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3兆円のムダ遣い。六ヶ所再処理工場という「危険な無用の長物」

6月の半ばから矢継ぎ早に飛び出した観のある原発関連案件ですが、この流れを「原発政策の欺瞞と矛盾が勢いよく噴き出した」とするのは、これまで原子力政策の矛盾や見込みの甘さを指摘してきた元全国紙社会部記者の新 恭さん。新さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、その最たるものとして再処理工場を巡る問題を取り上げ、いつまでたっても完成に至らない六ヶ所再処理工場は不要であり、国が掲げる「核燃料サイクル」はすでに破綻していると非難しています。

危険な“無用の長物”となる六ヶ所再処理工場

6月10日の新潟県知事選が終わるのを待っていたかのように、安倍官邸と経産省は、せき止めていた原発関連案件のコックをひねった。

そこから出てきたのは、福島第二原発の廃炉、玄海原発4号機の再稼働、東海再処理施設の廃止…etc。原発政策の欺瞞と矛盾が勢いよく噴き出した

東京電力の社長が福島県知事を6月14日に訪ね、福島第二原発の廃炉方針を表明したのは、もちろん経産省との打ち合わせ通りだ。新潟県知事選で自公の支持する国交省OB、花角英世候補が勝利したことで、柏崎刈羽原発の再稼働に見通しが立ったと踏んでいるのだ。

その前日、日本原子力研究開発機構の東海再処理施設(茨城県東海村)を廃止する計画が原子力規制委員会に認可された。新基準を満たすためには莫大なコストがかかるというのが廃止の表向きの理由だが、つまるところ“不要物の廃棄”だ。高速増殖炉「もんじゅ」とともに原子力政策の失敗作といっていい。

言うまでもなく、原子力施設は後始末が困難である。放射能にひどく汚染された設備や建造物や燃料類を相手に誰がどのように作業し、汚染された物や液体をどこに処分するのか。

何もまだ確立されていないなかで、東海再処理施設の廃止作業は完了まで約70年かかり費用は1兆円ほどであると発表された。例のごとく、最短最少の甘い見積もりを出しているのであろう。100年以上かからないという保証は全くない。

使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す再処理工場は、「原発1年分の放射能を1日で放出する」といわれるほど放射能汚染の危険度が高い。日本には技術的なノウハウがなく、東海再処理施設は、フランスにつくってもらった

実験的な施設とはいえ、トラブルが多く、役に立ってきたとは言いがたい。管理体制のお粗末さも指摘された。施設内のプールには、廃棄物入りのドラム缶約800個が乱雑に積み上がり、内容物が漏れている可能性も指摘されている。

いうまでもなく、原子力発電の最大の矛盾は、いつまでも放射能を出し続ける使用済み核燃料の処分方法が確立されていないことだ。

いずれ、科学技術の力で克服できると見込んで、とりあえずスタートさせたものの、最終的に地中深く埋めておく処分場が、候補地の反対でいっこうに見つからず、使用済み核燃料は各原子力発電所のプールに貯まり続けている。

この状況を打開し、ウラン資源を持たない弱みを解消するための、一石二鳥プランとして浮上し、事業化したのが使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、再利用する「核燃料サイクル」だった。

国は原発から出る使用済み核燃料をすべて再処理にまわすよう義務づけ、そのほとんどは英国とフランスに委託してきた。

日本としては、「東海」の運転によってノウハウを積み上げ、独力で本格的な六ヶ所再処理工場(青森県)をつくるという目論見だったが、結局のところ、六ヶ所の建設についても再びフランスを頼るほかなかった

しかも企業個々の利権がからみ一貫性のない設計となったためトラブル続きで、いつまでたっても完成に至らない。それが六ヶ所再処理工場の現実だ。

6月17日の朝日新聞朝刊一面トップに「日本のプルトニウムに上限」という見出しの記事が掲載された。

政府は、原発の使用済み核燃料を再処理して取り出した「余剰プルトニウム」の保有量に「上限」を設け、余剰分が増えないよう対策を強化する。建設中の六ヶ所再処理工場の運転計画を認可する際に、プルトニウムを使う量に応じて再処理できる量を制限する。

2021年の完成をめざす六ヶ所再処理工場がフル稼働すれば、年に約8トンの余剰プルトニウムが増える。だが、高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉が決まり、核燃料サイクルが絵に描いた餅となった今、「MOX燃料」くらいしかプルトニウムの使い道はない。

