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女子水泳と男子体操の工夫のない報道が、東京五輪を盛り下げる

早朝開催やサマータイム導入など、競技の本筋とは別のニュースが目立つ、東京五輪を巡る一連の報道。確かに一部のアスリートについてその記録等が熱狂的に報じられていますが、この流れに異を唱えるのは、アメリカ在住の作家・冷泉彰彦さん。冷泉さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、女子水泳と男子体操を巡るメディアの「開催国失格」とも言える報道姿勢を疑問視するとともに、「報じ方に工夫が必要」との辛辣な意見を記しています。

もう少し盛り上げられないか、五輪報道

2020年までもう2年しかありません。開催国として、五輪というイベントを成功させるための時間は刻一刻と過ぎて行きます。運営だけではありません。競技に関しても、開催国として歴史的な成績を残すように準備していかなくてはなりません。

そのためには、頂点に立つアスリートに対する関心を高め必要十分でしかも正確な報道をしていかなくてはならないと思います。どういうことかというと、全く可能性がないのに「金メダルへの期待」を煽ってはアスリートに対する誤ったプレッシャーになりますし、反対に可能性があるのに「無視」が続いては競技の盛り上がりを実現できなくなります

また、一部のスター選手に関して異常な人気が続いて、報道もそれを煽るようなことになると、競技によっては代表選考が歪められて、真の実力者が代表になれないという事態もあり得ます。

こうした問題を防ぐには、とにかく報道がもっと増えて、特にファクトに関する報道が行き渡る中で、事実に基づいた期待感なり競技を楽しむ風潮ができて行くことが必要です。サッカーのW杯がなんだかんだ言って盛り上がったのは、印象論とか、甘い期待感、あるいはスター優先主義とか、極端なその反対といった良い加減な報道ではなく、選手の顔ぶれや状態、そしてチームの内情と、世界のレベルについて圧倒的な情報量が行き渡っていたからだと思うのです。

その点で、五輪に関する報道については、どうしても不安が残るのです。

一つの例は、水泳の池江璃花子選手に関する報道です。池江選手は、何十年に一人という逸材であり、もしかすると100のバタでは金が取れるかもしれませんし、200のフリーなどでメダルに絡む可能性もあります。バタとフリーというのは、平とかバックと比べると体格が大きな要素となるわけで、そこでこれだけの戦闘力を持った選手の出現というのは大変なことだと思います。

では、メダルは取れるのかというと、実は現時点での彼女のタイムでは十分ではないのです。18歳を過ぎて身長や手足の長さの成長は止まった彼女ですが、まだまだ泳ぎは発展途上であり、十分にチャンスはあるとは思いますが、現時点ではトップレベルまであと一歩のところです。

ところが、池江選手に関する報道というのは妙なことになっています。何かにつけて「日本新を更新」とか「日本新で優勝」という派手なタイトルで報じられ、まるで物凄いことをやっているような感じで報じられています。もちろん、それ時代は凄いことなのですが、2020を意識するとなると、もっと違う期待感があって良いように思うのです。

正確に言うと、選手本人には酷なのですが、池江選手は「もっともっと日本新を更新する」必要があるのです。と言うのは現在の世界新あるいは五輪新の記録には日本の水泳界は届いていないし、そんな中で彼女が持っている日本新記録を更新して、世界水準に追いつくためには、どんどんタイムを向上させなくてはならないのです。

そして、そのタイム向上が間に合えば2020年に勝てるし、間に合わなけらばダメという厳しい戦いをこの選手はずっとしているわけです。「日本新」を画期的だと言う派手な報じ方からは、その池江選手の本当の戦いは見えて来ないし、それでは、彼女を本当に応援していることにはならないのではないでしょうか?

別の問題があるのは男子体操です。

男子体操といえば、内村航平選手という絶対的なエースが牽引してきたわけですが、内村選手はキャリアの最晩年に差し掛かっています。そのことは、ご本人も意識した上で、東京という区切りを目指して頑張っているわけです。

では、東京は内村頼みなのかというと、そんなことはなく、田中がいるし、白井、萱、谷川兄弟など新しい世代も育ってきています。いわば、分厚い層がしっかり出来ていて世代交代も進行しているのです。

ということは、スーパースターの内村にしても安泰ではないのです。そんな中で、内村が代表の座を守って活躍するのか、それとも新世代が追い上げてくるのか、大変にスリリングな状況になっています。

仮に内村が東京の前に辞めるようなことになれば、それはそれで新世代が伸びたのであれば、全日本としては悪いことではないし、内村が意地を見せて残れば、それはそれで大きな精神的な核になるでしょう。

そのような男子体操の熱気もあんまり報じられていないように思います。その他の競技も含めて、面白い戦いがすでに白熱しているのですが、報じ方に工夫が必要ではないかと思うのです。

image by: Ned Snowman / Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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