北朝鮮に対し「石油精製品輸出の停止」の追加経済制裁を求め、国連安全保障理事会に文書を提出したトランプ大統領。この動きを受けた国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは、自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、北朝鮮の非核化スケジュール未提出にトランプが苛立ちを露わにしている証拠だと分析。北朝鮮を守るためにロシアと中国が追加制裁に反対している現状も記し、米の11月中間選挙後に大きな動きがみられるだろうとの持論を展開しています。
北朝鮮問題、トランプの忍耐が限界に近づいている
北朝鮮核問題は、6月12日の米朝首脳会談以降、落ち着いています。しかし、最近、とても重要なニュースがありました。なんと、アメリカが、国連安保理で北朝鮮への「追加制裁」を求めたというのです。しかし、安保理常任理事国の中国、ロシアに拒否されました。
中ロ、石油製品禁輸の保留要請=対北朝鮮で米提案─国連安保理
7/20(金)6:33配信
【ニューヨーク時事】米国が先週、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会に求めた北朝鮮に対する石油精製品輸出の停止について、ロシアと中国は19日、さらなる検討時間が必要として、保留を要請した。安保理外交筋が明らかにした。保留期間は6カ月。
アメリカは、「石油精製品輸出の停止」を求めた。すると、「緩衝国家」北朝鮮を守りたい中国、ロシアが、「保留」を要請した。なぜ、アメリカは、「追加制裁」を求めたのでしょうか?
米国は先週、制裁委に送った文書で、北朝鮮が船舶間の洋上積み替え「瀬取り」で、石油精製品を少なくとも89回密輸入し、安保理決議が定めた北朝鮮の年間輸入上限量50万バレルを超えたと主張。北朝鮮に対する石油精製品輸出の即時停止を加盟国に命じるよう制裁委に求めていた。
(同上)
「瀬取り」が問題視されているのですね。
これまでの流れを少し振り返ってみましょう。RPEでは大昔から、金正恩の真意は、「父・金正日の成功をまねることだ」と書いてきました。つまり、
- 「非核化します!」と宣言する
- 交渉で、「制裁解除」「経済支援」「体制保証」を得る
- でも、ちゃっかり核兵器は保有しつづける
そして、6月12日、トランプさんと金正恩さんが会った。ディールは、
- 非核化すれば、体制保証
- 体制保証すれば、非核化
でした。トランプは、「制裁解除」「経済支援」の約束を一切しなかった。そして、金は「完全な非核化」を世界に約束した。「完全な非核化なくして体制保証なし」ですから、トランプは、事実上金に何も与えていない。それで、私は、「米朝首脳会談は大成功だ」書きました。
● 断たれたのは金正恩の逃げ道。米朝会談は「トランプ大勝利」で確定
皆さんご存知のように、世界的にこの会談は、「大失敗だった!」といわれています。
何はともあれ、米朝首脳会談で、金は約束した。これで、「ウソ」「ホント」の基準が設定された。金が何も約束していなければ、どうして彼を「ウソつき」と批判することができるでしょうか????
そして、ポンペオさんを中心に、北の完全非核化にむけた交渉が開始された。予想通り、交渉は難航し、ほとんど進展がないようです。当たり前ですね。金の意図は、
- 「非核化します!」と宣言する
- 交渉で、「制裁解除」「経済支援」「体制保証」を得る
- でも、ちゃっかり核兵器は保有しつづける
なのですから。そして、「緩衝国家」北朝鮮を守りたい中国、ロシアが、金を守っています。
トランプは2017年4月、習近平とはじめて会い、彼のことが大好きになってしまいました。これ、私がいっているのではなく、トランプ自身が、「私は彼(習)が大好きだ!」と宣言していた。ところが1年過ぎ、「習はウソつきだ」ということがわかり、米中貿易戦争を開始した。
2018年6月、トランプは金と会い、彼のことが大好きになってしまった。しかし、トランプは今、徐々に金に対する不信感を増大させている。だから、「石油精製品の禁輸を」といいはじめた。
そう考えると、11月の中間選挙以降、また北朝鮮問題が盛り上がっていくという感じでしょうか。私たちは、金がマジで非核化し、制裁解除、経済支援、体制保証のトリプルプレゼントを受け取ることを願うのですが。そうなる可能性は、どんどん減ってきています。
image by: shutterstock