それなのに国内に約10トン、英仏の再処理施設に約37トン、合わせて47トン原爆約6,000発分)をすでにかかえている。日米原子力協定で例外的に再処理を認めてきた米国政府からもプルトニウムの削減を求められており、対策が必要になったというわけだ。

具体的には、取り出したプルトニウムとウランを混ぜて普通の原発で使う「MOX燃料」に応じた分量だけしか新たなプルトニウムの取り出しを認めないことにするという。

しかしここで疑問がわく。現在、再稼働している9基の原発のうち「MOX燃料を使うプルサーマル発電を導入しているのは4基に過ぎない。すでに47トンものプルトニウムがあるのに、これ以上、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す必要があるのだろうか。

つまるところ、六ヶ所再処理工場じたいが不要なのである。再処理が必要なら実績がある英仏に頼んだ方がはるかに安くつくことも知られている。

ところが、六ヶ所再処理工場にはこれまでに3兆円近い資金が投入されているのだ。

事業主体の日本原燃は、電事連所属の電力各社(沖縄電力を除く)と日本原子力発電の出資した会社だが、電力各社から日本原燃に注ぎ込まれるカネは、もとはといえば国民が支払っている電気料金である。

しかも「21年の完成をめざす」とはいえ、さまざまなトラブルでこれまで竣工が23回も延期されている。

このほど廃止が決まった東海再処理施設にもあった重大な欠陥が、六ヶ所村再処理工場でも是正できないまま建設が進められた

原子力専門家の小出裕章氏は六ヶ所再処理工場に関する自著で、次のように書いている。

問題は、東海再処理施設でも発生していた「白金族元素が溶けずに沈殿してしまう」というトラブルに対して何の対策もとらないまま、5倍もの規模の施設を作ってしまったことである。その分だけ、トラブルもスケールアップしてしまったのだ。

六ヶ所再処理工場の方が東海よりはるかに深刻な問題をかかえこんでいるようである。

六ヶ所でトラブルが相次いだ高レベル放射性廃棄物の「ガラス固化体」製造工程は、フランスの技術ではなく、すでに再処理事業から撤退したドイツの技術を、石川島播磨重工が導入したものだ。なぜそんなことになったのか。

「日本の原子力産業がそれぞれに独自の利益を求めて、再処理工場建設の仕事を工程ごとに奪い合ったため継ぎ接ぎの工場となってしまった」と小出氏は指摘する。

東海再処理施設で2008年1月までに再処理された使用済み核燃料は、累積で1,180トン。稼働率にするとたったの20%未満にすぎない。

六ヶ所再処理工場の稼働能力も同じように低いと想像される。21年に完成しても、そんな施設に3兆円もかけたのかと批判されるのがオチだ。それなら、米国の圧力のせいにしてあえて稼働させないようにしておくのが得策。そんな経産省の思惑も「余剰プルトニウムに上限」の報道から見え隠れする。

六ヶ所再処理工場を含む核燃料サイクル計画のかなめとなっていたのが高速増殖炉「もんじゅ」だったが、トラブル続きで36年経っても実用化できないまま、廃炉が決定した。

「もんじゅ」をなくして、核燃料サイクルは成り立たない。そこで、政府は「もんじゅ」は廃炉にするが、「高速炉」の研究は続けるという理屈をでっち上げた。それなら、核燃料サイクルの旗を降ろさずに済むというわけだ。

その高速炉とは、具体的にはフランスが開発し日本が協力している「アストリッド」計画のことだ。

しかし、この計画は実現に向かうかどうかさえ不透明なシロモノだ。開発主体のフランスはこのほど、計画の縮小を決定、建設するかどうかを2024年に判断すると表明したのである。

普通の原発より発電コストの高い高速炉から米英独はすでに撤退、フランスも急いで開発する必要性を認めていない。

他国依存をやめ、日本が「アストリッド」計画から撤退すれば、高速炉研究の実態がなくなり、核燃料サイクルという原発再稼働の言い訳を完全に失うことになるが、むしろそれこそが真っ当なあり方だろう。

原発再稼働はすでに正当性を失っている。だからこそ、与党陣営はそれを選挙で掲げることを避ける。そして選挙が終わると、短期的、単眼的利益のために豹変するのだ。

image by: WikimediaCommons(Nife)

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