MAG2 NEWS MENU

日本の「児童虐待」刑罰は軽すぎる。同じことを米でしたらどうなるか

多くの心ある大人が涙した、目黒区に住む船戸結愛ちゃん(5歳)が父親の虐待により命を落とした事件。テレビ番組でも何度も取り上げられ日本中に衝撃を与えましたが、なんとか防ぐ手立てはなかったのでしょうか。『メルマガ「ニューヨークの遊び方」』の著者でNY在住のりばてぃさんは、児童虐待に対する刑罰を「抑止効果」を期待できほど重く厳しくするという対策は重要だとした上で、アメリカで起きた虐待致死事件等の判例を紹介しています。

幼い命を虐待から守るにはどうすればいいの?

(1)警視庁捜査1課長ですら涙

わずか5歳の女の子が、主にひらがなで綴った手書きの言葉は、底知れぬ暗さと悲しみに満ち溢れていた。

ママ もうパパとママに いわれなくても しっかりとじぶんから きょうよりももっと あしたはできるように するから もうおねがいゆるして ゆるしてください

この言葉を残した5歳の少女、船戸結愛(ゆあ)ちゃんは、両親からの虐待を受け続けて亡くなられた。警視庁は父親の船戸雄大容疑者(33)と母親の優里容疑者(25)を保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕した。

いったい何があったのか?

報道によると、結愛ちゃんの遺体の顔には殴られたアザがあり、体重は5歳児の平均体重である20キロの約半分ほど、たったの12キロしかなかったという。ろくに食事も与えられていなかったからだ。

冬の寒い日に水を掛けられ、ベランダに出されることもあり、その細い足には、重度のしもやけの痕も残っていたという。そして、その父親はしつけと称し、5歳の結愛ちゃんに毎朝4時に起き大学ノートにひらがなを書くように強要していた。冒頭の言葉は、その時に書かれたものだ。

この事件を発表する際、数々の殺人事件に関わってきた警視庁の捜査1課長ですら目頭に手をあて涙をこらえていたことや、ニュース番組の生放送中にアナウンサーが思わず嗚咽したことなどまで既にニュースになっている。

アナウンサーはともかく、警視庁の捜査1課長が涙をこらえていたなどと報じられたニュースなんて滅多にない。異例の事件と言えるだろう。

ご参考
フジ女性アナ、虐待女児の「反省文」に嗚咽 肩を震わせ「5歳の子が、どんな思いでこれを…」
5歳女児が両親からの虐待で死亡 発表会見で警視庁捜査1課長が涙

また、7日放送のフジテレビ系「バイキング」では、17年間も演じていた『水戸黄門』の格さん(渥美格之進)役など数多くの時代劇での名演技で知られる大御所俳優の伊吹吾郎さんが、コメンテイターとしてご出演され、「今までずっとあった問題なのに、なぜ児童相談所はもっと踏み込んだ対策をしてこなかったのか。世が世なら、この2人(結愛ちゃんの両親)は市中引き回しの上打ち首獄門だよ」と怒りを爆発させたこともニュースになっている。

ご参考
伊吹吾郎、5歳女児の虐待死に憤慨「両親は市中引き回しの上、打ち首獄門」

「世が世なら、市中引き回しの上、打ち首獄門…」というコメントは、時代劇の大御所俳優さんならではの名言かもしれない。

逆に言えば、今の日本では、どんなに辛く悲しい、人としてまともな心を持つ者なら涙をこらえきれないほどの児童虐待が行われても、その犯罪者が市中を引き回されたり、打ち首獄門になったりはしない。

凡そ以下のような刑法に基づき、最大でも「5年以下の懲役程度の刑罰しか与えられないようだ。

さて、これで本当にいいのか? かつて、これらの刑法が定められた頃の日本では、子どもの人権や命が極端に軽んじられていたということではないとは思うけれど、現代の私たちの感覚からすると、この手の児童虐待に対する刑罰は、もっと重く厳しい内容へ改めた方が良い気がする。なにしろ、今、この瞬間も、周りに頼れる人が全くいない状況で、ひどい虐待を受け続けている子が何処かにいるかもしれない。

