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【書評】日本人は知らない、中国が経済成長で失った「正しさ」

お隣の国とはいえ、まだまだ私たちが知らないことが数多あるようです。今回、無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんが紹介しているのは、この20年で40回も中国に足を運んだ著者が、知られざる「中国内部の実態」を詳しく綴った一冊。中国という国の大きすぎる歪み、そしてその原因は一体どこにあるのでしょうか?

戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊
川島博之・著 講談社

川島博之『戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊』を読んだ。著者は東京大学大学院農学生命科学研究科准教授、専門は環境経済学、開発経済学。世界の食料生産についての研究で、世界各国の農村を取材して回った。この20年間で40回ほど中国を訪問している。留学生を通訳代わりにして、農村を訪ね歩いたフィールドワークをもとに書いた一冊である。

中国を13億人の国とみてはいけない。先進国形の消費社会に住んでいるのは4億人だけなのだ。中国は、都市戸籍を持つ4億人と、農民戸籍を持つ、搾取される側の9億人からなる国、「戸籍アパルトヘイト国家」である。「戸籍アパルトヘイト」を止められない中国の失速は目前に迫っている、というのだ。この本では、農民戸籍と都市戸籍をキーワードにして、中国の近未来を語る。

中国政府は国民を都市と農村に2つに区別、それぞれを上位から下位まで5ランクに分け、各層の平均所得を発表している。この感覚は日本人には理解できない。これがアパルトヘイトだ。もし日本でこのようなことをしたら、農民を馬鹿にしている、都市と地方の格差を当然のことと考えている、など多くの批判があがるだろう。2015年の子供から老人まで含めた一人あたりの所得では、都市上位が312万円、下位が59万円、農村上位が166万円、下位が20万円である。

近年は緩やかになってきたが、農民戸籍の人が都市に移り住んでも、子供を都市の小中学校に通わせることができない。そのため、子供を故郷に残して働くことになる。これが「農民工」であり、なんと約3億人にも上っている。農村から出てきた人々を、もとから都市に住む人と分ける一種の差別用語である。

共産党は都市の中産階級の意向に沿った政策だけを採り続けている。だからコメの価格を上げない。農民工の最低賃金も上昇を抑えている。上げると都市部のサービス価格が上昇するからだ。また、工場労働者の給料が上がり、国際競争力が落ちれば、工場で働く労働者だけでなく、北京や上海の本社で働くホワイトカラーが困る。そういうわけで、農民工の最低賃金を上げないのだ。

農民の生活状況の改善は後回し。都市住民のことを真っ先に考える。これが共産党の基本方針である。今後、時間が経過しても、中国の農民が急速に豊かになることは絶対にない。農民戸籍を有する9億人は、社会の底辺で生きていくことになる。戸籍アパルトヘイトにより、国民が農村と都市に二分されていることが、中国が経済成長を遂げることができた要因になっている。

当初は農村から出てきた人の多くが、工場で働いていたため「農民工」と呼ばれた。しかし現在、農村から出てきた人々は、工場だけでなく、都市のいろいろな分野で働いている。これが広義の「農民工」である。都市戸籍を持つ4億人が、都市に出てきた農民戸籍の3億人を、現代の奴隷として低賃金でこきつかい豊かになった。農民戸籍所有者は、これからもずっと貧しくあり続ける

「中国は民主主義を否定し、農民を踏み台にして、戸籍アパルトヘイトのもと、勢いよく成長することはできました。が、それが国内に大きな歪みを作り出すことになり、その是正に途方もない時間が必要になりました。民主主義がない国は、一度間違いを犯すと、その間違いを修正できず、ただ傷を深めてしまうものなのです」と著者。今までにない視点からのレポートであった。

「日本には中国経済の将来について、とても楽観的な人々がいますが、筆者は9億人もの農民戸籍所有者がいることを十分に理解しているため、その未来については悲観的です」。楽観論者たちはそもそも、中国の戸籍制度や9億の農民のことを知らない。わたしもそうだったが、この本を読んで意識が変わった。

「現在の中国の状況と中国政府が行っている対外膨張政策は、戦前の日本が行った政策のカーボンコピーのようです。そうであるなら、その帰結もまったく同じものになるでしょう。そう、中国の対外膨張政策はアメリカとの対立を招き、そして敗れ去るのです」。覇権国は第二位にのし上がった国を必ず叩く。

アメリカはソ連に軍拡競争を仕掛け、ソ連の経済を崩壊させた。あらゆる手段を講じて日本経済の弱体化をはかった。そして、今は中国が挑戦者であるが、案外あっさり片が付くと筆者は考える。中国には国家戦略が皆無であるからだ。戸籍アパルトヘイトのような低劣な内政をとり続ける中国は、外交も低劣だ。

中華思想に染まった保守派を満足させるためには、子供っぽい外交をくりかえすしかない。保守派は世界の現状や外交のあり方などが理解できない。外交当局が相手を見下すような発言をしたりすると、何となく快感を得るのだろう。こんな国が、外交において百戦錬磨のアングロサクソン国家に敵うはずがない。

日本が中国との本格的な戦いを避けるには、尖閣諸島において緒戦で成果を挙げることが重要であり、長期戦を考える必要はない。中国はメンツの国。中国軍が緒戦で敗れると、それを理由にして習近平に面従腹背していた連中が暗躍し始め、中国軍は絶対に攻めてこない。習近平が本当に恐れているのは、日本ではなく彼らなのだ。緒戦で大きく敗れれば、習近平は失脚する可能性が高い。

現在でも中国は徹底的な学歴社会である。その原因は科挙が作った。科挙とは隋王朝時代に生まれたシステムで、この試験に合格した官僚だけが、皇帝の代理として行政を執り行うことができる。そんなことを1,000年も続けてきたので、科挙は人々の考えに深く影響を与えるようになった。この点は、現在の中国を考える上でとても重要である。この制度は巨大な汚職を生む原因となった。

科挙の合格者は必ず見ず知らずの任地に派遣される3年程度で次の任地に異動する。地位は世襲されないが、その権力は絶大である。そのような条件が重なれば、誰だって派手に汚職し蓄財するだろう。中国共産党中央政治局兼重慶市党委員会書記を務めた、薄熙来の汚職の派手だった理由もまさにここにある。

中国人は約1,000年間、このようなシステムのもとで生きてきた。そのため、心のどこかに、勉強ができないから、あるいは商売をする才覚がないからそうした人が農業をしているのだと考えるようになった。中国人は貧困を自己責任と考える。農民でいることも自己責任。弱者に対して思いやりのない社会である。

「科挙制度を作ってしまったがために、中国には武士道も騎士道もありません。その結果、中国の軍人には、忠誠心などありません。国のために戦うなどということは、これっぽちも考えていません。そんな軍隊が強いわけないでしょう」。というわけで、リアル日中戦争もこわくない。もちろん、戦争なんかない方がいい。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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