国に対する追加の報復措置で、新たにロシアから追放される英外交官の数が50人以上になることを明らかにした。
イギリスが追放したロシア外交官は23人。ロシアが追放するイギリス人外交官は、50人以上。まさに「倍返しだ!!!」ですね。
追いつめられるロシア
イギリスのよびかけで、25か国がロシア外交官を追放した。ロシアは、23か国の外交官を追放する。追いつめられているのは、明らかにロシアです。ロシアが反撃し、23か国の外交官を追放することで、「負の連鎖」がはじまります。つまり、アメリカ、イギリスは、「さらに制裁を強化する」でしょう。
東部戦線では、「米中貿易戦争」で大騒ぎになっていますね。しかし、私が見るに、「欧米 対 ロシア」の対立の方が深刻です。私たちは、「戦争」という言葉を「広義」で使います。「戦争」は「戦闘」に限定されない。
- 情報戦 = 敵国を「悪魔化」する
- 外交戦 = 敵国を「孤立化」させる
- 経済戦 = 制裁によって、敵国経済を破壊する
これらも「戦争の一部」としてとらえている。米中関係については、少なくともアメリカ側から「情報戦」「外交戦」は行われていません。しかし、対ロシアについては、
「プーチン悪魔化情報戦」
「ロシア孤立化外交戦」
「制裁強化によりロシア経済を破壊する経済戦」
がバリバリ行われています。私の目からみると、これは、「立派な戦争状態」です。
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