幼い命を守るため、私たちは何かすべき。

他にも良いアイデアがあれば、どんどん試した方が良いと思うが、まずは、児童虐待に対する刑罰をある程度の『抑止効果を期待できるくらい重く厳しくする…という対策は、結構、重要だと思う。なぜなら、児童虐待の中には、児童虐待を軽く考えている親が、無意識のうちに、あるいは、しつけのつもりで(しつけと言い訳して?)行っているものも少なくないと思われるから。

刑罰を重く厳しくすれば、自然にそうした児童虐待は減るだろうし、児童虐待への社会全体の意識も高まる気がする。児童虐待への社会全体の意識も高まれば幼い命が失われる前にどうにかしようという考えるようになるかもしれない。

では、どの程度の刑罰が適切なのか?

さすがに、伊吹吾郎さんご提案の「市中引き回しの上、打ち首獄門…」というワケにはいかない。

…というわけで、日本とアメリカでは、法律はもちろん文化や慣習や価値観も異なっており、そのまま取り入れられないだろうけれど、あくまでご参考までに、アメリカで起こった児童虐待に対する刑罰の最新事例について、ちょっと調べてみた。

(2)アメリカの児童虐待への刑罰の例

英語で「児童虐待」は、“child abuse”や“child neglect”と言い、「致死」は“resulting in death”などと表現する。つまり、児童虐待で子どもを
殺してしまった場合は、“child abuse resulting in death”などとなる。

また、「有罪判決」は“conviction”。“convict”は、その動詞形で「有罪判決を下す」という意味だが、「有罪判決を下された被告」という意味の名詞形でもある。

とにかく、そんな感じの児童虐待裁判関連用語からざっと検索し、この1年ほどの間に結審した判例を探してみたところ、次のような興味深い見出しのニュースが出てきた。

「両親は終身刑に加えて85年の懲役…」(Parents get life plus 85 years in child’s death)

これは、2017年11月、ウェスト・バージニア州ハンティントン市の裁判所で下された判決。肋骨が折れ、内臓にまで損傷が見られるなど残酷過ぎるため、虐待の詳細についての描写は控えるが、アロン・マイルス(33歳)、マリア・ジョーンズ(24歳)夫妻は、息子のジャイデン・ジョーンズくん(当時3歳)を日常的な暴行と虐待により殺害

30代の父親と20代の母親が3歳の幼い子どもを暴行などの虐待により死亡させたということで、船戸結愛(ゆあ)ちゃんの事件に近いケースだ。ただし、日本とは異なり、アメリカでは、以下の罪状に対する刑罰が加算された。

その結果、終身刑では収まらない長い懲役刑になった。もう少し細かく補足すると、この両親に対し、複数の罪状が積み上げられ、それぞれ終身刑に加えて85年と105年

いかにも「多様性の国」、アメリカらしい気がする。

世界中から多種多様の文化や慣習や価値観を持つ様々な人種や民族が集まるアメリカには、当然、子育てや子どもの人権についても様々な考え方が存在する。多様な考え方があるというのは、良いことだが、子育てが上手くいっていない親たちの中には、異なる文化や慣習や価値観などを理由に挙げ、虐待を正当化しようとする者も出てくるかもしれない。あるいは、生活環境や性格など何かしらの言い訳やウソにより、虐待を正当化しようとする親もでてくるだろう。

日本人の感覚では信じられないことだが、この広い世界には、平気でウソをついたり、約束を守らなかったり、騙された方が悪いといった考え方が主流になっている国や民族も存在し、そんな人々もアメリカに移住してくる。

そして児童虐待の恐ろしい問題点は、犯罪行為をし続けている親が、いくらでも言い訳やウソをついてごまかせるということ。そんな親のウソや甘えに児童相談所が振り回されている間も、子どもへの虐待は続くだろう。

それで、いったい誰が子どもたちを虐待から守るのか?

