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テスラ社のイーロン・マスクに7兆円もの資金を提供する組織の名

先日、イーロン・マスクが投稿した「テスラ株を非上場にする」というツイートを受け、同社の株価が高騰したことが大きく報じられました。彼はなぜ一度上場した株を非上場に戻す決断を下したのでしょうか。世界的エンジニアの中島聡さんは自身のメルマガ『週刊 Life is beautiful』で、イーロン・マスクが社員向けに書いたメールなどを引きながらその意図を解説。そして今回の一連の動きに対して「前例のない巨額な非上場化であり、いかにもイーロン・マスクらしい」との見解を示しています。

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2018年8月14日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール中島聡なかじまさとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

株式公開する理由、非公開に戻す理由

先週の火曜日、テスラのCEOであるイーロン・マスクが以下のようなツイートを投稿し、市場に大きな動揺を与えました。

NASDAQに上場しているテスラ株(ツイートの前までは1株$342)を、一株$420で引き取って非上場にする、という提案です。

株価はこれを受けて高騰し一時は$387.46を付けましたが、これによりショートセラー(日本語に訳せば「空売り筋」)の含み損が一気に$1.3billionにまで膨らんだそうです。

ショートセラーとは、ターゲットにする会社の株が高値の時に空売りし(株を一時的に借りて売ること。厳密には、オプションを使いますが、実質的には同じです)、直後に投資家たちの不安を煽るような情報を流し株が下がった時に買い戻して利ざやを稼ぐ投機家たちのことです。

テスラのように、利益が出ていないものの、将来性に期待して価格が(現在の収益力と比べて)割高になっている会社の株がショートセラーにとっては絶好のターゲットでそれが株価の乱高下を招いています

テスラが実際に一株$420で非上場化されるとなれば、空売りした株を買い戻さなければならないショートセラーたちは大損をすることになります。

その後、テスラは公式ブログに「Taking Tesla Private」というエントリーを投稿しました。このエントリーには、イーロン・マスクが社員向けに書いたメールが紹介されており、

ことを理由に、非公開にすることを計画していると述べています。

イーロン・マスクとショートセラーの間の戦いは、テスラが上場して以来続いており、非上場化に成功すれば、単にショートセラーたちとの戦いを終わらせることが出来るだけでなく、ショートセラーたちに思いっきり痛い目に合わせることが出来るのです。

(こんな言い方をすると、怒る人もいるかも知れませんが)この非上場化は、ショートセラーたちとの戦いを一気に終わらせる核攻撃のようなものなのです。幸いなことに損をするのはショートセラーたちだけで一般の株主には被害が及ばない点が、広島や長崎への核攻撃とは大きく異なる点です。

そのメールには、さらに、

と述べていますが、これは社員や既存の株主にとっては重要な話です。

非公開になった場合の一番の問題は社員のストックオプションですが、6ヶ月に一度とは言え、自由に売買が出来るのであれば、インセンティブの意味合いを失わずに済みます。

はっきりしないのは、株価をどうやって決めるか、です。上場しているからこそ「株価を市場に決めてもらう」ことが出来るわけで、それを失ったテスラの株の価格を、誰がどんなプロセスで決めるのかは分かりません。

しかし、ソフトウェアエンジニアがたくさんいるテスラなので、株主専用のオークションシステムを作って、そこで(株主の間での)公平な価格を決めるつもりなのかも知れません(私であればそうします)。

ちなみに、非上場にするには既存株主の過半数が賛成する必要がありますが、今回は$420という魅力的な価格で買い上げてくれる投資家を見つけたそうなので、株主には

の二つの選択肢があります。

非上場株を持つことが出来ない機関投資家は、賛成した上で$420で売りぬけるでしょうし、熱烈なイーロン・マスクファンは、非上場になっても株を持ち続けることを選ぶでしょうから、過半数の票を集めることはそれほど難しいことではなさそうです(イーロン・マスク自身が20%の株を持っています)。

株を$420で買うと約束してくれた投資家が誰なのかは公表されていませんが(公表されました→追記をご覧ください)、巷ではサウジアラビアのお金持ちだという噂が流れています。私は、それよりは、(既に株を5%ほど所有している)中国のTencentか、(やたらとお金を持っている)ソフトバンクである方が、夢が膨らんで良いと思います。

しかし、今回の件は、会社とは何か上場とはどんな意味を持つのかを考えさせられる良い機会になりました。これがうまく行けば、Facebook、Amazon、Googleが非上場化を真剣に考え初めても全く不思議はありません。

この3社にとって、株式市場はすでに資金調達のための道具ではなくなっており、株価が意味を持つのは、社員にインセンティブを与えるストックオプション(もしくはストック)と、現金では不可能なほどの(株の新規発行による)大型買収の時のみです。

テスラがやろうとしているように、非上場になった後にも(比較的自由に)株を売買出来るようにするのであれば、非上場にしてしまった方が経営しやすいのは事実です。

こうなると、テスラのように非上場化した会社の株を取引するための(NASDAQのような)市場が作られても不思議はないと思います。SEC(証券取引委員会)の厳しい規制から逃れるには、Accredited investor(適格投資家)のみが売買出来る「閉じた市場」にする必要があると思いますが、ニーズは十二分にあると思います。

そして、そんな市場が出来れば、UberやSlackのようなユニコーンも、NASDAQのように厳しい規制のある市場に上場するよりは、そんな閉じた市場への上場を選択する可能性が高いと思います。

【追記】このメルマガの配信順位をしているときに、イーロン・マスクがファンドの提供者がサウジアラビアの政府系ファンドであることを公表したので、追記します。「Musk says Saudi fund wants to take Tesla private, justifying his ‘funding secure’ tweet」によると、

とのことです。一株$420だと、株価総額は$70billion7兆円強)になりますが、3分の2の株主が株を持ち続けることを選択すれば、必要なお金は$23.3billionです。サウジアラビアの政府系ファンドは$500 billion以上の資産を持つので(参照)、全てをカバーすることは十分に可能です。

しかし、そうなるとサウジが40%近い株を持ってしまうことになります(すでに5%を所有しています)。それはそれで少し問題なので、私の予想するに、ソフトバンクやアップルに声をかけて、もう少しバランスの良い株主構成にしたがっているのだと思います。

いずれにせよ、これは前例のない巨額な非上場化であり、いかにもイーロン・マスクらしいと言える動きです。

image by: shutterstock

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2018年8月14日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込864円)

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