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ブランド価値の崩落。なぜアンダーアーマーの人気は凋落したのか

1996年の創業以来、競合他社とは一線を画したユニークとも言える戦略で業績を伸ばし続けてきたスポーツ衣料ブランド「アンダーアーマー」ですが、ここに来て売上が鈍化しています。いったい同社に何が起きたのでしょうか。今回の無料メルマガ『顧客を喜ばせる世界の成功企業最新戦略紹介』では著者で米国ビジネスモデルコンサルタントの清水ひろゆきさんが、アンダーアーマーの失敗の原因を詳細に分析しています。

なぜアンダーアーマーは支持されなくなったのか? ブランド価値は「販売チャネル」で決まる

いま、日本でも人気のスポーツ衣料ブランド「アンダーアーマー」の業績が芳しくありません。1996年に創業し四半期連続で20%以上の成長を続けた同社の業績がこのように下降した本当の理由は何だったのでしょうか?

アンダーアーマーは2014年にアメリカのスポーツ衣料で独アディダスを抜き2位となり、特徴あるアイコンのロゴは有名になります。その発端は2015年にブレイクした同社と契約したアスリートのプロゴルファー、ジョーダン・スピークスやNBAのステファン・カリーやアメリカン・バレエ・シアターのプリンシパル(首席ダンサー)ミスティー・コープランドと言った面々の活躍でした。

同社はこれら3人のアスリートが出場するメジャー大会に新作ウェアを着用してもらいネットで特集を組み販売するという販促を展開、アスリートたちの活躍によりゴルフ好きは勿論のこと、バスケットでは所属チームが勝ち進むことでアンダーアーマーのロゴの露出度は高まり、同ブランドは2014年には人気を博するようになります。

また、起用モデルとして採用した初のアフリカ系アメリカ人というバックグラウンドの首席ダンサーの存在により、キャリア志向のエシカルな女性を新たな顧客として取り込むことに成功し、スポーツ衣料ブランドの価値をアップグレードさせていきます。

ボルチモアという失業率や犯罪率の高い場所に創業したアンダーアーマーは、これまでスポーツ用品を扱うビジネスの成功の定石である、資金力をバックに著名なアスリートを広告塔にすることで売り上げを獲得するのでなく、スポーツ界では知名度がまだ低く、異色分野のアスリートを見つけ出し、競合他社とは一線を画すニッチなブランドイメージをローカル発を売りに確立し、成長してきたのです。

しかしここに来て、一時は大手ナイキに追撃できるまでになる勢いのアンダーアーマーが、売り上げを鈍化させています。その原因とは、同社の売りとも言える第2の皮膚とまで言われる機能性と細部にこだわった特徴あるデザインでブランドイメージを築いた流れで一気に急速な販路拡大を加速させたからでした。

Jクルーと同じ戦略を採用、販売チャネルでブランド価値を失墜させた

アンダーアーマーが、Jクルーのようにデザイン性を武器に、他社とブランド価値において一線を画せたのは、Jクルーがプレッピーなファッションではなく着こなすおしゃれさでブランドイメージを変えたように、同社がスポーツのためだけに着用するのではない日常でスポーツウェアを着る楽しさを素材の色遣いやシルエットで訴求したからです。

Jクルーの戦略とは、デザイン性を軸に、量販店以外の販売で希少性を維持し、価値を高めるために質にこだわる高価格の商品構成を実施すると共に、ブランドショップを主に店舗数を増やし露出度を拡大することでした。

片やアンダーアーマーはデザイン性に特化した戦略は同じでしたが、Jクルーとは異なり、中価格帯のチェーン企業(地域密着百貨店コールズや靴のDSWやフェイマスフットウェア)に卸売することで、販売網を広げ、買いやすい価格帯で何とか落ちた売上の巻き返しを図ろうとしました。

結果、Jクルーのファンとなった顧客が求めるおしゃれさの優先は、高価格帯を強化するブランドに合致しなくなり、多くがファストファッションに流れてしまうことになり、店舗数が多くなったアパレルファッションチェーンJクルーはそのブランド価値を低下させ、2016年には前年比8%売上ダウンを記してしまうのでした。

Jクルーと同じ戦略をとってしまったアンダーアーマーも2016年売り上げのピーク後低迷した業績を回復すべく、ブランドショップ以外で同社ブランドを販売するのですが、どこにでも見かけるブランドアンダーアーマーはJクルー以上にブランドの希少性を低下させ、その結果2017年7~9月期には売上が前年比4%減と更に低迷し、ファッション衣料品部門の中枢だった部門長が退任、チーフデザイナーも18年春向け商品を最後に降板。稼ぎ頭の事業である衣料品は売上と共にそのブランド価値も下落していったのです。

アンダーアーマーは販売チャネルを戦術化すべきだった

アンダーアーマーの失敗はJクルーと同じ戦略をとったことも原因と言えますが、それよりも希少性を維持しながら売上をアップさせるために導入した販売チャネルの戦術化のミスだといえます。

なぜならネット通販の攻勢で店舗の業態が悪化したことを差し引いても、同社が卸した大手小売りチェーンのスポーツオーソリティーの閉店や同社商品が品ぞろえの2割近くを占めるチェーン企業ヒベット・スポーツの業績不振が売上には多大な影響を与えているからです。

今後はどの業界でも後発組がブランドを確立した先発組を相手に勝負をするのは必然となりますが、例えばデザイン性によりブランドを構築した後発組がすべきことは、販売チャネルを絞り以下のポイントで売場や商品やサービスを強化し、販売チャネルの付加価値向上と共に自社ダイレクトのオンラインの売上を確かなものにすべきなのです。

付加価値志向スポーツチェーン企業ディックス・スポーティンググッズの売場事例から

デフレが続く日本で価格競争せずに差異化するには、競合相手であるオンラインの売価の値崩れが起きないように、リアルにおける販売チャンネルを吟味し、自社の商品やサービスのブランド価値を維持しつつ、売上を伸ばすことが不可欠なのです。

image by: JHVEPhoto / Shutterstock.com

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日本の上場企業トップと同行し米国優秀企業を紹介した米国ビジネスモデルコンサルタントが、そのトップだけが持つ独自の視点で利益を生み続ける現場演出から分析。日本の優秀企業が、米国企業から導入し、顧客を喜ばせた「オンリーワンになる法則」を事例で解説。<少量生産・高付加価値を可能にする3rdビジネス>を発信する

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【著者】 清水ひろゆき 【発行周期】 不定期

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