そんなわけでアメリカでは、異なる文化や慣習や価値観の壁ですら越えて、ダメなものはダメ、児童虐待は重い犯罪だと知らしめるために、児童虐待に対する刑罰もそれだけ重く厳しいものになっている。

なお、この事件を担当したファレル裁判官は、「かわいそうなジャイデンくんは、死ぬまで拷問を受け続けた。このような苦しみを、今後、決して子どもたちに与えてはならない」とご発言。

その通り。まず、考えるべきは子どもたちのことだろう。他の犯罪と同様、犯罪者側の言い訳やウソよりも、被害者を救うことを優先すべきだ。それに、そもそも、自分の子どもであるとか、小さい子どもで言うことを聞かないとかで、暴力や暴言を振るっていいわけはない。

今もどこかで虐待を受けているかもしれない幼い命をどうすれば守れるのかを、まずは考えるべきだろう。

ご参考
Parents get life plus 85 years in child’s death

せっかくなので別の判例もご参考まで。

同じく2017年11月、オクラホマ州オワッソ市の裁判所で「最悪の児童虐待事件」を起こした20代の両親に対して、130年もの懲役刑が言い渡された。

あまりにも悲惨過ぎるため虐待の詳細については自粛するが、ろくに食事も与えられなかった生後9か月の双子の赤ちゃんの体重は、3,600グラムほどしかなかったという。不幸中の幸いでその双子の赤ちゃんは生きており現在は保護されているが、ひどい児童虐待ということで、なんやかんや罪状が積み上げられ、懲役130年。

ご参考
Parents sentenced to 130 years in ‘worst case of child abuse’ Owasso police had seen
An Owasso police officer called it the ‘worst case of child abuse’

最後にもう1つ。

今回は、どの程度の刑罰が与えられたのか、皆さんに予想して頂こう。

アリゾナ州フェニックス市に住む10歳の少女、エイミー・ディール(Ame Deal)ちゃんは、母親代わりである従妹のサマンサ・ディール(29歳)から顔を蹴られたり、木の棒で叩かれるなど、長年にわたって虐待を受け続けていた。

サマンサだけでなく、その夫のジョン・アレン(29歳)やジョンの母親も暴行に加わり、エイミーに辛いソースを飲ませたり、犬の糞を食べさせるなど、様々な虐待を続けていた。

暑い7月のある日、エイミーちゃんは、アイスキャンディーをこっそり食べた罰として、サマンサによって約86cm×36cm×30cmのおもちゃ箱に押し込められた。気温38℃をこえる暑い日だった。その7時間後、おもちゃ箱に押し込められたエイミーちゃんの死亡が確認された。

さて、どのような判決が下されたのか?

まず、昨年2017年8月に結審した母親代わりである従妹のサマンサ・ディールへの判決は、陪審員が満場一致で…死刑

また、この時点で、ジョンの母親にも24年の懲役刑が確定。

さらに、その3か月後、2017年11月に結審したジョン・アレンへの判決は、こちらも陪審員が満場一致で、同じく死刑

なお、児童虐待事件で、親の立場のカップル両者に対し死刑が確定したのは、アリゾナ州では史上初とのこと。

以上、ご参考まで。

日本とアメリカではいろいろと違うけど、今もどこかで虐待を受けている幼い命を守るため、みんなで何ができるのかを考える材料になったらなと思う。

ご参考
She suffocated a 10-year-old in a sweltering box. A jury says she should die, too.
Ame Deal update: John Allen gets death penalty in murder of 10-year-old girl
ウィキペディアにも

image by: shutterstock.com

りばてぃこの著者の記事一覧

ニューヨークの大学卒業後、現地で就職、独立。マーケティング会社ファウンダー。ニューヨーク在住。読んでハッピーになれるポジティブな情報や、その他ブログで書けないとっておきの情報満載のメルマガは読み応え抜群。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 メルマガ「ニューヨークの遊び方」 』

【著者】 りばてぃ 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け